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音楽ライブ配信の手引き5 「準備・設営・撤収」

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第5章 設営・準備・片づけ

設営や準備の方法は会場や条件によって大きく異なってきますが、ここでは代表的な物について扱います。記載内容以外にも気を遣う内容は多くあります。

5.1 事前準備

会場の下見時に確認すること
初めての会場であれば、可能なら下見ができると理想的です。できない場合は必要事項を問い合わせることでほとんどの場合は対応可能です。

まず、ネット環境については必ず確認する必要があります。会場側が光回線を利用できるのか、自前でモバイル回線を用意しなければならないのかによって用意すべきものが大きく変わってきます。モバイル回線を利用する場合は、各キャリアでの通信状況の確認、電波の良い場所のチェックができると安心です。

カメラや機材の設置可能場所も確認事項の1つです。主に非常動線の観点から、特にホールでは客席を潰す、通路に置く、車椅子スペースに置く、など会場によって可能かどうかのポリシーが異なるので、トラブルを避けるために下見の時点ですり合わせるのがおすすめです。ホワイエなどに配線する場合は、防火扉の可動域などとの干渉も注意点です。

配信ブース、カメラの設置などに椅子箱馬、電源用のコードリールなど会場備品を使用する場合は、この使用条件なども確認します。また、時折客席部分で養生テープを使用できない会場があるので注意が必要です。

寸法の示した見取り図をネット等で事前に入手していない場合は打ち合わせ時に入手します。ごく稀に、ふだんイベントを行わない会場で見取り図が用意されていない場合は、寸法を実際に計測できると理想的です。

会場内にて、ブースやカメラを設置できそうな場所、それぞれの間の距離障害物などを確認します。必要な箇所の写真を撮っておくと後から見返せて便利です。ネット回線の都合などで会場外にケーブルを引く場合は、通せる場所について検討が必要な場合もあります。

電源の場所と必要な箇所への電源の引き方についても打ち合わせます。電源については会場が用意してくれるケースも多いかと思いますが、電源ドラム等を持参する必要がある場合もあるので確認します。

プランニング
会場の下見を元に、カメラの台数や全体の機材構成、カメラやマイク、デスクの位置、複数台のカメラの間の画角の構成を決定します。音響や照明など、他の機材との兼ね合いも確認します。また、当日の設置・撤収にかかる時間も検討します。

機材運搬や、必要な場合にはレンタルの費用・スケジュールなどを見積もり、予約することも必要です。スイッチャー、カメラオペレーター、ミキサーなど人員の確保も忘れられません。

5.2 設営

機材の配置と養生
各機材をプランニング通り配置し、それらを適切にケーブルで接続します。実際に設置してみて計画通りいかない場合は修正を加えることになります。特に、複数カメラでの画角構成は実際に配置してみるとイメージと異なっている場合もあるので、全てのカメラの映像を確認してから位置を最終決定します。一通り接続が問題ないことが確認できたら養生テープなどで養生します。壁に沿っていないような、多くの人が通ることが予想される箇所ではしっかり目に養生すると安心です。

会場内から外へのケーブルの通し方
インターネットの状況によっては会場外(ホワイエなど)から会場内に有線LANを引き込む必要があることがあります。主にホールについて、会場によっては内側から外側へケーブルを通せる穴がある場合や、照明室/映写室/音響室などを経由してケーブルを通せる場合があります。また、それが難しい場合、あるいはケーブルの長さが足りない場合、客用ドアの隙間から通せることがあります。薄型のケーブルであればほとんどの場合、2枚扉の真ん中から床あるいは天井どちらかに沿って通すことができます。ケーブルが傷まないよう、可能であれば少し厚めに養生することをおすすめします。

テープ
多くの会場でテープは養生テープが指定されているかと思います。通常の養生テープでもよいのですが、ケーブルの樹脂部分と化学反応(加水分解)を起こして剥がした後にベタつくので、気になる場合は少々高いですが真ん中に糊がついていないタイプがおすすめです。なお、ベタつきの清掃には無水エタノールが有効です。

