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あなたに映る私、どんな私ですか。


「ちょっと、アキちゃんに似てない?」
「私がアキちゃんに?そうなの?」
「2人の中で、選ぶなら絶対アキちゃん。100人に聞いたら、100人がそう答えるよ。なんか、本当に似てるよね。」

録画していた特番が流れていた。

お座敷列車の中で
『潮騒のメモリー』を歌う
アキちゃんとユイちゃん。

何か新しい発見をした小学生のように
嬉しそうな、ワクワクした表情をして
彼は、そう私に伝えた。

学生の頃、母に勧められ観た
朝の連続小説だった。
全話を見るには、長い期間が必要なため、
正直、初めは見る気がしなかった。
結果的に2、3回は繰り返し観たのだが。

本当に夢中になったドラマだった。
今でも覚えている。

「ユイちゃんじゃなくて?アキちゃんかぁ。似てるなら、ユイちゃんがよかったな。」

少し、いじけてみた。

「綺麗じゃないのは分かるけど、存在感とか凛とした感じ、憧れるなぁ。」

口ではそう言った。
だが、本当は嬉しかった。


父と母、姉や弟、旧友に聞いても、
おそらく全員、彼が言ったように、
『アキちゃん』と答えるだろう。


出会って数ヶ月の彼。

『私』を見ていてくれていた。
『私』でいさせてくれた。

私の中で、何かが証明された瞬間だった。

表面だけの取り繕った私ではない、『私』を…。




いつだったか、職場の飲み会で
会半ば、酔った部長さんに、
言われた言葉がある。

今でもはっきりと覚えている。

「いつからか、君は変わった。目だ。目の奥の何かが変わったんだよ。その頃から、服装も髪型も変わったように見えるんだが、どうだろう?私やってやりますけど、何か?って。

もちろんいいことだよ、腹を据えたようだった。君に何かあったのかな?

あ、これはセクハラになるのかな?はは」

そして、ふと思った。
これまでの私は、
どんな風に見えていたのだろうか、と。


関わることが多い部長さんだった。
多少、周りよりかは
見ていてくれていたであろう。

「う〜ん、そうですか?何でしょう、特にそんなつもりは⋯。変わりましたかね?私。」

本当は、
いつものように笑って誤魔化そうとした。

でもその時は、
まるで核心をつかれたようで、
何も言えなかった。


きっと私を例えるならば、
(自分で言うのもなんだが)

『妹キャラ、ゆるキャラ、いじられキャラ』
であるだろう。


これを仕事上に置き換えると、

『出来ない子、頼りない子、ふらふらしてる』

そう解釈されているのだろう。

ふわふわと、まるで、
未だに定まっていない人間だと。

本当は、そんなことはないのに。
私にだって、意思はあるのに。
先輩や、他の人と同じように



入社して、右も左もわからなかった。
渋谷。建物の中は無駄に広く、
虚無の世界に放り込まれたようだった。
学生として緩く生きてきたことは
十分自覚していた。

だから、先輩の言うことは素直に聞いた。
学生時代、部活中に
コーチの言うことを守っていた頃みたいに、
自分の人生の選択に責任を持ち、
身を引き締めていたつもりだった。

仕事中のトイレですら、
先輩に言いづらかった。

何も出来ない自分は行く資格が無いような、
無力感と少しの恐怖を背負って。

その結果、偉い人に言われた。
「いつもくっついて歩いてるね。」

ただただ、悲しかった。
私は、金魚のフンではない
先輩とは席が隣、昼食も一緒に食堂。
そんなの、仕方ないじゃない。

その時私は、静まり返った職場の廊下で、
声を大にして言いたかった。

『こんな私ですが、意思はあります。』

と⋯⋯。


ニコニコしていれば、場が和んだ。
イジリを返せば、皆んなが喜んだ。

反発しなければ、イザコザは起きない。
意見を押し通さなければ、
周りに賛成さえしておけば、
大体のことは、平和に収まる。

たったの25年で、
私が、何となく身に付けた、生きる術。



これまで作り上げた、この術は
間違いだったのだろうか。

出来なくていい、
しっかりしてなくていい、
そんなキャラに、
私は甘えてたのだろうか。

代償は、思った以上に大きかった。

頑張っても頑張っても、
茶化され、いじられ、
周りの引き立て役で終わる。

これほど、悲しくて悔しくて、
無力感を押し付けられるなんて。
緩い自分を、良しとしてきた結果だった。

社会人になってようやく気付いた。

静かに進めていた。
軌道修正を。
少しでも、私自身を認めて欲しかった。

飲み会で、変わった。
と言われた。
若干の人に気づかれてしまった


変わらなきゃ、と、手探りだった。

手探り状態がバレてしまった。
私は、大人になれていなかった。
軌道修正が、足りていない。

いつ、認めてもらえるのだろうか。
その瞬間は、巡ってくるのだろうか。







真横で、
いじけたたフリ
をしている、私。

彼は負けを認めたように、
慌てて修正をいれた。

「ユイちゃん、ユイちゃんにしか見えないよ。」

だから、ね?笑って?
と言うように、微笑みながら、
彼は私に繰り返し語りかけた。

『私も本当はね、アキちゃんが正解だと思う。アキちゃんって言って欲しかった。ありがとね。』
私は、心の中で呟いた。

私を見つめて言う彼がかわいくて、
少し意地悪してみた。

「ふ〜ん。」
とだけ言って、彼に微笑み返した。






あなたの前では、
ありのままの私でいていいかな。

いいんだよね、きっと。



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