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トラとジョージ 不思議な村

月夜の晩
いつものようにトラがジョージの荷台で
ウトウトしていると


ジョージが話しかけました
「ねえトラちゃん。君を乗せてあげるから
いっしょに旅に出ないかい」


びっくりしてトラは飛び起きました
「えっ、本当に?それは楽しいだろうなぁ」


いつも閉まっている窓ガラスが
その日は少し開いていて
ぴょんとそこから運転席に滑り込みました


「わぁ、運転席ってカッコイイなぁ。僕が運転してもいいのかい?」

「うんいいよ。」

トラは運転席に座ってハンドルに手をかけました
ブルルンとエンジンが回転してジョージが走り出しました


坂道を勢い良く登ったら、そのままふわりと宙に浮いて
夜空に飛び出して行きました


「わぁ。気持ちいい。街がキラキラきれいだね」

「さぁお月さまに向かって冒険の旅始まり始まり~」

「えー、お月さまに行くの?」

「うん、お月さまの国へ行ってみようよ」

ジョージはいつも話しかけてくれるお月さまが大好きでした
いつかお月さまの国へ行きたいと夢みていたのです


「うわぁ、だんだん眩しくなって来た。目の前が真っ黄色だよ」

トラがそう叫んだとたんジョージの体は
木の葉のようにくるくる回ってゆくっりと着地しました


「トラちゃん大丈夫かい?」

「うん、平気だよ。お月さまに着いたんだね」

周りの様子を見てみると木や草がいっぱい

「なんだか地球と似ているね」とトラが言いました


地球から見たお月さまは黄色い光のベールに包まれていたけれど
その光の中はまるで地球とそっくりです


「お月さまは地球の鏡みたいだね」

ジョージはお月さまの国に来られた喜びでいっぱいでした


「なんだかのどが渇いたなぁ」とトラがつぶやくと

目の前に湧き水が現れたのでトラはゴクゴクと美味しいお水を飲みました

「僕はお腹が空いたなぁ。何処かにガソリンスタンドはないかな?」
とジョージが言うと向こうから可愛い女の子がやって来ました


「ようこそいらっしゃいました。私は麻子と言います
麻の油を差し上げますから付いて来て下さい」


「麻の油?!」トラとジョージは顔を見合わせて同時に言いました

「はい。地球では麻の油で車を走らせているのでしょう?」

「まだガソリンで走る車がほとんどでやっと水素で走る車が出て来たところです」

「水素で走る車のもっと先を行ってるね」

お月さまの国は自然がいっぱい
水も空気も本当に美味しくて
昔と比べたら地球はすっかり変わってしまいました


「そう言えば、さっきからぼく達が言葉にしたことが次々現れて本当になっているよね」

「水にガソリン。ほんとうだね」ジョージも不思議に思いました

すると麻子が言いました

「この村の名前は『言ったことが本当になる村』ですからね」

「え~!!」またもや二人は顔を見合わせて驚きの声を上げました

「二人共そんなにびっくりしてますがここでは当たり前ですよ」

麻子は面白がって声を出して笑いました

「明日は村を案内しますから今夜は我が家にお泊まり下さい」

そう言って二人を麻子の家に連れて行きました

「ここでゆっくりとお休み下さい」

広い庭の片隅でジョージはトラと安心して眠りにつきました


次の朝お日様がニコニコと顔を出し
トラとジョージを優しく照らして起こしてくれました


「おはようございます よく眠れましたか?」

「そうかここはお月さまの国だった 夢じゃなかったんだね」

トラとジョージはお月さまの国に来られて
本当に嬉しくてたまりませんでした


すると庭の向こうからいろんな声が聞こえて来ました

「地球から来たんだって」

「地球ってどんな星なんだろうね」

「来たのはトラックと猫なんだって」

「へーまだ地球では車が走っているんだね」

朝早くから村の人々が麻子の家に集まって来ていました

「ぼく達昨日の夜来たばかりなのにどうして分かったのかな?」

「どうしてかって?それはみんなの心がつながっているからですよ」

「地球ではつながっていないのですか?」

「みんなバラバラだよ」

「だからみんな好き勝手に人の想いを想像しては苦しんだり泣いたりしているのさ」

「本当じゃないことを本当だと思ったり、自分より他人の言葉を信じたりしてね」

トラは毎日町を歩いて人間のことを観察しているのでよく分かっているのです

「お月さまの国では動物も人も心がつながっているからみんなしあわせなんですよ」

お日様がニコニコしながら言いました

「どうしたら地球もお月さまの国みたいになれるのかな?」

「心がつながっているのは自分のことのように他を見られるからですよ」

「わたしとあなたではなくて、『わたしはあなた』と思える心です」

「その心がみんなの心だから心はひとつ」

「みんな姿形は違っても心がひとつだから、自分のことのように分かるのです」

「それなら何も恐ることもなく、誰かをいじめようなんて思わないよね」

「野良猫だからって追い払われることもない」 トラが胸を張って大きな声で言いました

お日様はさらにニコニコ笑顔でうなずきました

二人は村を見て回りみんながしあわせに暮らしているのを知りました

「地球に帰ったらこのことをぼくにいつも声をかけてくれるあの女の子に教えてあげよう」
トラは嬉しくてジョージの荷台でぴょんぴょん飛び跳ねました

そうしてお日様が帰って夜になりました
お腹もいっぱいで楽しい今日という一日を思い出しながら
二人は眠りにつきました

すずめの鳴く声でトラが目を覚ますと
いつものジョージの荷台でした

「ああ面白かったお月さまの国に行った夢をみたよ」

「さて朝ごはんを食べに村田さんのおばあちゃんちに行くとするか」


おしまい


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