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「明日の朝、家まで迎えに行くから」と言われ……。 AV出演強要や自画撮り被害、日本にもある「人身取引」

「人身取引」=「現代の奴隷制」

「モデルになりませんか?」「芸能事務所に興味ありませんか?」渋谷や新宿の街頭で、若い女性にスカウトたちが声をかけるところを見たことがあるかもしれない。

「そうやってスカウトされたある女性が、登録したプロダクションが勧めるオーディションを受けたところ、撮影が決まったという連絡がきたそうです。撮影の前夜になってから脚本がLINEで送られてきて、読むと『3人の男優とからみがある』と書いてある。『からみって何?』と思ったら、性行為のことだった。彼女はアダルトビデオ(AV)の仕事だとは知らなかったんです」

女性はびっくりしてプロダクションに「出たくない」と断ったが、契約をしたのだからと聞いてもらえない。「6時間後の早朝、君が住んでいるところに車で迎えに行くから」と言われてしまう。怖くなった女性はネットで見つけた支援団体に電話をかけて相談。すぐに支援団体のスタッフがアパートを出るように言い、用意された宿泊施設に一緒に泊まってから、安全な場所へと移動。その後、弁護士がサポートについた。

これは、NPO法人「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」(以下、ライトハウス)に寄せられた相談事例のひとつだ。代表の藤原志帆子さんは2004年8月に団体を設立。日本における「人身取引」の被害者支援や政策提言、啓発活動を行ってきた。

人身取引という言葉は、あまり聞きなじみがないものかもしれない。国連が定める定義をまとめると、「“搾取を目的”として、“暴力や脅し、騙しなどの手段”を使って、“人権を侵害する行為”」のこと。被害者が18歳以下の場合は、目的と行為だけで人身取引とみなされる。ライトハウスでは、それを「現代の奴隷制」とも呼んでいる。

【画像提供】NPO法人「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」

たとえば、現在ライトハウスに寄せられる相談内容で最も多いのは、「AV出演強要」だ。ほかにも「児童ポルノ」「売春・性産業従事の強要」「労働搾取」などの相談がある。退職したくても辞めさせてもらえないブラック企業、外国人技能実習生の労働問題なども人身取引にあたる。

ライトハウスでは、こうした被害にあった本人や通報者からの相談を受け、本人の希望や意思を尊重しながら弁護士、警察、行政機関、民間団体など必要な社会資源につなげている。

「日本に売られた」女性との出会い

代表の藤原さんがこの活動を始めたのは、アメリカの大学を卒業後、ワシントンDCにある人身取引専門NGOでインターンとして働いた経験からだった。そこで、自分と変わらない年齢の女性が騙されて日本に売られたというケースや、10代のころに日本で半年間売春をさせられた女性のケースなどに遭遇しショックを受けたという。

「日本にも人身取引があったんだと気づきました」

そこで日本に帰国して、望まない性的労働、強制売春、強制労働をなくすための相談窓口を立ち上げる準備を進めたが、周りからは「人身取引は海外の問題で、日本にはそんな被害はない」と言われることも多かったそうだ。

「しかし、1990年代終わりのその頃、たとえば東京のタイ国大使館では、日本でHIVに感染した100人以上の女性たちの帰国支援をしていました。彼女たちは温泉宿や繁華街のスナックやバーで働くだけでなく、望まない売春を強要させられていたんです。

そんな女性を守るために民間団体が寄付を集めて駆け込みシェルターを作らざるを得なかった。日本には相談窓口がないので、本人が限界まで我慢してから、シェルターや大使館、警察に駆け込んで助けを求めるしかない状況だったんです」

相談窓口をスタートさせると、少しずつ電話やメールでの相談が寄せられるようになり、入国管理局に保護を求めたり、帰国支援をしたりと活動も広がっていった。そうして活動を始めて5年ほど経った頃から、段々と日本人女性からの相談が増えてきたという。

「80~90年代は、東南アジアや中南米から日本に来ている女性からの相談が多かったのですが、法律などが変わったこともあり人数は少なくなりました。かわって貧困の若者やネグレクト家庭に育った中高生など、弱い立場に置かれやすい人たちが性産業に狙われていったように感じています」

