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価格の正体

僕は、色々なものの価格について思いを巡らすことが好きだ。

どういうロジックでその価格になっているのか。

価格に対して敏感か否かは、小さくとも自分でビジネスをやっているか、雇われ人かの大きな違いの一つかと思う。

価格を決める要素はいくつかある。

原価を積み上げた結果、原価割れせずに提供者が利幅を取れる設計。

その商材の相場から逸脱しない、価格帯。

ユーザーが得られる便益から逆算した、納得感があるであろう価格。

プライシングは、アートだと言われることもある。

提供者と購入者の納得感が交わる接点が、売れる価格。

交わる接点があれば、第三者に何を言われようが関係ない、当事者間の取引。

僕は大学生の頃から、そのカテゴリーにおける異常値的な価格に興味があった。

それが高価な場合は、プレミアム戦略と呼ばれることもある。

プレミアム価格が成立している商品の背景には、ほぼ必ずプライシングにおける美学や哲学がある。

お酒が飲めないので高級なワインに興味はないが、高級なお茶や珈琲には興味がある。高級といっても、ボトルで2,3万円程度だ。ワインと比べると大したことはない。

ただし、「お茶」「珈琲」というカテゴリーで見るとズバ抜けて高価であり、「ボトル3万円の珈琲がGINZA SIXで飲めるんだけど、飲みに行かない?」という誘い文句には、興味を持つ人もいるだろう。

ブランド品の場合は、同じバッグというカテゴリーだとしても、ノーブランド品と比べて原価率が低い傾向にある。原価は低いのだが、その価格を維持するために広告費がかなりかかっており、ブランド品を買う消費者はそのブランドの広告費を支払っているようなものである。

AとBという同じバッグがあると仮定する。

Aはセリーヌというタグが付けられ、50万円で販売。Bは20万円で販売。

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あくまですごい雑な算出であり、現実世界の数値を元にはしていない。

同じ商品でも、消費者は「セリーヌ」というイメージを買うために30万円のプレミアムを支払う。そして、セリーヌはその30万円のイメージを作り出すために15万円の広告費という原価を支払い、15万円の利益を得る。

ブランドビジネスとは、原価と売値の差額のみならず、イメージと広告費の差額を得る商売であり、後者の方が利益率も高い場合が多いであろう。

原価が発生し、形としてモノになるものは有形資産だが、イメージは無形資産である。

そして2021年現在では、無形資産への投資が加速しており、無形資産が更なる資産を生み出すというループが加速する。

プレミアム価格は、イメージという無形資産によって押し上げられた超過利益の実現を可能とするので、モノを単なるモノとして売るのではなく、無形資産の構築に投資をした方が、長期的な利益の最大化が可能になる。

一方で、無形資産を意図的に過剰に作り上げてしまうことが砂上の楼閣となり、長続きしないケースもあるだろう。

例えば、席数の供給を意図的に絞ったことで作り上げた、「予約の取れないレストラン」という虚像の演出もある。

無形資産の積み上げの大きな要素の一つは時間であり、短期間で強引に無形資産を積み上げようとすると、そのビジネスが短命で終わってしまうこともあると思う。


価格の正体とは、一般的には相場でしかないと思う。

それぞれの商材には価格帯があり、そこから逸脱すると売れなくなってしまうことが多い。

一般的には、その価格帯の相場の範囲内であれば、消費者は特に疑問を抱かない。

しかし、その相場の範囲内でのみビジネスしていたのでは、類似他社と同程度の収益率にしか収まらない。

そこで、その相場の範囲を逸脱してみる。逸脱した価格のビジネスが成立するには、消費者のインサイトを知ることが大事で、そのインサイトを発見し、一定の母数での成立が見込めれば勝ち筋となる。

その商材の既存のユーザーニーズに閉ざされずに、独自インサイトによる仮説構築。これがプレミアム戦略実現の起点となる。

価格の正体とは、相場の範囲内でしかないと思うのだが、その事実を前提に置いた上で、相場を上振れでも下振れでも価格破壊することが、超過利益への唯一の道であり、そのヒントとして無形資産構築が挙げられる。

一時期、「高級食パン」が流行ったが、商品の質が伴ったプレミアム価格と、無形資産(ブランド)構築が両輪で機能し、結果として食パン市場の中では高単価にもかかわらず、販売数も伸びたというお手本のような事例がある。

食パン市場の中だけで考えると、コンビニで1斤200円で売っている食パンを400円で売り出すなど2倍の価格で信じられないかもしれないが、コンビニのPBアイスよりもハーゲンダッツ食べたいな。という層もかなりいるはずで、消費者からすると「400円の食パン」は全然受け容れられる商材である。


小さくても何かビジネスを作る際には、こうした身近な商品の少し変わった価格設計の背後にある考え方に思いを馳せると、ヒントになるはず。

何かのビジネスを作る際には、必ずどこかで価格設定をする必要がある。

たまには価格から逆算して、提供価値を考えてみる。とかも良いかもしれない。

☆参考文献
プレミアム戦略:リンク
無形資産が経済を支配する―資本のない資本主義の正体:リンク

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