第0話 『狂人!”うどん”というサードフェイスを持つ男』
人生でうどんに費やす時間はどれほどだろうか。
食べるだけならまだしも打つとなれば、1回の打ち始めから終わりまで4時間以上かかる。うどん屋の店主なら、またうどんが子供のころから身近にありご飯と同じような存在の人間にとってなら当たり前の話なのかもしれない。しかし彼は違う。彼は普通の会社員。
彼は千葉県の工務店に勤めるまでは八王子にある大学にいた。成績は上の中。単位を落としたことはなく授業料もいくらか免除されており、またお祭りやイベントのMCとしても活動し、その傍ら都内の公立図書館で司書を勤める等、活動的な人間である。新卒として働き始めた現在でも、社長に直談判して会社横の空き地で農業を開始するなどその活発さは失われていない。しかしこれはあくまで彼の”表の顔”でしかない。
饂飩人テウチが彼の中に芽生えたのはまだ大学に在籍していた時だと思われる。彼は困窮していた。(※これは家庭事情によるものであるがここでの記載は控える。)彼はバイト先で、「成果を出す代わりに店のごみ箱をあさる権利」を店長から獲得し、肉や野菜などの残飯を持ち帰っては冷凍し、貯め、食べていた。それだけでなく近隣のお年寄りのところへ行っては世間話と交換に食べ物を恵んでもらっていた。この生活が数ヶ月続いたある日、彼はうどんを打ち始めた。
彼が饂飩と出会うのは必然だったのだろう。何せ水と小麦、あわよくば塩さえあれば作れる。日本は水が豊かで清潔かつ安価。料金を支払わなくても水道を止められることはない。小麦はお米の3分の1の価格で入手できる。
以来2年近く自分のうどんを食べる生活を続けた。就職もし、生活も安定している。しかし、彼はうどんを打ち続けている。
現在の彼は朝7時に家を出て働き、夜7時に帰ってきてうどんを打つ。小麦と食塩水の計量、練り、足踏みと寝かせを繰り返し、延ばして切り、茹で、食べる。計量から実食まで6時間以上かかるこの作業をこなすのだ。休日は出張手打ちうどんやイベントの主催。他方、手打ちうどん文化を守り普及する組織のディレクターでもある。そして、食で人々を幸せにする組織【UMA VEL】の一員となった。
彼は何者か。それは未だ見えてこない。経歴に一貫性もない。しかし、うどん。それが今の彼にとっては重要な要素の一つだといえるだろう。この狂人が何を考え、どこへ向かっているのか。それを解き明かすことが、この世にまだ隠れているであろう、食能を持つヒーロー/ヒロインを輝かせ、世界を平和にしていくという我々の目的に一致していると考える。今後も観察を継続し、彼の行動や生態について記録していく。
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