私はサマソニに行けない

暴力的な暑さで皮膚の表面がじわじわと溶けていく感覚がしている。
真夏のピークっていつなんだ。今くらいか?天気予報士、早く教えてくれよ。

この夏の予定といえばサマソニに行くことだったが、別れてしまった恋人と2日間一緒に過ごす勇気もなければ、代わりに一緒に帯同できる友人なんていない私は泣く泣く人生初のフェス参戦を諦めた。

別れを告げられたのはゴールデンウィークが終わってすぐのこと。
仕事が忙しくて1か月半もの間ずっと顔を合わせていなかったのに、
彼から急に「明日会えない?」と連絡がきた。
数日前にいつまでも会ってくれない彼に痺れを切らし、いくらスクロールしても終わらないくらいの地獄のブチギレLINEを送っておきながら「 やっと会える♪」なんておめでたい頭の私ってほんとにお馬鹿さんだなと思う。
今思えばそれが何を意味しているのかわかっていたのにわからないふりをしていたし、ちゃっかりaikoの『あたしの向こう』聴いてた。歌詞に出てくる「あたし」みたいだな、とか思ってた。
そんなわけあるかぁ〜、と思いつつ、いざ家の前に来ると全然前に進めなくなって何度も深呼吸をして、やっと鍵を差し込んだ。

久しぶりに会う彼はいつもと変わらずソファに座っていて、いつもと変わらない素っ気ない声で
「久しぶり、元気?」
と言った。
いつもとなんら変わらない風景だった。
横に並んでソファに座る。

「別れたほうがいいとおもう。」

他愛の無い会話の途中で、彼が切り出した。
私はちょっとふざけながら、え嫌だよ何言ってんのと返した。冗談かと思ったけど視線を落としている彼を見て何となく察した。
どうして別れなければいけないのか、何時間も説明させてしまったけど全部無音だったね。頭が真っ白になったまま、なにも聞こえてこなかった。
ただひとつだけ覚えていること。

「前の俺だったら、どんなに忙しくても馬ちゃんに時間を割こうって無理やりでも時間作ってたけど今はもうそうじゃなくなった。そういうことだと思う。」

そういうことだった。
そのあとはもう涙腺ダムの崩壊。
ずっと泣きっぱなしだった。
何を見ても、何をしても泣いた。

いつもみたいに秋元屋にいった。ここのマカロニサラダももう最後かと思うとちょっと泣いた。
いつもみたいに一緒にお風呂に入った。
お風呂のお湯が海と同じ塩分濃度になるくらいずっと泣いていた。
寝る前も泣いた。一晩中咽び泣いて眠りに落ちた。
こうやっていつもみたいに2人でくっついて寝てるのに、どうして別れる必要があるのか悲しくて仕方なかった。あの夜のことを思い出すと今も胸がキリキリする。

入社して半年、大して話したこともない斜め後ろの男の子のことが好きになった。
好きすぎて辛くて同僚や上司に相談したし、占いにも行った。
何度も告白して、何度も振られて、それでもずっと好きだった。2年くらい粘った。
色々あって私の退職を機にお付き合いが始まった。
正直付き合うか付き合わないかのあの間際が一番楽しかったな、と思い出しては甘酸っぱい気持ちになる。
1年半も付き合っていたのに今はもう他人だ。

改札を抜けて副都心線に乗り込む。
backnumberの『ハッピーエンド』を聴いていたら、歌詞が心臓に張り付いてきてもう駄目だった。
青いまま枯れていく、まさにその通りだった。
失恋の歌はたくさん知っているけど、aikoは思ったよりこの気持ちには寄り添ってくれないな、という気付きがあったのでこのお別れは無駄じゃないなと思うようにしている。
ひとりになると色々な感情が入り混じって波になって押し寄せた。
電車に揺られながら下を向いてボロボロと泣いた。マスクの中は鼻水と涙でぐしょぐしょになった。
長い帰り道、何度も何度も『ハッピーエンド』を聴いた。この状況を理解できるまで何度も。

その後しばらくして合鍵を返すためにもう一度彼に会う機会があったが、結果的に目黒川沿いを嗚咽しながら歩くはめになった。
一緒にいるとやはり好きだということを思い出してしまって、諦められなかった。
この日の私はヨリ戻す最後のチャンスと思って、いつもみたいに押しかけ女房しようと思っていたのだ。
当然、紳士で誠実な彼に丁寧にお断りをされてしまった。そりゃそうだ。
本当にバカな女ですね、笑ってくれよ。
ポッケの中で暖めていた合鍵をぶっきらぼうに彼に押し付けて、でも全然帰りたくなくてわざと遠回りして中目黒駅に向かう。
駅に着くころにはもう涙で顔がドロドロになっていた。
この日のためにこしらえたクリクリのまつ毛と、きらきらのネイルが居場所をなくして滑稽だった。本当に情けなくて消えてしまいたくなった。
これがここ4ヶ月以内の話なので驚く。
時が過ぎるのは早い。

わりとギリギリまで一緒にサマソニ行けないか悩んだ。
友達として会えば問題ないんじゃないかって思ったけどまた同じことの繰り返しになる。フェスに行ける楽しさより彼に会える嬉しさが勝ってしまう時点で嫌な予感しかしない。
友達に戻ろうなんてそう簡単なことじゃないらしい。大人って難しい。

さっき性懲りも無くサマソニ行くの?って彼にLINEしてみてしまった。
彼は当然参戦予定とのこと。
ムカつくし、たぶん会社の子とかと行くんだろうな、無理めっちゃ泣きそういま。
悔しいけど楽しんでくれたらいいな。









なんていうのは嘘です!
暑すぎて萎えちゃえ!!!!!!
汗臭い人達に揉まれろ!!!!
もみくちゃにされろ!!!!!!
私より幸せになったらぶっ○す!!!!

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