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「どこにも居られなくなってしまった人々が最終的に行き着くのが公共空間なんです」ホームレス問題を都市のあり方として捉え、誰しも都市にホームがある社会へ

ARCH (Advocacy and Research Centre for Homelessness)は都市や地域の中に存在するホームレス問題について、調査研究やアドボカシーをおこなっている団体だ。また、ホームレス状態におかれた方の「実際の人数」を市民の力で調査するソーシャルアクション「東京ストリートカウント」も主催されている。

今回の「東京アンブレラ基金」では、協同団体として唯一直接支援団体ではなく、調査協力という形でご参加いただいている同団体。
なぜ専門の調査機関が必要なのか。また、一年後に迫った東京オリンピックが何をこの都市に引き起こすのか。代表の河西奈緒さんにお話をうかがった。

都市の問題としての「ホームレス」

ARCHを立ち上げられ同代表である東京工業大学研究員の河西さん。最初から「ホームレス問題」そのものを研究対象にされていたわけではなかったのだという。

「専門は都市デザインです。もともと大学進学時から都市計画や街作りを学んでいたのですが、大学院一年の時に社会起業家を育てるための留学プログラムに参加し、イギリスのThe Big Issueに一ヶ月インターンとして留学したのがホームレス問題に直接関わったきっかけです。
いざ関わってみると『これは社会的にすごく不公正な問題だ』と感じ、思いかげず現在までの私のミッションとなりました」

河西奈緒さん

団体設立の直接の動機となったのは、2020年に東京オリンピックの開催が決定されたことだ。

「2013年に東京オリンピックの開催が決定したとき、私たちの研究チームは偶然にも、過去のオリンピック開催都市であるシドニーとロンドンのホームレス政策を研究しており、オリンピック時に何が起きたかを知っていました。
そもそもオリンピックやワールドカップなどの国際的な大イベントがおこなわれる都市では、表面的な美化を進める動きが起こることがあります。
中でも1996年のアトランタオリンピックにおいては、多くの旅行者が訪れる都心部にいたホームレスの人々にバスの片道チケットを渡して都市外に送り出したり、路上で横になることや荷物を置くことを禁止するといったホームレスの人々を狙い撃ちにした条例を制定して逮捕・収容するなど、かなりひどいことがおこなわれました。

一方で、シドニーやロンドンでは『そういうことを起こしてはいけない』『むしろこの機会に自分たちの都市のホームレス問題に真剣に取り組もう』という機運が多くの人々の努力によって生まれ、オリンピックを機に包摂的なホームレス政策が前に進められました。

それまでは研究者という立場だったのですが、いざ東京にオリンピックが来るとなった時に、それら過去の問題や人々の努力・功績を深く知っていたのは自分達だけだったんですね。だから、東京がこの機に排除ではなく包摂的な方向に前進する都市になるため、もうこれは自分達が立ち上がるしかないと思ったんです」

こうして2015年、河西さんは何人かの仲間と共にARCHを設立した。

「ARCHの視点として、他のどこにも居られなくなってしまった人々が最終的に行き着くのが公共空間であり、ホームレス問題は私たちの都市が、多様な人々に居場所を提供することのできない都市であることを示している。
そういった視点から『ホームレス問題』を、福祉的アプローチとは異なり、都市や公共空間のあり方の問題として捉えています。
ホームレス状態の人をひとりひとり支援することももちろん重要ですが、ARCHとしては根本として『この問題をどうにかしようと真剣に考えられていない社会の方が問題なのではないか。市民ひとりひとりに自分たちの都市のあり方の問題だと認識してもらい、やさしい都市をつくるにはどうしたらよいか』を考え、現在まで研究と活動を続けています」

実態を調査するストリートカウント

設立されたARCHでは、まずホームレス問題が自分たちの都市の問題だと実感し、共に考えてもらうために、市民参加が可能な枠組みが必要だと考えた。
そこで河西さんが「いいな」と思ったのが、海外で実践されている市民参加型の「ストリートカウント」だった。現在東京都が出している「路上生活者概数調査」は昼間に職員が目視で数えており、多くのホームレスの人々が実際に路上に現れる夜間の実態を捉えられていなかった。だが、この統計が問題ありだと認識されていても対抗した動きはまだなかった。

