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Q. 日本にいて外国語を使う職業は?

A. すでに一定数あり、これからも増加する

 

「外国語 and 職業」。単純すぎる検索ワードをGoogleに打ち込めば、生成AIが「外国語を活かせる職業には、次のようなものがあります」と答え、その具体例をずらりと提示してみせる。生成AIは発展途上であるとはいえ、こちらの意図を汲んだ優秀な解答だ。

 

AIが示すには、外国語運用能力を活かせる職業とは次のようなものである。通訳、翻訳家、外国語教師、客室乗務員、アナウンサー、外交官、入国事務、貿易事務、ホテルスタッフ、留学アドバイザー、観光ガイド…etc。

 

うむ、なるほど、どれも納得である。しかしながら、近年ではこんな事例もある。《勤続40年の“大ベテラン”も特訓 車掌が英語アナウンス!》(関西テレビ、2020年3月25日放送)で報じられた内容である。先ごろJR東海は、東海道新幹線における発着時の英語アナウンスを自動音声だけではなく、車掌による英語アナウンスを加えることに決定した。

 

社長号令のもと、乗車スタッフは英語の社内訓練を開始し、同番組では、英語に堪能な社員が先生役としてその他の社員に稽古をつける様子が報じられた。中でも「英語でアナウンスをする日が来るとは思っていなかった」と語る、国鉄入社組の主任運転士の山下先人氏が後輩社員から謙虚に英語発音を学ぶ奮闘ぶりは印象的である。

 

さて、どうでだろう、Google-AIは新幹線運転士を「外国語を活かせる職業」にあげていたであろうか?そう、あげていないのである。ではなぜGoogle-AIは新幹線の運転士を検出しえなかったのか。

 

その厳密なメカニズムはブラック・ボックスであろうが、生成AIが我々人類の創出した情報をもとに学習・発達している以上、原因の一端は我々人間の側にあるのではないだろうか?そしてそれは、我々が「外国語を活かせる職業」を考えるとき、無意識的に「職業×外国語」という図式を前提としているからではないだろうか?

 

例えば冒頭でGoogle-AIが教えてくれた具体例をみてみると、通訳、翻訳家、外国語教師、そして外交官と、その職業そのものを規定する需要として外国語が前提とされている仕事が多いことに気づく。こうした職業は、歴史をさかのぼれば前近代世界から外国語と密接に結びついているものばかりであり、外国語を活かして日々の糧を得る、社会的な責任を果たすという活動の代表格と言える。

しかしながら、AIが示した職業はなにもこればかりではない。例えばアナウンサーやホテルスタッフはどうであろうか。こうした職業に従事する人々は、外国語を主要な活動内容においているというよりは、従事する業務の中に外国語を扱う内容があるといえる。

アナウンサーが時事情報を伝えるべき相手は、日本語話者のほかに訪日外国人観光客や日本に居住する外国の人々も含まれるであろう。ホテルスタッフが応対する来客も同じような内容ではないだろうか。

すなわち、これらの職業における外国語の位置づけとしては、「職業×外国語」よりも、「業務内容×外国語」という図式が当てはまるのではないだろうか。この図式のなかでは、情報を的確に伝える、滞在客に快適な環境を提供するといった各職自体が担う本分がまずあり、外国語を交えた業務内容がその中に含まれる。

そして今後の日本社会では、こちらの図式で外国語と混ざりあう働き方のほうが、主流になってゆくと思われる。JR東海の風景はまさしく「業務内容×外国語」の典型であろう。

 

日本で外国語を使う職業を探すあなたには、我々著者は「業務内容×外国語」という図式で考えることをおススメする。職業があるから職業があるのではなく、需要があるから職業として成り立つのだ。

いささかトンチのようだが、個人と社会をつなぐ媒介として職業の存在感があまりに大きくなった現代日本において、既存の職業体系から自由になって考えることは、なかなか難しくなってきている。

 

文部科学省によれば、平成24年度(2012)から令和3年度(2021)の間で、日本の公立学校に通う、日本語指導が必要な日本国籍児童生徒は10688人(約10年間で1.7倍)、日本語指導が必要な外国人児童生徒は47619人(約10年間で1.8倍)したとされる[1]。そしてそうした子供たちと日本社会とをつなぐ代表的言語はポルトガル語、中国語、フィリピノ語であるそうだ。

学校現場では例えばポルトガル語に覚えがある人材が今後ますます求められてゆくであろうし、そうした子供たちがつくる「明日の日本社会」はきっと今日より「多言語的」であることを求める社会になるはずだ。

 

結論:外国語への需要は「業務内容×外国語」で考えろ。



[1] https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/taikai/r04/pdf/93855301_06.pdf (2024年1月2日閲覧)

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