鮨屋デートで感じた孤独
このお話は、先日Voicyで配信した話を、テキストにしたものである。音声で楽しみたい方は、こちらからどうぞ。
鮨屋デートには、様々なドラマがある。
2017年は、上記のようなドラマがあった。
2018年も早一ヶ月が過ぎたが、既に一つネタになるようなドラマがあった。
仮にお相手に読まれたとしても、致し方ない。
2018年に入り、輪を掛けて暇になった僕は、かつて自分が携わったデーティングアプリで知り合った女性と、この日3度目の食事に行く予定であった。
アプリの写真で見た限り、かなりの上玉(今時こんな表現を使うだろうか)であろうと判断したが、実際にお会いしてみるとかなりの美しさであった。聞けばかつて、芸能活動をしていたという。
1度目はそれなりに盛り上がったものの、2度目はさほど盛り上がらなかった気がする。
それでも、美しさには抗えない僕は、3度目の食事に誘って見た。日付は確定していたが、開始時間の返信は3日寝かせた後だったことから、その時点で「脈なし」であったことに、気づくべきだった。
いや、気づいてはいたし、何ならこちらから「やはりやめましょう」と提案しようかと思った。
しかし、僕は行くことにした。
単純に、鮨が食べたいのだ。
僕は、鮨が好きなので、一人でも食べに行く。
そして迎えた、当日。
不動前の、比較的席数が多い、賑やかなお鮨屋を予約した。賑やかなお店なので、会話がしっくりこなくても、何とかなりそうだから。という理由だ。
まず、お相手は20分遅刻した。
会うのは3回目だが、3回連続遅刻である。
この日は、比較的賑やかな鮨屋なので、まあ辛うじてセーフなラインではあるが、これがきっちり二回転制を取る鮨屋の場合、アウトであろう。
デートでの、女性の遅刻については、様々な見解があると思う。
僕も、20代の頃は器が狭くて、いちいち腹を立てていたこともある。
しかしこれは、振り返ってみると、「うおお、早く会いたいのに!」という、ピュアな気持ちで苛立っていただけではないかと思う。
TPO次第でもある。緩い待ち合わせならもちろんどうでもいい。おそらくダメなのは、お店に迷惑がかかるパターンであろう。全員一斉開始とかの店で、20-30分待たされた日には、店主に対する申し訳なさで一杯である。
ということで、彼女は3回連続で遅刻してきた。
これは既に、試合前にイエローカードが累積で溜まっている状態であり、いかなる理由があろうとも、ルーズな人なんだな。とか、自分の予定をマネージできないんだな、という社会人としてどうなの。的な観点を考えてしまう。
大抵の美人は、「申し訳なさそうな顔」をするのが、上手い。
彼女たちは、自分が謝れば大抵のことは穏便に済むことを、今までの人生から知っているのだ。
表面上は「全然気にしてないよ」と男性は取り繕っても、確実に心の中では萎えているし、減点ポイントが溜まっている。
これは案外、美人が知らない真実かもしれない。
ちなみに、遅刻を一切しない美人も、もちろん存在する。
試合開始前から、やる気をなくした感じでキックオフ。
一応、取り繕って無難な話をしてみるものの、おそらく相手も馬鹿ではない。僕のローテンション具合に、気づいていたであろう。
すると、前半25分あたりから、彼女は隣の席の人たちと、盛り上がり始めたのだ。
上述した通り、ここは「席数が多く、賑やか系な鮨屋」である。カウンター席は2手に分かれていて、8席ずつ。椅子の背も高く、カジュアルに語らいやすい雰囲気がある。それを見越して、僕もこの店を選んだのだが。
彼女の隣の席の人たちとの盛り上がり方は、尋常ではなかった。
「お前、つまんねーんだよ!」という当てつけかと思うほどのレベルで、盛り上がり始めた。
今思えば、開始早々ローテンションな自分も悪かったのかもしれない。
しかし、以前にも別の女性に「?今日口数少ないね?」とか「どうしたの?」みたいに聞かれることがあったのだが、大抵は相手が遅刻してきて、待つ間に萎えているという場合が少なくなかった気がする。
口では大人なフリをしているが、態度にはしっかり出てしまっていたということだ。これは、僕自身に、プロフェッショナル(何のだよ)としての落ち度がある。
とにかく、彼女は隣の人と非常に盛り上がり出した。
隣の人と盛り上がること自体は悪いとは思わない。実際に、気も合っていたのだろう。
しかし、これもTPOによる。
長い付き合いの2人で、マンネリ打破の一つとして隣の席の人と盛り上がってみるとかは、全然良いと思う。
この日は会って3回目で、その後の関係の継続があるかわからないという、非常に不安定な状態である。
彼女は、試合開始早々の僕のローテンションぶりで「あ、もうないな」と見切りをつけたのかもしれない。
そして、隣の人と盛り上がるという戦略に、意図的に切り替えたのかもしれない。
日本酒を互いに酌み交わし、加速する彼女たちのコンビネーション。
僕は一応、デート?で来ているはずなのに、彼女たち(お隣は女性2名だった)を横目に、一人鮨屋のカウンターから遠くを見つめながら、このシチュエーションをどう乗り切るべきかを考えていた。
......
