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【パレット上の戦火】 第29話


「優しい嘘」


地下でマザーたちとの戦闘が再開した頃、VEX本部の食堂では、凛花、ライアン、花の3人が集まっていた。

凛花は、改まった雰囲気で話し始めた。

「大事な話をするから、2人ともよく聞いて。どうやらトリスたちが、地下の本拠地に辿り着いたようなの。」
「ついに、到達したんだね。」と、ライアンは神妙な面持ちで答えた。
「そうね。いよいよ最終決戦になりそうね。」

凛花は、少し間を置いて話を続けた。

「前に話したロケットを作っている件なんだけど、こっちもやっと完成したの。2人しか乗れない小さなロケットなんだけど、コールドスリープっていう長い時間眠り続けることができる装置も開発していて、一緒に乗せているの。それは100年ほど休眠状態で過ごせて、地球が安全になった頃に戻って来られるように設計してあるの。」
「僕たちに話すってことは、僕と花ちゃんに乗れってこと?」
ライアンは複雑な気持ちを押し殺し、問いかけた。

凛花は静かに頷いた後、話し出した。

「実は、2人がいない所で、VEXのみんなと話し合って決めたことなの。ロケットには、花ちゃんとライアンに乗って欲しい。」
「なんで、花たちだけなの?」
と、花は凛花を見つめて言った。
「前に“命の順番” の話をしたよね。まずは一番若いあなたたちから、先に乗ってほしいの。」
「パパは?」
「そうだよ。他のみんなだって、どうするの?」

「……… みんなはね、その後のロケットで追いかけるよ…」
凛花は、優しく微笑みながら答えた。
ライアンは、そう答えた凛花の顔を見て、全てを理解した。ライアンは泣きそうになる気持ちを抑えて、気丈な態度で花に声を掛けた。
「花ちゃん、一緒に乗ろう。僕が必ず君を守るから。」
花は、黙って小さく頷いた。
「2人とも成長したね。逞しくなった2人の姿を見たら、花ちゃんのパパも、ジェシカも喜ぶよ、きっと。」
そう言うと、凛花は立ち上がった。

「どんな世界であっても、必ず希望はあるから。」

凛花は花の手を優しく握ると、ライアンと共にロケット発射場に向かって歩き出した。


一方、指令室では研究員のアモンが、大海蛇《シーサーペント》と、ジェシカの戦闘の行方を追っていた。
「反応が消失しました! 対象、大海蛇《シーサーペント》は、海中に沈んだようです!」と、研究員のアモンが声を上げた。
「ジェシカの位置は、わかるか?」
モリスが、すぐさま確認した。
「端末の通信が途絶えてしまい、正確な位置はわかりませんが、浜辺に向かって移動していたところまでは確認できています。恐らく、どこかから陸に上がろうとしたんだと思います。」
「わかった。想定される浜辺付近にボゾンゲートを開いてくれ!」と、風浦が指示した。
「通信が途絶えた場所から、一番近い浜辺付近に開きます!」
モリスと風浦は、急いでゲートに飛び込んでいった。


浜辺に着くと、モリスと風浦は手分けして付近を捜索し、モリスが倒れているジェシカを発見した。
「おい!大丈夫か、ジェシカ!」
ジェシカは意識を失い、息もしていない状態だった。
「風浦、ジェシカを発見したぞ!俺の端末の位置まで来てくれ!」
「すぐに行く!」
風浦が駆け付けると、ジェシカはモリスの的確な救命処置により、息を吹き返していた。
「大丈夫か!?」
「なんとか、息だけは吹き返した。本部に連絡してくれ!」
「風浦だ。ジェシカを発見した。重体だ。すぐに本部に戻るから、治療の準備をしておいてくれ!」
モリスと風浦は、ジェシカを抱えると、急いでボゾンゲートでVEX本部へ戻っていった。

本部に着き、びしょ濡れになった潮の香りのするジェシカをベッドに横たええると、基地の研究員たちが、すぐに治療にあたった。


地下では、再び戦闘が始まった。
1体のヴァーリアントが背後にある檻に近づくと、施錠された鍵を鋭い腕で破壊した。
「縺雁燕縺ョ蜃コ逡ェ縺?縲ょュ伜?縺ォ證エ繧後m!」
(お前の出番だ。存分に暴れろ!)

