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日記 20230909 #あの選択をしたから

20230909

自分の仕事における特技がわからない。
とりたてて良い学歴も資格もないし、職場だって何度も変わっている。
そしてもう「若者」という枠組みに自分が入れないことも知っている。
わからないなりに、自分と向き合い、もがいて探すしかない。

いつか自分の力で稼げるようになりたいと思っているけど、まだそんな力はない。

数年前、結婚に伴い退職し夫の地元へ引っ越した。

いま居住している地域は、いわゆる都市圏ではないので、多数の事業所が存在するこの県の中心部まで行こうと思うと、電車を乗り継いで1時間弱はかかる。そして、我が家から最寄り駅までは徒歩15分…。
なんとかして、通勤時間の短い求人を探すものの、条件が合致しないものが多く(田舎だからか「要普免」が多い、生憎わたしは車の免許を持っていないのだ)、結局、県央方面の求人を探すことになる。

引っ越ししてしばらく経ち、夫との共同生活(同棲を経ず結婚したのでお互いに二人暮らしが初めてであった)にも慣れてきたころ、職探しのために職安へ通っていた時期があった。
窓口の男性職員に「通勤時間が長いので、この求人を受けるかどうか迷っています」と伝えると「でもねぇ、あなた、長いって言ったって、1時間ちょっとでしょう。1時間ちょっとくらい、普通ですよ。」とおっしゃる。

普通ってなんだよ。とちょっとだけ怒りがこみあげてくる自分をなだめつつ、職安のおじさんの機嫌を損ねないように「駅まで徒歩で15分くらいかかりますし、毎日のことを考えると通勤時間は短いほうが続けられるかなと思っています」とちょっとだけ反論した。紹介状は一応もらって帰ってきた。職安のおじさんは、「もうあなた選んでる場合じゃないんだよ」オーラを漂わせていた。

でもね、言わせてくれ。
わたし、まだまだ選びたいんです。
仕事から帰ってきて、夫の顔を見る瞬間が一日で一番好きなんです。
だからなるべく夫より先に帰ってきて、ごはんを作ってあげたいんです。
これは、他の誰でもないわたしが、「そうしたい」と強く願っていることなんです。

春のやわやわなキャベツの千切りをすること、卵を溶いて豚肉に衣をまとわせること、夏野菜を蒸したものをフードプロセッサーで柔らかくしてスープを作ること、行きつけのスーパーの商品棚の変化を見て季節を感じること、秋になったら栗とイチジクを買うかどうかでおおいに悩むこと、寒くなってきたら「どの鍋つゆが一番うまいのか選手権」をすること、わたしがやりたくてやりたくて仕方のないことが、なんの意思も持たない通勤時間に潰されてたまるかよ。

もうすぐ任用期間が満了してしまう。以前職安に通っていた時よりも年齢を重ねた私は、切り捨てられるような言葉に出会うことも多くなるかもしれないな、と正直なところ身構えている。

手帳に殴り書きしている日記を開いて、誰にも見せていない1行日記をパラパラと遡りながら読んでいく。
この生活を選んできた自分の決意みたいなものがちらっと顔を出して、励ましてくれる。

「普通は」なんていう言葉に立ち止まらなくていいように、自分の大事なものの軸はこっそり磨いて隠し持っておこう。
多分、大丈夫。わたしは働くのが好きな人間で、周りの人を幸せにできる人だよな、って、そう思ったところで手帳を閉じて、窓を開ける。

先週までは見なかった赤とんぼが、自由に飛んでいるのが見えた。


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