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【読書感想文】逆ソクラテス

逆ソクラテス
伊坂幸太郎/著

あらすじ

逆転劇なるか!? カンニングから始まったその作戦は、クラスメイトを巻き込み、思いもよらぬ結末を迎える――「逆ソクラテス」
足の速さだけが正義……ではない? 運動音痴の少年は、運動会のリレー選手にくじ引きで選ばれてしまうが――「スロウではない」
最後のミニバス大会。五人は、あと一歩のところで、“敵”に負けてしまった。アンハッピー。でも、戦いはまだ続いているかも――「アンスポーツマンライク」
ほか、「非オプティマス」「逆ワシントン」――書き下ろしを含む、無上の短編全5編を収録。 (集英社HPより引用)

 感想

「完璧な人間なんているはずないのに、自分は完璧だ、間違うわけがない、何でも知っているぞ、と思ったらそれこそ最悪だよ。昔のソクラテスさんも言っている」
「ソクラテス?」
「『自分は何も知らない、ってことを知っているだけ、自分はマシだ』って、そう言ってたらしいんだ」
逆ソクラテス/伊坂幸太郎著 -逆ソクラテス P,28-


今回の作品は伊坂作品には珍しく、小学生から中学生までの学生目線で描かれている。

(その理由に関しては、あとがきで触れられているので、ぜひあとがきまで読んでほしい)

この作品は作中の“逆ソクラテス”に出てくる小学生の安斎君を中心に

「自分たちには未来がある、可能性がある。大人の先入観や価値観でその可能性を摘まないで欲しい」

そんなメッセージをダイレクトに生き生きと訴えかけてくる。

きっと、大人目線の価値観の話ではなく、子供からの目線で描かれているから、こんなにもすんなり心にメッセージが届くのであろう。

自分にもこんなに素直な時代があったのだろうか、こんなに自分を信じることが出来た時代があっただろうかと振り返ってしまう。

子供のころ、両親や学校の先生の言うことや行動はすべてが正しく、全てが立派な大人であると無条件に信じていた。

むしろ、そこが正しくないと何を信じれば良いのか、誰を頼れば良いのかわからなくなってしまうからだ。

そうやって知らず知らずのうちに、「大人たちの先入観・価値観」に少なからず影響を受けながら、自分らしさが確立されていく。

その時代に安斎君みたいに、自分を持ち“おかしい事をおかしい“と言える友達と出会えていたら、磯憲先生みたいに、自分を信じてくれる大人に出会っていたら、もっと自分を好きになれたのではないだろうか。

今、振り返っても、大人に怒られた事よりも、大人が自分への愛情を伝えてくれた言葉のほうが覚えているのだから不思議である。

大人になるにつれ、我慢してきた部分や価値観に影響されやりたいことが出来なかったという経験が増えてくる。
きっと、その経験が、“自分はそうやってきたのだから”と子供たちにも同じことを求めてしまうのだろう。

だからこそ大人になり、大人の価値観や先入観で子供たちを否定していないか、先入観を押し付けようとしていないかを考え、今を生きる子供たちが自分を愛し、信じられるように接していきたい。

また、自分自身も「30代までに結婚して子供を作らないと」「子供は二人以上作らないと」「親の介護は子供が見ないと」などなど、先入観や固定概念に周りを囲まれながら生きている。

そんな先入観や固定概念に押しつぶされそうな時には、

「僕は、そうは、思わない」

そう心で呟こうと思う。

自分自身が変わりたいと感じた時に行動することの大切さ、価値観にとらわれず、自分自身の可能性を自分や周りが信じることの大切さ。

そんな、ポジティブなメッセージを伊坂作品らしい愛嬌あるキャラクターたちが伝えてくれる。

すべての挑戦する人を応援してくれる、これから何かに挑戦する人におすすめの一冊。

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