映画「ラスト、コーション」感想
※この記事はネタバレを含みます
映画無名に続いて、1930年代〜40年代の上海、中国を知りたくて、当時のことが描かれた作品を見たくて、DVDを借りてみた。
今、AmazonプライムやU-NEXTなどの配信にはなく、近くのTSUTAYAにはあった。
2007年公開。当時は話題になったであろうせいか、シャンハイは店頭になかったけど、こちらはあった。
https://eiga.com/movie/53341/
(もう17年前だし公式ページが見当たらなくて、こういうページからの紹介ですみません)
ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞しているなど、当時は官能的なシーンをはじめ物議を醸していたよう。
でも、正直やっぱり作品としては無名が好きかも…って思ってしまった。(すみません)
映画無名の公式サイト
https://unpfilm.com/mumei/
なぜかというと、やっぱり無名の方がカッコいい。美学みたいなものを感じる。
ラスト、コーションはなんか野暮ったい。主役チアチーが想いを寄せていた男子学生が、暗殺しようとしたイーの婦人から、学生さんか先生みたいって言われていたときから、なんかもう、大人たちからはすでに見破られている感満載で、とにかくヒヤヒヤした。
そのヒヤヒヤ感は、学生じゃなくなっても微妙に続いた。元学生スパイたちは、やっぱりまだ成り切っていなくて、結局は未熟で、最後に失敗したとき、もうこうなることは最初からわかっていたような予見がずっとあった。
映画無名でのジャンのような役割が今回の主人公の役回りだったのだと思うけど、やっぱりジャンの方が大人で、かっこよくて、泣いている姿もどこかスマートで、見惚れた。
おそらく無名・ラストコーションともに実在の女性スパイ、テン・ピンルーをモデルとされており、
https://moviewalker.jp/news/article/1193955/p2
実際のモデルは、任務未遂に終わった後、銃殺されたということなので、ラスト〜のほうが実話に近いのだろうと思う。
主役の女性を見ていると、演技がそうなのか、話がそうなのか、はわからないけど、情が移ったというよりもむしろ、演技し続けることに疲れたという感じがした。
だって、やっぱりあどけない…。
彼女はあんな化粧をしないで、ナチュラルメイクで学生たちとはしゃいでいるほうが自然だった。
イー役のトニー・レオンが電話をしてお邪魔したかな?と聞いたのも見事だった。テーブルで会食をするシーンもどこか若い子が背伸びをしているような感じがあって、現実的には違和感があった。
そういう意味では、当然だが無名に出てくるスパイのほうがプロ意識があり、むしろ彼らなりの美意識も感じられた。
結局のところ、組織としてもラスト〜に出てくる共産党工作員らは未熟だった。虎穴に入って危険を犯す彼女をちゃんと支えきれていなかった。彼女が最後に仲間を裏切ってしまったのも、任務の前に行った拠点で上司との会話に表れているような気がする。
元同級生の男性への不満もそのとき吐き出されていた。
ストーリー解説やネタバレ感想はもちろん、おそらく監督も彼女が情が移ったとして描いていても、私には結局暗殺に失敗したのは組織としての未熟さ・構成員らの未熟、その点ではトニーレオン演じるイーらのほうがうまく立ち回っていたという点に軍配が上がってしまったというとらえ方のほうが自然な気がする。
イーが彼女に気を許していたのは、確かに落ち度とも言えるのだが、自分の私情を交えつつ、彼自身が気づいているのかいないのか、プロ意識がさまざまな言動に表れていたと感じざるを得ない。主役のチアチーはまだ未熟過ぎた。あの表情は無理している感があり過ぎて、最後に逃げて、と言ったときの解放感といったら。
私にはそんなふうに感じ取れた。おそらく男性側の意見はまた違うのかもしれない…監督含め。
実際のテン・ピンルーも結局のところ、自分の色気を利用していることに本人自身が傷ついているのに、周りはもっとそれを活用しなさいという状況につらくなったのではないか…とか同じ女性として想像をめぐらさずにいられない。
結局のところ、当時は戦時下でそもそも人権みたいなものだってない。手段を選ばない状況で、美しい女性スパイたちはこうした複雑な想いを抱えていたのではないかと思う。割り切れることなんてできず、それを組織への反発心に最後は裏切りという形で未遂に終わった。
なんとなく、そういうことだったとするほうが私には自然に感じられる。もちろん、イーとチアチーの視線、絡み合いは嘘ではないし、そこに情愛はあったのだと思うけど、結局のところはそうだ、と同性の意見として言い切りたい。
とにかく玄人のトニーレオンと、新人の主役、タンウェイとの絡みはストーリー的にも役柄的にもそういう意味で合っていた。タンウェイがトニーレオンの膝枕で寄りかかっている姿がいちばんマッチしていた。
タンウェイがめちゃくちゃセクシー過ぎないのに(体的にもどこかあどけなさを感じた)視線だけで誘惑し、アクロバティックなシーンもこなしているのが良かったと思う。でもあれは大人の女性ならまだしも、あのあどけなさであのシーンはほぼほぼレイプにしか見えない…。
そうやって考えていくほどに戦時下では、男性が女性を力で屈服させていた時代背景も映し出していたともとれる。
余談になるけど、当時の汪兆銘政権下の建物、イーの職場はラスト〜ではほとんど出てこなくて、無名ではしっかり出ているので、逆にラスト〜でイーが中を見るか?と言ったときの言葉の深みを想像できたことがよかった。
そしてまた逆に、無名では共産党の拠点の描き方は浅めだったので、今回ラスト〜で割としっかり見られたので勉強?になった。
無名でのチェンをどう逃したかが、これでもう少し想像しやすくなった。
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