そうだ......!
Voicyネタにしよう...!
ということで、鮨屋での後半戦は彼女がお隣さんと盛り上がるのを横目に、Voicyの「コーヒータイム」のBGMが脳内に流れながら、Vociyのタイトルをどうするかを、懸命に考え出した。
鮨屋には、一人で行くこともある。
しかし、物理的に一人で行くのと、誰かと一緒に行っているはずなのに、精神的に孤独を感じてしまうことがある。
いや、こんなに同行者を放っておいて、隣の人と盛り上がりまくっている女性を、今まで見たことがないぞ?
意図的にせよ、無意識にせよ、いずれにせよ、これは酷いのではないかと感じた。
お会計はもちろん、僕である。これは「お会計係」として呼ばれて行くことも稀にあるため、特に問題ではないし、彼女たちは彼女たちで「おしょくじがかり」に対する、一定の敬意を示していた(はずである)
しかし、今回胸のうちに芽生えた気持ちは「なんで隣の席と盛り上がっている人の会計も自分が払うのだろうか」という疑問である。
もう、隣の人と合流すればいいんじゃないかな。
先に会計して帰ろうかとも、思った。
試合も終盤に差しかかって来た。
日本対ブラジルでいえば、梅木ジャパンはとっくに前半に3失点していて、後半は消化試合である。試合どころか、相手は隣の席の人たちとのコンビネーションを楽しんでいる。
僕は穴子で締めれば、もういいと思っていた。
しかし彼女はその時、こう言った。
あと5貫はいけます...!
!?
なんだと...!
ブラジルはロスタイムでも、攻撃の手を緩めることはなかった。
あと......5貫...?
ベンチから投入されてきたネイマールが、パウリーニョが、コウチーニョが梅木ジャパンに波状攻撃を喰らわしてくる。
消化試合の中、無駄に積み上がるお会計。
僕は放心して、鮨屋のカウンターを眺めていた。
店を出た僕らは、二軒目に行くこともなく、山手通りで、速やかに解散した。
彼女は試合開始時に、こう言っていた。
鮨屋デートって、色々なことがわかりますよね。
たしかに、色々なことがわかった。
何度もいうが、隣の人と盛り上がることは、悪いことではない。
しかし、TPOであったり、同行者への配慮、というものはないのだろうか。
いや、彼女も前半で消化試合だと割り切った上で、意図的にそうしていたのだろうか。
上述の「鮨さいとうに誘う女」ですら、隣の人と盛り上がりすぎて、同行者を蔑ろにしたわけではなかった。
デート中のはずなのに、鮨屋で空白の時を感じたのは、僕にとっては初めてのことで、カルチャーショックであった。
物理的に一人でいることよりも、感じる孤独。
鮨屋デートは、相性を測る良いリトマス試験紙である。
早めに見極めたければ、早めに鮨屋デートを実施しても、良いかもしれない。
僕はその学びと、Voicyの新ネタができたという想いと共に、家路へと着いた。
この経験を、ぜひ皆さんの鮨屋デートにおける学びにしてほしい。
注記:鮨屋の写真は、その鮨屋の写真ではなく、自分が持っていた中からチョイスしたものです。
ありがとうございます!サポートは希少なのでとても嬉しいです^^