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白い猫の話 3

これの続き。最終回。

翌日の診察室。
先生が点滴する様をiPhoneで動画撮影する。
「ここですね。肩甲骨の間。ここを消毒して、少し上を摘んで持ち上げて、三角形を作ります。その真ん中に針を指します」
「針の上下はどうしますか?」
「私は、斜めにカットされている方を下にしてます。コツは思い切って挿すことですね!」
一通り説明してもらって、翌日、先生の前で、実技をすることになった。
家で、動画を見て復習。手順をマニュアル化した。点滴といっても、自然にポタポタと落とすタイプではなく、注射器で皮下にグーっと150ccほど、注入するやり方。
「結構、注射器を押すのに力いるので、男性がやられた方がいいです」
とりあえず小沢が点滴係。妹尾がマニュアルを読み上げ、猫を保定する係になった。

いざ本番である。
「マニュアル作ったんですか? すごい!」
と先生が笑う。
「いまテスト前みたいな気分です」
「わかりますわかります。私も一夜漬けばかりでした!」
先生、心なしか楽しそう。
いざ始める。
三角形を作って、真ん中をぶすり。
鶏皮に竹串を刺すよりは、抵抗感がない。
「そこで奥までグーっと!」
先生が声を掛ける。

この猫は、飼い主探しサイトで見つけた猫だった。譲渡を専門にやっている人ではなく、家の中で野良猫が産んじゃって困ってる、みたいな事情だった。今後の連絡とか一切不要なんで、と言われて、逆に連絡必要な人いるんだ、と当時驚いた覚えがある。しかし今は、とうとうあのときの猫に自ら針を刺す羽目になりました、と連絡したい気持ちにもなった。

「はい、そこで三方活栓を切り替えて」
「切り替えた」
指差し確認しつつ慎重に進める。マニュアルは、先生の動画をそのまま起こしただけあって、特に問題もなく、最後までいった。
「大丈夫そうですね!」

翌日から、自宅で点滴をする日々が始まった。
体重を測り、消毒し、針を刺す。液袋は、カメラの三脚にぶら下げると、ちょうどいい感じになった。
そして歯磨き。歯科の先生に言われたとおり、ほんと触れるか触れないかくらい、でゴシゴシというかサワサワする。強制給餌もしているので、その食べカスが取れているのがほとんどだけど、これ以上、ひどくならないだけでもいいか、と続ける。
費用としては、薬代入れて、1週間分で5000円。通院に比べれば、はるかに現実的なコストだった。
体重は微減。倒れたとき、3.15kgあったけれど、いまは2.8kg。3日で0.05kgくらいずつ減ってる。体重が減って、動けなくなって、死にます、と医者には説明を受けている。

それから数日後のことだった。
歯磨きをしていた妹尾が驚いた声を出した。
「あれ!?」
子供たちも振り向く。
「歯……抜けちゃった」
え?
たしかに奥歯らしき歯が取れている。
「そもそも抜こうとしていた歯?」
「さあ?」
「明後日、点滴セットの新しいのもらいにいくから、そのとき聞いてみよう」

しかし明け方の4時ごろ。
妙に猫が鳴く。撫でても、布団に入れても、落ち着かない。まさか、と思って、ちゅーるをあげてみる。舐めた。まだ欲しがるので、生エサをあげてみる。食べた。
翌朝も食べる。昼も食べる。
さすが、元太り過ぎだっただけはある。食べるとなったら、どんどん食べた。

次の通院では、先生と話すタイミングがなくて、その次のとき、経過を話した。体重は2.90kgまで回復していた。点滴を150cc入れると、3kgを超える。
「血液検査をしましょう」
だいぶ改善している。そのあと点滴の頻度を2日に1回、3日に1回と下げ、その都度、血液検査をして、ほぼほぼ正常値内におさまるようになった。

まさかの回復である。
年が明けたら、お世話になった歯科医の方の先生にも挨拶に伺う予定。体重は、2.8~2.9kgを行ったり来たり。もうちょいほしいところなのだけど、まさか年を越すとは思っていなかった。

というわけで、今年も人間4人と猫2匹(と正確には、亀1匹、ウーパールーパー1匹、金魚4匹)と年を越す。みなさま良いお年を。
(といいつつ、おさまってない仕事を始めます)

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