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家族のなかで意見がちがうとき、どうしたらいいのだろう。

「わたしは痛みさえなければいいと思ってるんです!」

意見の違う家族がいるなかで、状態を説明したとき、やっとのことで妻が発したことばがこれだった。奥さんはやっとのことでこうつぶやき、そしてすぐにうつむいた。

家族間で意見がちがう場合、そして、その意見を言うひとのちからが大きい場合、わたしたちはどう対応したらいいのだろうか。

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施設に入る高齢者は、それでなくてもたくさんの病気をかかえ、いつ何が起きてもおかしくない状態だとおもう。それでも施設に入る時点では、元気で話ができて、そしてご飯もしっかり食べられるひともいる。そんな状態では、家族も《 急変時 》の想像がつきにくい。
それで、なにかあれば病院に行く選択肢をしている家族も多くいる。

そうしているうちに本人も、しっかりおもいが伝えられなくなってしまい、最期をどう過ごしたいかは家族に委ねられる場合がとても多い。

いちばん身近にいる妻は、もうこれ以上痛い思いはさせたくないとおもっていても、他の親族がそうはいかない、と意を唱えてきた場合に、妻はおおきな声で「もうこれ以上なにもしない」と言えないこともある。

実際、家族間の調整をどうしたらいいのだろう、と悩んだことは何度もある。意見のちがう家族が顔をあわせたときに説明をしたけれど、結局いまいち噛み合わず、『病院に連れて行ってほしい』という意見を採用せざるを得なかった。ほんとうはここで、ゆっくりとファシリテーター役になって、状況を説明しつつ、意見のすり合わせをしていけたら良かったのかもしれないな、と今となっては思う。

結果、状態を見ながら、経過を見ながら、病院受診することとなり、その結果、今なんでこうなっているのかがわかり、その結果、『これ以上の治療はしない』という選択をすることになった。

あれだけ異を唱えていた親族も、状態を検査してしっかりわかった上で、なんどもなんども家族で話し合いを重ね、ようやくその結論に達した。

『これ以上の治療は、しない』

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当の本人は、声をかけると笑顔を見せるのがやっとの状態で、声は出せないし胃瘻からの栄養だし、尿道カテーテルも入れていた。後期高齢者にじゅうぶん入っていて、もうじゅうぶん頑張って生きているように見えた。
わたしたちは、もうこれ以上痛い思いやつらい思いはしてほしくないと思っていた。できることなら、治療してスッキリ元気になって帰ってきてほしい。それはもちろんで、その思いはやまやまだった。
だけど、どんな治療が必要か治療に耐えうる体力が残っているか、その辛い治療をしてどれだけそのあとの時間が穏やかに過ごせるかを考えると、医療にも限界があることは、うすうす感じていた。

異を唱えている親族は、少人数で、そのひとのせいで意見がまとまらないように思えた。

でも、そのひとはそのひとで、一生懸命、本人の命と向き合っていたのだ。

これ以上、なにもできることがなかったんだ、どうしようもなかったんだ、ということがじぶんにとってちゃんと納得できなければ、家族を簡単に見放すようなことなどできない。
ことばにして言われたわけではないけれど、「他の親族になんて説明したらいいかわからない。だからちゃんと見てくれ」と言ったそのひとのこころの奥底には、そんなおもいがあったのではないだろうか。

このときに読んだこの本のなかでも、

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親のいのちを決めるとき、涙がぼろぼろと溢れたと、そして、ものすごく悩んだ、と書いてあった。

親じゃなくても、たいせつなひとの、たいせつないのち。
そう簡単に決められなくてあたりまえかもしれない。
本人にも、親しい家族にも配慮しつつ、意見を対立させる親族にもやっぱり悩む権利はあるし、それは真剣に向き合っているからなのだから、その思いにも寄り添う必要があるのかもしれない。

病院で検査をしてもらった結果、何が起きているのかがわかって、「これ以上なにもしない」という決断をくだしたご家族一同。意を唱えていた親族も、それに同意をされた。

「他の親族に説明がつかない」と言っていた親族のことばは、一見、他のひとからどう見られるかばかりを気にしているように見えて、自分が不利益を被らないための勝手な意見のようにも見えた。
でも、その立場に立ってみると、そして、あの本を読んだあとでは、このことばの奥にある思いのようなものが滲んで見えて、一概にその異論を責めることはできないとおもうようになった。

どんな選択をしても、取り返しのつかない命の選択なのだから、揺らいで当然。
その揺らぎに振り回されるように感じてしまう、まだまだ未熟者なわたしだけど、その揺らぎをも受け止めていけるようなおおきな器を身に着けたいと心から思う。

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