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里芋の皮むきは2人のプロに教わった

 私の実家は農家だ。私が子どもの頃は同居していた祖父母が米や野菜を作っており、祖父母亡き後は父がその跡を継いでいる。そのため「JA」こと農業協同組合は幼い頃から身近な存在だった。
 そんなバックグラウンドもあってか、「JA全農広報部さんにきいた世界一おいしい野菜の食べ方」というレシピ本は存在を知った瞬間気になって購入した。日々野菜に携わっているJAが作ったレシピ本だ。きっと、どのレシピもびっくりするくらい野菜がおいしく食べられるのだろう。

 期待しながらページをめくると、どのページも内容がとても面白い。
 各野菜のページには旬の時期、よい野菜の見分け方、保存方法が書かれているのだが、特に保存方法がしっかり書かれているところが良いなと思った。さらに野菜そのものに対する保存方法だけでなく、野菜によっては「ニンニクのオイル漬け」や「にら醤油」など保存方法が保存食レシピとして紹介されているのだ。これは大変助かる。保存方法のバリエーションがたくさん紹介されているのは、自宅で野菜を育てている人やおすそわけで野菜をいただく機会がある人にとっては大変ありがたい情報だ。
 自宅で野菜を、特に夏野菜を育てている人にとってはあるあるなのだが、トマトやピーマンは収穫時期になると次から次へと実ってしまい、消費が追い付かなくなるのだ。無駄にしたくないため、どうにかうまく保存できないものかと考えていたのだが、この本には素晴らしい解決策が書かれていた。
 特にトマトやピーマンの冷凍保存の方法が素晴らしい。そのまま冷凍保存するのではなく、切ったり中身をくりぬいたりはするのだが、そのひと手間があるからこそ使うときに便利になるのだ。
 この冷凍保存方法は目からうろこだった。トマトは毎年夏に実家や近所の方からたくさんいただくことが多い。いただいたタイミングが重なったときの解決策は今までトマトソース一択だった。この冷凍保存方法を知った今、選択肢の幅が広がった。

 保存食レシピ以外のレシピも作ってみたくなるものがたくさんある。「トマト丸ごとご飯」や「焼き白菜」は見た目にも楽しく、レシピを読んでどんな味かを想像してワクワクしてしまう。それぞれの野菜のページにはその野菜の長所を凝縮したキャッチコピーが冒頭に書かれていおり、そのキャッチコピーが秀逸でもっとくわしくその野菜のことが知りたくなるのだ。
 そんな感じで楽しみながらページをめくっていると、里芋のキャッチコピーが目に留まった。

里いもは皮むきを乗り切ればもっと食べたくなるおいもさん

出典:JA全農広報部さんにきいた世界一おいしい野菜の食べ方

 そう、里芋は皮むきが大変なのだ。
 里芋はぬめりがあるため、他の芋と比べて皮むきの難易度が高い。おまけに皮をむいているうちに毛羽だった皮の繊維が包丁にくっついてくる。初めて里芋の皮むきをした時はこんなに下処理が大変なのかと驚いた。
 
 私の里芋の皮むきデビューは高校卒業後に実家を離れた頃だ。ひとり暮らしを始めてからは時々実家から野菜が届き、寒くなった頃には里芋も届いた。
 初めて届いた里芋は皮がきれいに六方むきにされており、ジップロックの袋に入っていた。
 荷物が届いたことを母に連絡すると、その里芋は祖父がきれいにむいて詰めてくれたのだと言う。
 野菜を育てていた祖父は自身でも台所に立って、育てた野菜を料理する人だった。皮むきも手慣れたもので、包丁さばきも上手だった。
 きれいに六方むきされた里芋は几帳面な祖父らしさがよく出ていた。野菜作りのプロは野菜の切り方もプロだった。祖父は私が面倒くさがりなことも、里芋がそれほど好きではないことも見越して下処理をした状態で送ってきてくれたのだ。これだったらハチも食べるだろうと。
 皮をむいた里芋は日持ちしないからはやく食べるようにと母に言われ、さっそくその里芋を豚汁に入れて食べた。
 後日、祖父に里芋がおいしかったと電話で伝えた。
 祖父は「そうか」と一言言っただけだが、その声が嬉しそうだったことを今でも覚えている。

 その以降届いた里芋は皮がむかれていなかった。自分でやってみろということなのだろう。
 先ほど少し触れたとおり、初めての皮むきはとても大変だった。ぬるつく里芋と格闘し、包丁を滑らせて手を切ってしまわないように注意しながら必死で皮むきをした。祖父のように六方むきにしようかと思ったがそれどころではない。
 皮むきをしながら、前回下処理をした状態で送ってくれた祖父のことを想った。きれいに六方向きされた里芋には祖父の愛情が確かにあった。

 里芋の皮むきの裏技を教えてくれたのは父だ。この裏技は「JA全農広報部さんいきいた世界一おいしい野菜の食べ方」にも書かれている。それは皮つきの里芋をレンチンするというものだ。
 父は包丁で皮むきが難しいような小さすぎる里芋をレンチンして皮をむき、塩をつけてそのまま食べる方法を教えてくれた。
 煮物のイメージが強い里芋だが、シンプルに塩で食べることが新鮮だった。ホクホクした食感に塩味がきいておいしいのだ。
 祖父亡き後、野菜作りを始めた父は日々試行錯誤しながら野菜作りや野菜を使った料理に精を出している。この里芋の裏技も合理的な父らしい。日々野菜と向き合っている父もまた野菜のプロなのだ。
 
 「餅は餅屋」ということわざがあるように、野菜のプロは野菜の美味しい食べ方を知っている。祖父も父もそしてJA全農広報部さんも世界一美味しい野菜の食べ方を私に教えてくれた。

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