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もうひとつの世界を生きる方法

「あれ、これ、どこかで見たことがあるような気が・・・」

ふとなにかを見たり、経験したとき、デジャビュのような感覚を感じることがある。
なんだったっけなぁー。あのとき・・・? いやちがう。うーんと。・・・と考えていると、ああ、あれだ、と思い出す。それは最近読んだ小説だったり、ずいぶん前に読んだものがたりの景色だったりするのだ。
本で読んだだけなのに、その世界にどっぷりつかっていたものだから、あたかもじぶんが体験したできごとのように、現実の世界でデジャビュのような感覚を感じることがある。

「本を読むことで、人生は一回きりだけど、その世界を体験することができるんだよ。」

高校の頃に通っていた塾の先生が言っていた。
あれはまさに、ほんとうだったのだ。

ものがたりのなかで疑似体験することで、現実世界でははじめての経験だったとしても、そういえば、こういう価値観のひともいたなぁ…とか、こんなふうに言われると傷つくって言ってたなぁ、とか、現実のできごとに対しても対応することができる、なんてことがある。

ああ、そうだ。
ものがたりを読むことで、経験値が増えるのだ。

「経験でしか理解できないんだよね」

尊敬するともだちが言っていた。
視野がひろくて知識が広くて深くて、とても尊敬しているともだちのことば。…だけどその時のわたしは、正直こころの奥がちくっとしてなんだかせつなかった。
経験しなければ理解できないのか。
それってつまり、経験できないことはわからない。
どんなにわかろうとしても、知りたくても、限界があるってことなのかな。
じぶんには届かない世界がある。この世にはそんな場所がたくさんある。
そんな気がして、せつなかった。

でも。
もしかすると、いや、本で読んだだけではわからないこともあるだろう。本で読んだくらいでわかった気になんてならないで、なんてこともあるとおもう。
でも、それでも。

本を通してその世界を疑似体験することで、
その世界を感じることで、
体験にちかいなにか感覚を感じられるようになるんじゃないだろうか。

そして、それはひとの痛みをよりからだで感じられるようになることかもしれないし、
目の前のおおきな悲しみを乗り越えるちからになるかもしれない。

ものがたりの世界に入って、そこから出てくると、からだのなかにあった絵の具をごちゃまぜにしたような感情が、水をたらしてにじませてすこしずつ溶かして流れていくような感覚になる。

音楽でしか流せないものがあるように、
物語でしか流せないものもまた、あるのだ。

だからわたしは、どうしようもなく、
ものがたりのなかに入りたくなる。

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