童話 「うず巻きベーカリー」
私の街に新しいパン屋さんが開店しました。
お店の名前は「うず巻きベーカリー」
今日はオープンの日です。パンが大好きな私は、昨日からとっても楽しみで
朝一番に出かけて行きました。
お店に入ると普通のパン屋さんみたいにパンが並んでいません。
すると店の奥から、ニコニコ笑顔のおじさんがパンを運んで来ました。
「いらっしゃいませ。今日はパンは売りません」
「パンは売らないってどういうことですか?」
「さあ、どうぞこのパンを食べてみてください!」
「食べる前にパンをよ〜く見てから食べてくださいね」
そう言って次々と白い紙袋にスライスしたパンを入れて、お客さんに配り始めました。
「あ、ありがとうございます」私もそのパンをもらって帰りました。
白い紙袋には何か書いてあります。
〈このパンは細胞が喜ぶパンです。食べると元気になります。〉
「へえ面白いなあ」
白い紙袋からパンを出してお皿にのせてマジマジと見てみました。
パンの断面はきれいな色の豆がうず巻きのようにクルクルと入っていて、豆を目で追っていたらクラクラと目が回ったので一瞬目を閉じてしまいました。
「わあびっくりした、今のは何だろう?」
まるで宇宙に放り出されたみたいな感じでした。
不思議なパンだなぁと思いながら食べてみたら、今まで食べたどんなパンより美味しくて、あっという間に食べてしまいました。
噛めば噛むほど何だか嬉しくなって自然に笑顔になっていました。
〈このパンは細胞が喜ぶパンです。食べると元気になります。〉
本当にその通りでした。
次の日、私はパン屋さんに急ぎました。しかしあるはずのお店は消えて無くなっていたのです。
「私は夢を見たのかしら?」
あれから数日が過ぎた頃、夢の中にあのニコニコ笑顔のパン屋さんが現れました。
「どうだい、あのパンは美味しかったかな?」
「ええ、とっても美味しくて、本当に細胞が喜んで元気になりましたよ」
「ははは。君たち地球人はすべて思い込みで出来ているんだよ。つまり信じたこと、信念で現実を体験しているんだ。だから誰かが言うことを信じるか信じないかは、全部自分の選択だ」
「つまり白い紙袋に書いてあった言葉を信じたからその通りになったということですか?」
「そうだよ。信じるか信じないかだけだ」
「そうじゃないこともあるんじゃないのかしら?」
「ほう、君はそうじゃないこともあるという信念も信じているのだね。それならそうなることもあるのさ」
「あっ、ほんとだ。自分が何を信じているのかが大事なのね」
「そうだね。君は自分に教えてあげればいいんだ。信じたいことを何回も繰り返して、信じた通りになっているとイメージするといいよ」
「そんな簡単なことなのね」
「そうさ、とってもシンプルなのに、みんな教えてもやらないんだ。忘れちゃうんだよ。どうだい君は出来るかな?」
「はい。忘れてもきっと思い出させてくれる友だちがいるって信じます」
「おお、それは良いアイディアだ!」
目が覚めた時、私はとても良い気分でした。
夢に現れて教えてくれたパン屋のおじさんに感謝しました。
だけど、あのパン屋のおじさんは誰なのかしら?
おわり
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