「9年間、恋人に風俗産業で働かされた」

藤原さんは、ずっと忘れられないという、ある相談者のケースのことを話してくれた。それは外国人から日本人へと相談者の割合が移り始めた2009年のことだった。

「ある日、ひとりの日本人女性が『9年間ずっと恋人から風俗産業で働かされていた』と相談に来たんです。自力で逃げ出したものの、稼いだお金をもっていかれて自分は全てを失ったと話していました。

相手は彼女と将来を約束していたというひと回り年上の男性で、出会ったのは彼女がまだ10代後半のとき。その後、彼から両親や友人との付き合いを遮断されて、精神的、性的、経済的なDVを受けながら風俗産業で働かされていました」

その女性は9年間、相談できる相手もなく、周囲にはその状況に気づく人もいなかった。彼女自身は相手を訴追したいと考えていたが、精神的にかなり追い詰められていて自傷行為もあったため、思いをかなえることができないまま長期入院せざるを得なくなってしまったという。

「法律的にはひっかからないようなやり方で国境を越えない人身取引が行われているのだと感じました。誰からも気づかれずにいた彼女の無念や怒りを、力に変えなくてはいけないと思っています」

その後も日本人からの相談が増えていき、mixiなど当時広がっていたSNSを通じて、いじめの一環で援助交際をさせられている13歳の少女、親からのネグレクトで生きるために援助交際や売春をしている少女などからの相談も寄せられるようになった。

最初は自分の意思で始めた援助交際であっても、相手にだまされて裸の写真を撮られて脅迫を受けたり、犯罪にまきこまれたりといったケースもある。

「日本には、10代の少女が成人男性に買われているという現状があり、その背景にはいじめや家庭の虐待などもあります。そういう問題に対して、日本の社会も制度も無関心。『お金がないなら風俗で働けばいいんじゃないか』とか、『そんなところで働くのは非行少女だからだ』と平気で口にする。最近になって、やっと世の中の意識も少しずつ変わってきたのかなと思いますが……」

中学生が狙われる「自画撮り」の被害

18歳以下の子どもが被害に遭う「児童ポルノ」や「児童買春」などの相談を受けた場合には、警察が介入して事件化されることも多い。

「13歳とか14歳、中学2年生くらいが被害者になっているケースは結構多いです。自画撮りの被害が深刻ですね」

たとえば、ある女子中学生の場合。SNSに「●●県住みの中学生です」とアカウントを開設したところ、さまざまな人からメッセージが届くようになった。そのなかで知り合った同世代の男の子と好きなゲームの話などで盛り上がり、何度もメッセージをやりとりするうちに親しくなって付き合うことになったという。

厳しすぎる家庭で育ち、SNSに自分を受け入れてくれる居場所を求めていた彼女は、「会えなくてさみしいから写真を送って」という彼の要求に、最初は嫌われるのが怖いからと下着姿などの写真を送る。しかし、相手はだんだんと態度を変えていき、最後には送った写真を公開すると脅されて過激な動画を撮るように指示してくる……。

実は、相手の男子中学生はまるで彼女のものかのようなSNSアカウントをつくり、「私のモザイクなしの画像がほしければギフト券を送ってください」と画像や動画を販売していた。そして、多くの大人が女子中学生の画像を購入していたのだ。こうした自画撮りによる被害は多く、SNSで中学生になりすましていた加害者が、実は成人男性だったという場合も多い。

援助交際がきっかけで盗撮や脅迫などの犯罪に巻き込まれるケースもあるが、そもそも援助交際を始めた理由を聞いてみると、実父からの性暴力や母親からのネグレクトなど、家庭環境の問題が隠れているという。

「『朝まで帰ってくるな、一日中外を歩いてこい』と親に追い出されて、寒い日でも泊るところを探さなくちゃいけない子どもがいるんです。本来は児童相談所につながるべきですが、過去に児童相談所とのトラブルがあって本人が絶対に行きたくないという場合もある。

