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プレイヤーとマネージャー

 高校の時の友人が、全国各地にいくつかの系列店を持つほどの社長になっていた。上場してないので詳しい会社の実力などははっきりわからないが、20ほどの毛色の違うお店を展開しているので、うまくはいっているのだろう。

 で、その彼とは高校1年生のときに出会ってすぐに一緒にバンドをはじめた仲だった。立ち上げ後他のメンバーを探して、コピーする楽曲を決め、練習スタジオを予約して、ライブのブッキングをした。ほぼほぼ2人で動かしていたと言っていい。たが、そのうちうっすらと問題が露見してきた。彼はあまり楽器の練習をしていないのだ。演奏面ではお世辞にも上手ではなかったし、うまくなりそうにもなかった。そのうちいろんなバンドとの交流もできてくると、彼の演奏面での疑問を口にする人も出てきた。そうなると僕も彼と一緒にやっていてもおもしろくないと感じはじめ、別のバンドを組むようになり、次第に彼とは離れていった。彼もいつの間にかバンドの所属がなくなり、お互い避けるようにもなっていた。そうこうしているうちに卒業。僕はその後大学でバンドを続けるも、当然のごとく適当な年齢で音楽はやめ、いつの間にか普通に働くようになっていた。

 で、卒業から10年以上して彼と再開した。独立して店を出すというらしい。卒業当時はお互い距離があったのだが、その後充分過ぎるくらい年をとっていたので、彼のお店に足を運んだり別途高校時代の仲間内で食事に行ったりした。聞くと彼は卒業後、単身東京やら海外やらに行っては現場の技術も企業のノウハウも学び、満を持して独立する運びになったらしい。確かに昔からまわりに流されない行動力はあったので、「らしいな」とは思った。楽器の練習はしてなかったけど、どこかで見たか聞いたかした知識を自慢気に語っては、流行ってるものは実際に買ったり、その場所に行ったりとアクションを起こすことが多かった。

 そして、最近、偶然目にした彼のインタビュー記事でこんなのがあった。

 高校のときバンドをやっていたが、出演する側ではなくイベントの企画側に興味を持つようになった、とか。それを読んでなるほどなと思った。楽器がうまくなることよりも、いかに人を集めて楽しめるかのほうを考えてたんだなと。確かに言われてみれば、あれこれアイデアを口にするわりには練習してないじゃんと、僕の不満のほとんどはそこにあったことを思い出した。演奏することにはたいして興味がなかったのだろう。それよりも流行りものへの嗅覚と行動力が、今の結果に結びついたのではなかろうか。

 若い頃はプレイヤーに憧れる。プロ野球選手だったり、バンドマンもそうだし、とにかくテレビや雑誌に顔と名前が出るような有名人。でもそんなスポットライトを浴びるスターの裏側には、数え切れない裏方さんがいて、それらすべてをマネージメントしたりプロデュースしたりする人もいる。そのどれもが同じく一定以上のスキルも努力も必要なことは言うまでもない。高校の部活動で、マネージャーにまわされる選手がいるが、選手からのマネージャー配置転換は「失格」という印象が強い。影で「かわいそうに」と同情される。でも学生マネージャーになったとしても選手同等の努力や勉強は必要だし、選手同等にチーム力に貢献する。むしろ全体の管理や監督の意見を近くで聞けるポジションというのは、選手として学ぶもの以上に応用の利く経験かもしれない。

 そしてある一定の年齢以上になると、マネージメントやプロデュースする側の人間への憧れやおもしろさ、素晴らしさがわかってくる。そういう意味では僕と彼は同じバンドの中で目指す方向がまったく違ったわけだ。僕は表舞台に立つプレイヤーがすべてだと思い、そこに向かってプレイヤーとしての努力が最重要と思っていたが、彼はそうではなかった。高校生バンドという小さな組織では到底わからないことかもしれないが、今になって当時の噛み合わなさに気づいた。本当に大事なことは、それぞれの「目指すもの」への努力と行動力なのだ。お互いの「目指すもの」を明確にして、ぶつかり合わないようにする、お互いが干渉しないようにする、最終的にはお互いのメリットになるようにする、そういうマネージメントができるようになりたい。当時彼が何を思っていたか知らないが、こういった経験を踏まえて、彼は今上手なマネージメントができているのだろう。

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