性格形成は家庭環境とは無関係?(1) 安藤寿康「日本人の9割が知らない遺伝の真実(SB新書)」を中心に
はじめに
昔から「氏か育ちか」という議論がある。近頃は「氏」支持派が優勢なようで、体型はもちろん、性格や知能、才能などにおいても遺伝的な影響が強調される風潮がある。こうした風潮を支える根拠としてしばしば取り上げられているものとして(人間)行動遺伝学、とくに双生児法による研究がある。
遺伝の影響が大きいという主張だけなら、私もとくに違和感を感じない。たとえば私は自分の父親と外見や性格が似ているし、有名スポーツ選手の親がかつては同じ分野で活躍していたという話もよく耳にするからだ。
しかし双生児法に関連する話題のなかには「それって本当?」と聞き返したくなるものもある。その一つは、性格形成において「共有環境(家庭環境)の影響は非常に小さい」という主張である。
行動遺伝学のリーダ的存在である、安藤寿康氏の著書「日本人の9割が知らない遺伝の真実(SB新書)」には性格などに関して、以下のような要旨の記述(P83)がある。
・知能や性格、才能などは、遺伝が大きく影響している。
・個人差の大部分は非共有環境で、共有環境の影響はほとんどない。
・共有環境は基本的には家庭環境や親の影響。
・家庭において、親の子育ての仕方は子どもがどう育つかにはあまり影響を与えてい ない。
私は今まで、子供時代の家庭環境が、その後の性格形成に大きな影響を与えると考えてきた。また発達心理学や教育心理学、精神分析の領域などでもそうした理解が大前提であったはずだ。
家庭環境が影響しないというなら、子供の躾けや教育はやるだけ無駄ということになりかねないし、心を病む患者さんに子供時代の生活の様子を尋ねるのも無意味と言われそうだ。
そんな主張が正しいはずはない。ネットを検索すれば真正面から否定している記事や論文が簡単にいくつも見つかるだろう、と予想したが、なかなか見つからないので驚いた。
それだけではない。本屋を訪れると、性格形成に関して「共有環境の要因はほとんどゼロ」という主張の本を何冊も見かけるし、子育てを話題にしているHPを見ても、親の子に与える影響に関してわざと?回りくどい表現にしている記事があるのも、この双生児法の見解と無縁ではなさそうだ。
もちろん私が、最新の研究から目を背け、古い考えに固守しているだけの可能性はある。しかしそれでも気になったので、どこかに双生児法の主張に落ち度があるのでは、と調べてみた。
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