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その瓶をあける日まで
梅雨がきた。先日、天神橋を渡っていると、前方から傘をさしながら、大きな瓶を抱えている人が近づいてきた。僕は心の中で暑い暑いと呟きながら(声を出していたかもしれない…)ジメジメと汗をかいて、あぁ梅雨は苦手だなぁと、モノクロの街をとぼとぼと歩いていた。でも、すれ違う瞬間、ハッとした。その瓶の中には、少し色づいた梅と砂糖が重なり合い、じっと次の季節を待ちながら、こちらを見ているような気がした。まだ、瓶の中では、梅と砂糖が出会ったばかり。はじめましてと言わんばかりの、なんにも起きてないことに美しさを感じ、これから混ざり合っていくであろう期待を胸に、遠ざかる瓶が愛おしくなった。梅と砂糖は、半年後には美しい琥珀色へ変化していく。暑さや寒さを感じながら、そしてお世話されながら、かたちづくられていく。この少し先の未来を想像できるのは、僕たちが過去を知っているからかもしれない。モノクロの街にハッと現れた色づいた世界は、自分たちの経験の重なりによって、立ち上がってくる。まるで、ジャン=リュック・ゴダールの『愛の世紀』のようだなと妄想していた。そんなことを考えていたら大きな瓶を抱えている人は、振り返ると、橋を渡り終わったようで見えなくなっていた。
デザインの仕事も、始まりはいつも、梅と砂糖が重なり合う瓶の中のようだなぁと思うことがある。
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デザインの相談を受けた瞬間は、梅と砂糖のように、素材や言葉や人が出会い、見合って! 見合って! とか、はじめまして! といった感じだろう。すぐに何かが生まれるわけでもなく、時間を共にしながら、ゆっくりとかたちづくられていく。そして、一緒につくる人たちや、もの同志が信頼し、混ざりあうことで、プロジェクトが発酵していく。その発酵のメカニズムは、どうなっているのだろうか。多くの場合、関わる人たちが対話を繰り返し「経験」と「経験」を重ね合わせる。その重なりから、プロジェクトの真っ直ぐな道が見えてくることもある。でも、その道は本当に進べき道なのだろうか。いつも悩んでしまう。僕が好きなのは、なかなか道が見えない、見つからないタイミングに、誰かの突拍子もないアイデアや妄想、閃きが、壁をぶち破って現れる「経験」と「経験」の境界が溶けた、くねくね道だ。まだ、歩いたことがないその道は、恐怖さえ感じるだろう。想像以上に遠回りかもしれない。でも、デザインは時に未来をつくることがある。予想がついてしまう慣れた安全な道も悪くはない。でも、僕たちは、くねくね道が現れちゃうような仲間と、いつも、組んで仕事をしている。そんな道は、梅と砂糖が琥珀色ではなく、新しい色へと変化する可能性を含んでいるように思う。いつも可能性に賭けてみたいから、人類で最初に納豆を食べた人(いろんな説があるらしい)のようなチャレンジを僕らは選んでしまう。また、そういう人を応援したくなって、一緒につくりたくなっていく。
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デザイナーは「こっちに行こう!」と声を出す仕事でもあるので、失敗すれば、責任重大でもある。でも、くねくね道は、信頼しあっていれば、楽しく一緒に歩めるはずだ。そこで、「こっちに行こう!」となったら、お互いが助け合えるよう、デザイナーとして大切にしている態度がある。
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UMA/design farmが考えるデザイン(態度)
1.魅力を最大化する
2.バラバラになったものを組み立てる
3.世界のバランスを考える
4.なにかの媒介になる
5.目に見えない新たな関係性をつくる
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この5つを意識し、捏ねたり、つくったり、話したりしながらプロジェクトを進めていく。1はデザイナーが職能として求められることだ。よりよくしていく。シンプルだけど難しいことだなといつも思う。2はパーツを集めたり、無くなってしまったものを見つけたりしながら、かたちをつくり上げること。3は持続可能な方法を探して提案すること。4は接着剤になったり剥離剤になったりして距離をつくること。5の「目に見えない新たな関係をつくる」は、僕が一番興味のあることかもしれない。特に早すぎる社会についていけない「置いてけぼりになっている人たちに向き合う」という態度も示せそうだなと考え始めている。
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これらの意味は、時代とともに変化していって良いなぁと思っているし、見る人によって変わって良いと考えている。大切なことは、瓶を開けたら新しい世界が始まること。そんな気持ちで、色々なことに興味を持ち、あぁでもない、こうでもないと日々、試行錯誤をしている。
このポスター、とっても気に入っているので特別に大きくしておきます ↓
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この数日間は、建築家の作品集の色校正に赤字を入れていた。自分でもやっと(17年目…)赤字の精度が上がってきたなと思っていたところ、印刷所に褒められて嬉しい限り。そして、もういくつ寝ると、ホームページのβ版が完成する。楽しみだなぁ。
昨日の夜に公開しようと書いていたけど、疲れ果てて、朝になってしまったな。ま、そんな日もある。朝からすごい雨で、ホワイトノイズが心地よい。
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