そういう相談を受けたときには、ライトハウスのスタッフが付き添ってビジネスホテルで緊急宿泊支援を行うこともあります。そうしないと、彼女は知らない男性とホテルに行くなどして朝まで過ごす場所を探さないといけなくなるからです」

このケースでは、ライトハウスが間に入って本人と児童相談所の関係を丁寧に結び直すことで、家庭での虐待への介入につなぐことができた。

「AV出演強要」の相談が急増

また、ここ数年で相談が急増しているのが、AV出演強要問題だ。メディアに大きく取り上げられたこともあり、現在では相談件数はいちばん多い。

「無理やり裸にさせられてレイプそのものの様子を撮られたうえに、そうした映像や写真がネットや雑誌など至るところにさらされます。通っている大学や地元の同級生にも知られてしまい、『映像を消したい、もう生きていけない』というSOSが来るんです。AV出演強要そのものも深刻ですが、映像が出回ることで被害がどんどん広がっていきます」

ライトハウスの事務所の壁には、これまでに被害者から相談を受けたAVプロダクションやメーカーのリストが貼られてるが、そこには何十社もの会社名がずらりと並んでいる。

「AVの場合は、法律の問題があり18歳以上がターゲット。『パーツモデルだから』『芸能人事務所だから』と甘い言葉で強引に勧誘し、断りきれずに事務所に行くと契約書に署名するまで帰してもらえそうにない。その契約書は6本とか12本の撮影をするという内容になっていて違約金がかかるようになっているんです。

AVだと知らずに撮影現場に行き、『スタッフ全員分のキャンセル料を払えるのか』と脅されたということもあります。しかも、数年前までは出演を断った女の子が損害賠償で訴えられていました。ここ最近はやっと理解が広がって、警察も裁判所も『こんな契約書はダメだから、違約金を払わなくてもいい』という傾向になってきています」

巧妙な手口にかかり、「周りに迷惑がかかる」「親に違約金のことを知られたくない」という気持ちから被害者になってしまうこともある。

なかには18歳になった途端、高校在学中にもかかわらずAVに出演強要させられ、人身取引として認定され警察に検挙されたケースもあるが、こうして事件化されるのは稀だという。

「強要罪や監禁罪などが成立しそうな場合は、弁護士同伴で警察に相談に行くこともあります。しかし、多くの場合は法律には引っかからず、弁護士が間に入って契約の問題として民事で争うことになる。交渉して画像や映像を消してもらうこともあります。しかし、契約を盾にされないように、出演強要自体を取り締まる法律が必要。いま、私たちは国会議員との勉強会やロビイングを続けています」

AVや児童ポルノの被害に遭ったという相談は女性からだけではない。

「20人にひとりくらいの割合で男性からの相談もあるんですよ。その場合も加害者は男性です。『モデルにならない?』と誘われて撮影に行ったら、同性愛者向けのAVに無理やり出演させられたというケースもあります」

人身取引を許さない社会に

こうした被害に対して「SNSで自画撮りを送るなんて」、「援助交際をしていたんでしょ」と自己責任や被害者の過失を追及するような声も聞こえてくる。しかし、被害者を責めるような社会はおかしいと藤原さんは言う。

「『自己責任』という批判ばかりを向ける日本社会は成熟していないと思います。『分からないで契約書にサインしたから』『断りきれなかったから』と、被害者は相談してくれた後も、ずっと自分自身を責めている。

社会の意識が被害者の声をますます上げづらいものにしているのです。若者や子ども、社会的に弱い立場にある人などをだまして、彼女・彼たちの性をむさぼっている人がいる。その加害者側の責任を問うべきですよね。

誰でも被害に遭う可能性があります。ごく普通の子どもたちが彼氏だと思っていた人に甘い言葉で誘われて、性的な画像をもとに脅迫されることも起きています。人身取引は海外の話ではなく、日本にもあること。人身取引とその被害者の存在に気がつける社会にしていきたい。そして人身取引を許さない社会にしたい。そのためにも実態を知ってほしいのです」


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【写真】馬場加奈子【写真提供】NPO法人「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」
【取材・執筆】 中村未絵:出版社、NPOでの勤務を経て、現在はフリーランスで編集・取材・ライティングを行う。

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