檻から放たれた生物は、これまでに相対したヴァーリアントとは、大きく異なる姿をしていた。
他のヴァーリアントの、装甲のように見える部分は全て剥がれ落ち、肉体がむき出しになり、浮遊することは出来ず、地面を這いずっていた。
「明らかに異質ね。」と、ンシアは身構えながら言った。
「奇形種なのかもな。」
「腕だけは異常に硬質で、発達しているように見えるから、警戒した方が良さそうね。」
相手との距離があったため、まだ2人は余裕があると思っていたが、その考えは甘かった。
鋭い腕を一気に伸ばし、瞬間的に距離を縮め攻撃してきた。
2人は、それぞれ左右に飛んで避けたが、もう一方の腕が瞬時に伸びてきて、ンシアの左腕を掴んだ。
(何!?この凄まじい力!)
今度は伸ばした腕を、急激に縮めて引き寄せようとしてきた。
(このまま、引き寄せられるのはまずい!)
ンシアは咄嗟に、槍を地面に突き刺して、体を引きずられるのを止めた。

「縺ケ縺ケ縺ケ!!!!!」
その異形のものは、雄叫びを上げると、さらに力を込めてきた。「ア"ア"ァ"ァ"ー!!!!!」
無残にも、ンシアの左腕は肘から下をぎ取られてしまった…
「ンシアァー!」
トリスは、ンシアへ駆け寄ろうとした。
「自分の身を守って! 私は大丈夫! まだ戦える!」
ンシアは距離を取りながら、止血をした。
「トリス!さっき掴まれた時に、右の脇腹にコアらしきものが見えた。そこをブーメランで狙って!」
ンシアは腕をがれながらも、相手の弱点を見つけ出していた。
「わかった!」
(あの状況下で、意識を保ちながら敵を倒そうとするなんて、たいした精神力だ。尊敬するよ、ンシア。)
トリスは狙いを定め、渾身の力を込めてブーメランを投げた。
ブーメランはターゲットに向かって飛んで行き、異形のものは硬質な腕でガードしようとしたが、ブーメランは逸れて頭上を越えていってしまった。
相手は狙いが外れたと思い、攻撃に転じようとしたその瞬間、戻ってきたブーメランが右の脇腹のコアに突き刺さった。
「人間の武器の特殊な性能なんて、知らなかっただろ。」
異形のものは腕を地面につき、動きを止めたが、致命傷には至らずブーメランを引き抜こうとした。
(くそっ!浅かったか…)
トリスが、そう思った瞬間、既にンシアが敵の眼前まで迫っていた。
「くらえっ!」
ンシアは、槍でブーメランを押し込み、コアを完全に破壊した。

異形のものは、その場に崩れ落ちた。

「大丈夫か、ンシア!」トリスが駆け寄ってきて、声を掛けた。
「なんとかね… 実は携帯用の毛星蘭波叉蘭《ケセランパサラン》を、少しもらってきていたから、止血だけは出来た。痛みは物凄いけどね…」

息つく間もなく、ヴァーリアントたちは次の手を仕掛けてきた。
「蝨ー荳九〒繧ょシキ蛹悶@縺欟MA縺ョ蜉帙r隕九○縺ヲ繧?k!」
(強化したUMAの力を見せてやる!)
その叫び声と同時に、2体の生物兵器が姿を現した。

1体は漆黒のサーベルタイガーのような風貌で、もう1体は人間と蛾が合わさったような姿をしていた。
「トリス、2体のUMAとしての特性、わかる?」
「黒い方は、異星人大猫《エイリアン・ビッグ・キャット》がベースだな。多分、瞬間移動を使ってくるはずだ。茶色の飛んでいる方は、大蛾生命体《モスマン》だろう。赤い目から、何かしらの攻撃をしてくると思う。」
「じゃあ、私は黒い方をやる!トリスは飛んでる方をお願い!」トリスとンシアは、二手に分かれて戦うことにした。

