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うましき台所帖 第9回 「100年の味がつなぐもの。福島智哉さんとつくるコロッケ」レポート

うましき台所帖とは?

2022年7月より、秋田市文化創造館の1階キッチンスペースを拠点に開催している料理教室。毎月、講師が代えて開催しています。(2023 年3月までの全9回)ここで学ぶのは料理の手順やコツだけではありません。ともに手を動かし、味わいながら、講師と参加者がともに語り、学び合い、この土地の魅力や生き方をあらためて考える場です。


第9回「100年の味がつなぐもの。福島智哉さんとつくるコロッケ 」
■ 講師:福島智哉さん(男鹿市 )
■ 日時:2023年2月23日(木・祝)
■ 場所:秋田市文化創造館 1階 コミュニティスペース


男鹿市で100年以上続く精肉店「グルメストアフクシマ」。この店を支えてきたものの一つに、創業時から続く「コロッケ」があります。この店の4代目の智哉さんいわく「自らの生き方を形にしている」というコロッケ。そこには、どんな思いが込められているのでしょう? 大人気の味を直伝いただきながら、その奥にあるものを一緒に探っていきます。


105年続くコロッケを作る?!

このたび教わるコロッケ。
・じゃがいもを蒸す
・玉ねぎ、ひき肉を炒める
・タネを形成して、衣をつける
・揚げる
という工程ではありますが、福島さんのコロッケはこの工程のなかに、深い深いこだわりが詰まっています。

例えば、
野菜や肉は地元の農家のものを使用する
肉は塊のものを茹でて余分な脂をとり、一晩置いたものをひき肉にする
じゃがいもは季節や品種によって調味を変え、熱いうちに潰して寝かせる
パン粉はメーカーに依頼したオリジナルの無添加のものを使う
油は安全性の高い米油を使う

……などなど、一緒にゼロから行うのでは、この教室の時間内には終わらない!ということで、今回は、用意してきてもらったタネを元に「形成」「衣をつける」「揚げる」の工程に集約して教わることに。

工程の途中から教わるだけでも、かなりの情報量!それでも、普段はなかなか使えないような厳選された食材と、大きな鍋での揚げ物に、みなさん大盛り上がりです。

完成した熱々のコロッケを食べながら、この、こだわりのコロッケのルーツや、福島さんの思いを伺っていきます。


トークの時間

【福島精肉店、創業物語】

福島精肉店は、曽祖父が105年前に男鹿に創業しました。コロッケは、創業当時からあるものです。曽祖父は、東京の料理学校の調理師の講師をしていたこともあって、コロッケが日本に来てまもなく自らレシピ化していて、素材の選び方こそ変えているものの、レシピは今も創業時と同じものです。

肉屋を始めた経緯としては、曽祖父は喉に病気を持っていて、豚の甲状腺を飲むのが良いと言われたことから、甲状腺を入手しやすい仕事として肉を扱う仕事を選んだようです。まずは肉の仲買人になって、仕入れで全国を回っている中で秋田に来て、秋田市の川反で芸妓さんをやっていた曽祖母と出会って。気にいたったんでしょうね(笑)。そのまま曽祖母を連れて東京に戻って、その後、関東大震災のあと、曽祖母の本家のある男鹿に移り住んで、肉屋を始めることになったそうです。当時は男鹿に肉屋はなかったし、男鹿でコロッケというものが食べられたのは、うちができてからなんじゃないかと思います。

【始まりは、ボブ・ディラン】

今日、みなさんと作ったコロッケは、今お店で出しているものと同じもので、素材へのこだわりを感じてもらえたかもしれませんが、そうなっていったのは、父の代からです。

父は今67歳ですが、小学生の頃に、ピーター・ポール&マリーというグループが、ボブ・ディランの「風に吹かれて」という曲をカバーしていたのを聴いて衝撃を受けたそうなんです。これは世界平和を歌った曲で、高度経済成長期だった当時、そういう精神性、音楽性に触れながら、その価値観を追うことで、権力が全てではない、報道されていることが絶対ではなく「根本的に大事なことってなんだろう」と考える癖ができたようです。そして、自分は食の世界で信念を持ってやっていこうと思うようになり、無農薬、無添加などにこだわるようになっていったそうです。

父は「地産地消」と言われる前から、地元のものを使うことなどを謳っていましたが、僕が戻ってきた十数年前は、僕からしたら、まだまだという印象でした。農家さんとのつながりも、使う素材についても中途半端だったので、さらに突き詰めて、今の形になりました。

自分が嫌になるくらいやらないと納得できない時期もありましたが、最近は、「あれもだめ、これもだめ」で疲れてしまっては意味がないとも思っています。店として最低限のラインは守りながらも、食べてくれた人が喜んでもらえるようにという心があることが大事だと思っています。
みなさんも、今日お伝えしたこと全てをやってください、ということではなく、できることからやってもらえればいいと思うし、自身にとって何が大事かを考えることが大事なのかもしれません。

【オガニック構想】

数年前から、男鹿の仲間たちと「オガニック構想」というものに取り組んでいます。
オーガニックな農業、観光、まちづくり……連想するものをみんなで挙げながら、地域がオーガニックになっていくことをみんなで考えることからはじめたんですが、そして、そういう価値観を共有できる人たちが男鹿に来るといいねという意味で「オーガニック」と「男鹿に行く」をかけているんですね。

地域がオーガニックになるというのはわかりにくいかもしれませんが、僕としては「優しい」っていうことなのかなと思っています。人間関係も含めて、地元の上下関係……やりやすいことだけじゃなく、苦手も含めて受け入れていくことも「優しい=オーガニック」なんじゃないかなと。

そういう考えのもと、「ひのめ市」というマーケットイベントを企画したり、このイベントを経て、仲間たちと会社を作って、「トモスカフェ」をオープンしました。

ここができたことで、男鹿にあった定食屋さんの味を復活させつつ男鹿の歴史を振り返るきっかけができたり、人とのつながりができて知らなかった男鹿が見えたりしてきました。

この十数年、お店としてはいろんなことをやりすぎてしまっている印象もあります。創業者が肉屋を始めたきっかけが「命を大切にする」ということだったことを思うと、最近では僕も、無理をせず、命を大切にするということを軸に、もっとコロッケに特化していってもいいのかなと思っています。


参加者の声

●ボブディランの歌から、このコロッケの味ができていたとは思いませんでした。お店に行って「オーガニック」と書いてあるのを見てもよくわからなかったんですが、今日のお話を聞いて、自分ができることをやればいいんだ、ということを感じました。

●いつもコロッケを美味しくいただいていますが、そこには、ものすごいこだわりがあったことが伝わってきて、何個でも食べられてしまうというのは、そういうことだったんだな、とよくわかりました。

●今日と全く同じことを家で再現するのは難しいんですが、良い経験になりました。

●オーガニック=優しくというのがとても参考になりました。

●見えない手間や思い、一つ一つがこの味わいになっているのだとわかりました。「考えることが大事」というのが印象的でした。

うましき 台所帖の詳細・今後の開催については、こちらでご確認ください!
https://www.facebook.com/umashiki.kitchen

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