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大正生まれの、最期のうた。

「あ、今夜かもしれない。」
「ううん。。。明日まではもたないかもしれないな」

ご本人の呼吸状態や血圧の状態から、なんとなく、感じ取れることがあります。それは、看護師の知識からでもありますし、経験上の直感からでもあります。

だけど、人はなかなか死ねないもの。
人の生命力ってすごいんだ、と実感することもあります。

すこしずつ、すこしずつ、ご飯が食べられなくなっていっていた、大正生まれのおじいちゃん。そう100歳超えです。

なにか食べられるものがあれば、食べられたら、とプリンにしたり、ゼリーにしたり、あんぱんなら食べられた! とあれやこれやと試す日々。
家族も望んでないし、もうそんな工夫しなくていいんだよーという意見の職員も。なにが正解なのかはわからないけれど、無理やり食べさせるわけじゃなく、食べられるものがないかを模索するのは悪いことではないんじゃないかと思うのです。

そんななか、急に呼吸状態が悪くなりました。

もうだめかもしれない。

そういう状態になると、静かに過ごせるように、そして家族が付き添えるように、個室へご案内します。

そこで家族が泊まるもよし、いつ来てもご家族とご本人とでゆっくり時間を過ごしていただけます。

そして、点滴だけになって、血圧も低く、今日だろうか、明日だろうか、とみんながドキドキする日々。
覚悟はしていても、やっぱりその瞬間に出逢うとおもうと緊張が走るし、それに気づかないでいた、なんてことになっては大変です。

看護職側も、いつ夜中に連絡が来るかわからない。
そんな状態が約1か月続いていました。

栄養状態はもともと悪く、かなり前から傷ができていたりして処置をしている方でした。
毎日、毎日、処置をしていて、どうにかして悪くならないように、と考えていました。食事のとれない低栄養状態では、良くなることをどうしても考えられなかったのです。

そんなある日のことでした。

あれ? ちょっとここ良くなってる・・・。

表皮剥離だけの部分が、表皮がくっついている感じになっていたのです。
良かった。
これで処置を軽いものに変えられる。

死を間近に控えた方は、低栄養状態であることも多く、点滴だけで生きられている間に、たくさんの褥瘡ができてとても痛々しいからだになってしまうことが多いのです。

点滴だけなのに。それが良くなることがあるなんて・・・!

うれしくなって、処置を続けていました。

すると、頭のなかでなぜか「AMAGING GRACE」が流れてきたのです。

え・・・? なんで?
なんか、不吉だなぁ・・・。

と思いつつも処置を続け、きれいに体位をととのえたあと、いつものように終わりましたよ、お疲れ様でした、と話しかけたとき。

呼吸、してない・・・?

すぐに瞳孔を確認すると、今までよりもすこしおおきくなっていて、対光反射といって、ライトをあてて瞳孔がキュっと小さくなる《 対光反射 》がありません。

ああ、処置中に亡くなられたんだ・・・。

そのときに気づけなかったことは、ショックでしたけど、でも、朝の時点で血圧は頸動脈が触れなくなっていたくらい、つまり70もないくらいだったのです。

だから、もういつ亡くなられてもおかしくなかったのです。

それにしても、処置の途中であたまの中で流れてきた「AMAGING GRACE」きっと、あの曲が流れた頃にいかれたんだろうな、と思うのです。

このnoteを書くのに、スペルが合ってるかどうかを確認するために調べたら、アメリカではお葬式や追悼式に多く使われる曲なのだそう。そんなこと知らなかったし、おじいちゃんもキリスト教ではなかったはず。

そんなことがあるものなんだなぁ、とただただ不思議でした。

看護師になろうと思った中学生の頃に読んだ『僕のホスピス1200日』という本のなかで、

「死んだらちゃんと戻ってくるから」
「戻ってきたってわかるような合図をしてね」
「そうだね、じゃあろうそくを揺らすよ」
「わかったよ」
そんなやり取りをして、その後、ろうそくが揺れた

みたいなエピソードがあって(もうずいぶん昔だし、もう本は手元にないので、違ってるかもしれませんが)、そんな死後についてのやり取りができるっていうのがすてきだな、と思ったし、ろうそくが揺れたことでそのひとがやってきた、と感じる先生のこころもすてきだな、と思ったものです。

医療の世界に生きていると、根拠ってものすごく大切で、根拠のないケアや処置なんてあり得ないです。

でも、ほんとうは根拠のないものだって大切なものはあるんです。
目に見えるものだけじゃなくて、見えないもののなかにいろんなことを感じ取るためのヒントみたいなものがたくさんあるんだろうな、と思いました。

そういうものも感じ取れるような感覚を身につけていきたいし、忘れたくないなと思うのでした。

いつもありがとうございます! いただいたお気持ちをパワーに変えて、どんどんまわしていきます!