1つの魂のお話 7

<<前のお話   次のお話>>

人間が行き交う街中。
ジメジメした路地で生まれた。
兄弟がいたような気がするけど、気がついたら自分だけ人間に捕まってしまい。
一人になってしまった。

人間の家に連れて行かれた。
家の端っこで小さくなる。

「あぁ最悪だ・・・また人間に殺されるかもしれない。」
家の中はジメジメしていて、あの路地と同じような感じだ。
家の奥から、色白の女の子が出てきた。

前に経験したことがある人間の人種とは違うように見えた。
肌が白くてふっくらしていて柔らかそう、優しそうな顔をしている。
笑うと目がなくなるみたいに細い目をしている。
私をそっと抱き上げて、体を撫でてくれる。
大丈夫だよ。怖くないよ。と言葉をかけてくれる。

何だ?何だ?何でこんなに優しくするのだろう?
でも人間はいつ心がわりするかわからない。
優しくしたと思ったら、理由もなく命を奪う。そう言う生き物だ。
信じちゃダメだ!

そのまま女の子に抱かれながらコンクリートのシャワー室に連れて行かれた。
シャワーと言ってもホースで水浴びする場所だった。
奴隷の時の家よりもはるかに貧乏くさく設備が整っていない家だ。

女の子は、自分の体より大きい桶の中に暖かいお湯を入れて持ってきた。
その中に水を入れて湯加減を見ている。
そっと僕の体にお湯をかける。
暑いお湯をかけられるのかと思って怖かったが、そのお湯は、暑くなく僕の体と同じくらいの温度でとても心地が良かった。

女の子は優しく僕の体を撫でて、洗ってくれているようだった。
絡まっていた体の毛もちょっと強引に解いてくれた。

その後、美味しいご飯を与えてくれた、水も与えてくれた。
その後は一緒にボール遊びをしてくれた。
もう人間が怖いと思わなくなった。
神様が言っていた通り、人間は進化したのだ!

その家族は、女の子と中くらいの女の子と大人と同じくらいの大きさの女の子と、お父さんとお母さんとおばあさんが何人かいた。

お母さんはいつも忙しそうで、眉間にシワを寄せて怒っているように見える。それでもいつも僕に食べ物を与えてくれて、たまに撫でてくれる。

お父さんは、ちょっと偏屈な感じの人でいつも怒っているようだった。僕のことも認めないという態度をしていた。偏屈なお父さんは家族と衝突することが多く、家族の中で厄介者のように思われていた。

おばあさんは数人いたが、同じような顔をしていて、僕に関心がなかった。
一番下の女の子は、僕のことが大好きでいつも一緒に遊んでくれる、最高の友人だった。
中くらいの女の子も大きな女の子も僕の事を大好き!と言ってくれてたまに遊んでくれた。

大きな女の子はたまに大人と同じような困った顔をする時がある。そしてその顔をする時間が日に日に長くなっていった。
大人になると困った顔をするらしい。
一緒に遊んでくれる一番小さい女の子も成長するに連れて困った顔をするようになった。
中くらいの女の子もそうだ。

みんなが成長するに連れて、家族みんなが困った顔をするようになった。
僕だけ楽しい気分だ。
やっぱり人間は大変だ。
苦しみの生き物なんだ。
人間にならなくて本当に良かった。

ある時から、お父さんとお母さんが怒鳴り合いの喧嘩をするようになった。
それを止めようと大きな女の子は、お父さんを責め立てた。
さらにみんなの怒りがエスカレートした。

お父さんはすごい剣幕で僕の所にきて僕を叩いた!何度も何度も叩いた!
何で叩くのかわからなかったけど、すぐに大きな女の子が来て僕をかばってくれた。
その後、小さな女の子の部屋で女の子に守られながら一緒に寝た。
大変な出来事があったけど、僕は全然怖くなかった。
だって女の子が助けてくれるし、守ってくれるってわかっていた。
だから全然怖くなかったし、安心していた。

次の日も、その次の日も喧嘩が続いていた。
お父さんは、僕と2人の時に、僕の事を蹴飛ばした。
その時は周りに誰もいなかったから、誰も助けてくれなかったけど、1回蹴飛ばされただけだった。
じっとお父さんの事を見ていると、叩くような素振りを見せて僕を脅した。
もう叩かれたくなかったので、その場を去った。

あれからずっと家の空気が重い。みんな不機嫌で困った顔をしている。お父さんはさらに怒った顔をしている
お父さんと家族は、たまに怒鳴り合いの喧嘩をした。大きな声で言わなければ、相手が聞こえないのかもしれないと思った。

僕はその喧嘩を見ていて思った。
本当は誰も悪くない。
人間の心がそうさせているだけ。
心の中の「不安」という気持ちが、困った顔を作り出している。
みんなその不安から逃れたくてもがき苦しむ。
そしてその不安から逃れられない原因を誰かのせいにして、その人を責めたりする。
多分、今はお父さんが責められているのだろう。

本当は不安な事など1つもないのに、勝手に不安を作り出して、そこから逃れたいという思いが出てきて、そこから逃れられない事を誰かのせいにして衝突をする。
お父さんは偏屈だからみんなの非難の的になってしまったのだ。

人間の心は厄介だ。
人間じゃなくて本当に良かった。

<<前のお話   次のお話>>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?