「最初のストリートカウントは2016年1月12日から14日にかけて、渋谷・新宿・池袋の三夜連続で開催したのですが、実際に動いてくれる人を一夜30人から40人集めることがとにかく大変でした。だから最初はほとんど友人や知り合いの関係者をかき集める形で、当日は終電後の深夜の渋谷に実際来てくれるのだろうかとドキドキしながら待ち、いざ集まってくれた人達を見た時には本当に安堵し、感動しました。
おかげでだんだんと認知度が高まって、人探しには依然苦労しているものの、いざ開催を告知すれば私たちの活動を知っている人が手を上げてくださることが増えています」

「東京ストリートカウント」実施の模様(写真提供:ARCH)

2019年現在も継続して開催し続けている東京ストリートカウントは、2019年春の時点で市民ボランティア859名が参加、7期に渡って都内16区7市を調査するまで拡大した。その調査の結果、東京都の「路上生活者概数調査」の約2.6倍の方が路上状態におかれ、また1年間に1日でも路上生活をせざるをえない人は約24000人、その中で新たに路上に追いやられる人は約16000人いるとの推計が出されている。

オリンピックを機にホームレス憲章を

河西さんによれば、1996年アトランタオリンピックでの過剰な排除が起こったあと、それを反省し乗り越える試みがなされたという。

「2000年のシドニーオリンピック開催前に、シドニーの人たちがアトランタの現地へ査察にいき、アトランタで起こったような排除を起こしてはいけないと草の根でプロトコル(議定書)を作ろうという動きが始まり、やがてその動きは行政を動かしました。
結果、福祉・行政に関わる人間はもちろん、オリンピック公園の管理者までも、ホームレスに関わる可能性のある皆がサインするプロトコル(議定書)が策定され、ホームレスの人も普通の人と何も変わらず、公共空間にいる権利があるし、スポーツイベントだって同じく参加する権利があることが明確に締結されました。
また、2012年のロンドンオリンピックでも、また別のストーリーですが大きく政策を進めたということがありました」

ARCHもこれに倣う形で、2020年東京オリンピックの年までに「ホームレス憲章」の創設を目標としている。

「東京オリンピック開催に向け、日本でもアトランタオリンピックのように排除が起きてしまうことが懸念されます。一方で、シドニーとロンドンではオリンピックをチャンスにして政策を前進させたという事実もあります。
繰り返しになりますが、ARCHとしては、東京も『前進させよう』という考えで動いているんです。仮にも先進国だと言い張るのだったら、世界からまわってきたバトンはちゃんと受け取らなければならないと思います」

都市自体にリサーチ&アドボカシー機能を

今回の東京アンブレラ基金においてARCHは、各支援団体からの緊急宿泊支援の利用実績を集計、調査分析を担っていただく予定だ。
直接支援団体とは別に、このような知見を持った専門の研究者が関わる民間の調査団体の重要性が今後さらに必要になるのではないかと河西さんは語る。

「イギリスやオーストラリアなどの海外には、公から資金提供され、直接支援ではない研究・アドボガシー専門の団体があります。市民団体が行政と交渉する時にも、そのような数字を裏付ける団体がハブとして入っていると話が通りやすいのですね。長期的に私は、東京という都市自体にそういったリサーチ&アドボガシーを担う機能がつけたらと考えています。今回、東京アンブレラ基金の仕組みでARCHを使っていただくような形を、公的に拡大するような仕組みです。ホームレス問題を調査研究する団体として、将来的にもARCHがそれを担う一助となれればと」

「今回の東京アンブレラ基金でいえば、現状の『ホームレス』の問題を細かく切る形で一晩困っている人を捉えてしまい、一連とした『都市のあり方』で語られてきませんでした。そこにあるばらばらだったものが大きい一つの「homelessness」の問題であると考え、誰しも都市にホームがあるという状況になっていければと思うのです。
ARCHは、路上ホームレス状態に関する運動から始まり、それを活動の根っ子には持っていたいとは思いつつも、大きく『都市の中での不安定居住』というテーマに対応できるアドボカシー&リサーチの団体を目指していけたらと考えています」
[了]


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【写真提供】ARCH【編集協力】松島摩耶
【取材・執筆】 佐々木大志郎:つくろい東京ファンドにて広報&資金調達担当。東京アンブレラ基金事務局。そのほか複数のNPOやプロジェクトで広報やファンドレイジングを掛け持ち。

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今日も、誰かの緊急事態。でも、東京には「傘」がない。世代、国籍、SOGI……あらゆる分断を越えて、誰も路頭に迷わせない東京をつくるため、複数の支援団体と協働で緊急一時宿泊時の宿泊費拠出と横断的な調査をおこないます。

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