また、通常の養生テープを使用する場合でも、床などには幅広タイプを使用すると安心です。


映像の色合わせ
複数のカメラを利用する場合は、切り替えた時に違和感がないよう、カメラの色味をなるべく合わせます。少なくともホワイトバランスだけはオート設定にせず、ある程度合わせるのがおすすめです(ホワイトバランスが一番見た目に影響する、かつオートにしておくと途中で色味が変わることがあるため)。

ホールなど照明がしっかり組まれている会場では、一番暗い時を見えるようにカメラの露出を合わせると、一番明るい時に白飛びすることがあります。逆に一番明るい時に合わせると暗い時に黒潰れする問題が起こります(ダイナミックレンジの影響)。カメラによって露出の程度を若干変えたり、ISOオート設定にするなどの方法で対応が可能です。オペレーターがカメラにつく場合は手動も考えられます。

オートパワーオフ
機器によってはオートパワーオフ機能がついているものがあります。配信中は作動しないようになっているものもありますが、念のため全ての機器のオートパワーオフ機能をOFFにします。特にカメラ、モバイルWiFiルーター(使用している場合)、配信ソフトによってはパソコンのオートパワーオフがトラブルの元です。

配信ソフトの設定
OBSを使用する場合は、「ソース」の「映像キャプチャデバイス」からキャプチャボードやキャプチャボード付きスイッチャーなど、「音声入力キャプチャ」からオーディオインターフェイスやキャプチャボード付きスイッチャーの音声を入力できます。「シーン」機能で他のコンフィギュレーションも設定でき、例えば他のカメラソースや映像、蓋絵などがある場合に便利です。
「設定」>「配信」で各配信サービスから提供されるサーバーURLストリームキー(サービスによってはストリームキーのみ)を入力します。
「設定」>「出力」出力モード:詳細を選択し、ビットレート(・キーフレーム間隔)を配信サイトの推奨に従って入力します。コンピュータにGPUが搭載されていてこれをエンコードに使用する場合は、エンコーダを当該GPUに設定します。「音声」タブで配信に使用しているトラック(通常はトラック1)のビットレートを配信サイトの推奨に従って入力します。音楽系配信では、推奨範囲内で音声ビットレートをなるべく高めに設定すると高音質が期待できます
「設定」>「音声」サンプリングレート(配信サイトによって44.1kか48k)、「設定」>「映像」キャンバスと出力の解像度を設定(どちらも1920x1080が基本)します。

5.3 リハーサル、調整

設営後、リハーサルにかけてミキサーやスイッチャー等のパラメータ、必要な場合にはプリセットを作っていきます。常設機材・人員での配信である場合を除き、最低限のリハを行うことをおすすめします。映像面では、設営時に調整したカメラの色味が照明を入れて配信した時に問題ないか、それぞれのカメラの画角は適切か、余計な映り込みはないか、不安定な要素はないか、などを確認します。音声面では実際の音声を聴きながら音量バランスイコライジングノイズ除去ラウドネスなどを調整していきます。

また、リハーサル時に本番とは別のストリームキーで実際に配信して見るのも重要です。ストリーミング環境ではラウドネス、明るさなどがプレビューと異なることも多いので、視聴者が使用すると思われる環境(スマホ、パソコンなど)で視聴してみるのは必須です。なお、配信サービスによっては(YouTube Liveなど)、一度配信終了ボタンを押すと再開できないので注意が必要です。
一通り調整が終了したら、リハーサル配信を終了し、ストリームキーを本番用に更新しておきます。

5.4 本番

本番前、可能な範囲でカメラやマイク、スイッチャー、ミキサーなどに異常がないか確認します。録画や録音をする場合は忘れずに開始します。配信は本番中もトラブルが起こるケースが多いので、常に状況に気を使う必要があります。配信終了時、サイトによっては(YouTubeなど)エンコーダからの配信ストップだけではなくサイト側の配信も終了する必要があるので注意します。

5.5 片付け

完全撤収時刻までに撤収を完了します。レンタル品の発送が必要な場合は忘れずに行います。


次回は音声の作り方についての記事です。

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