ンシアは槍を手に、猛スピードで突っ込んでいったが、トリスの予想通り、異星人大猫《エイリアン・ビッグ・キャット》は瞬間移動を使い、一瞬でンシアの視界から消え、後方から姿を現した。
(やっぱり、トリスの言う通り、テレポートするのね。何か策を考えないと…)
そう考えていた時、異星人大猫《エイリアン・ビッグ・キャット》は、再び瞬間移動を使い、ンシアのすぐ背後に現れ、長く鋭い牙で噛みついてきた。ンシアは反射的に避けたが、牙が太ももをかすり、流血した。
(このままじゃ、らちが明かない…)

一方、トリスは、大蛾生命体《モスマン》と、近接での肉弾戦を繰り広げていた。
(空中遠距離タイプと思いきや、意外にも近距離ファイターだったんだな…)
足を止めての殴り合いはトリスに分があり、徐々に大蛾生命体《モスマン》は押されていった。
(このまま、ジリジリ削っていくか…)

大蛾生命体《モスマン》は、壁際まで押されていったが、空中へ飛び上がり、トリスの頭上を越えていった。
トリスはすぐに振り返ったが、大蛾生命体《モスマン》は即座に、赤い大きな目から、レーザーのような怪光線を発射してきた。
トリスは、その攻撃を避けることができず、怪光線は右足を貫通した。

ンシアはトリスに急いで駆け寄り、毛星蘭波叉蘭《ケセランパサラン》を使い、トリスの足を止血した。
「取り敢えず、これで血は止まるはず。」
「ありがとう。これでまだ戦える。」
「お互い、苦戦中ね。」
「そうだな。裏モードを使うか。」
「そうね。今こそ使う時ね。」

2人は再び、それぞれの敵と相対すると、解除コードを唱えた。
「解除コード、8475610029」
「解除コード、2898208084」
すると、ンシアの後背部の接続ユニットが切り離され、浮遊して自立稼働を始め、トリスの後背部からは、ブーメランがもう1つ、飛び出てきた。

ンシアから切り離されたユニットは、高速で敵に向かっていった。
敵は瞬間移動を繰り返すものの、移動した先へも執拗に追いかけて行った。その一連の動きを観察し、ンシアは癖を見抜いた。
(なんとなく分かってきた。次に現れた時がチャンスだ。)

ンシアは敵の動きを先読みし、次に現れるだろう場所に移動した。
予想通り、その場に現れた異星人大猫《エイリアン・ビッグ・キャット》に向けて、栄米蘭塔夏《エメラ・ントゥンカ》の最大の特徴である頭部の角を長く伸ばし、頭突きのようにして喉元のコアに深く突き刺した。

ゆっくりと引き抜くと、異星人大猫《エイリアン・ビッグ・キャット》は、静かに横たわった。

トリスの方は、両手に持ったブーメランを同時に投げた。
2つとも空中でかわされ、1つのブーメランはトリスの元に戻ってきたが、もう1つはさらに敵を追撃した。
「そっちのブーメランには、お前の体液を吸わせたんだ。どこまでも追っていくぞ!」
空中で必死にかわし続ける大蛾生命体《モスマン》に対して、トリスは敵の死角になるように、もう一つのブーメランを投げた。
弧を描いて戻ってきたブーメランにより、大蛾生命体《モスマン》の首は切断され、地面に落下した。

「トリス、この最後の毛星蘭波叉蘭《ケセランパサラン》を使って、少しでも傷を治しましょう!」
ンシアがそう言うと、すぐに2人は簡易的な治療をした。

「U-MEって、生物としての本能が残って、風浦の時みたいに覚醒して動いたり、裏モードがついていたり、改めて考えるとすごい装備ね。」
「開発に、苦労したからな。」
「それにしても、満身創痍ね…」
「あとは、親玉との対決か。」

その時、窮地に立たされた瀕死の1体のヴァーリアントが、倒された奇形種とUMA2体を引きずって、マザーの前に立っていた。

「繝槭じ繝シ∫ァ√r縺薙?閠◆縺。縺ィ陞榊粋縺輔○縺ヲ縲∽ク縺、縺ョ逕溷多菴薙→縺励※陂i縺帙※縺上l」
(マザー!私をこの者たちと融合させて、一つの生命体として蘇らせてくれ!)

そう言って、ヴァーリアントは、マザー内に奇形種とUMA2体を順番に吸収させ、最後に自分自身も取り込まれていった。
マザーは物質や生命を取り込めるようになっており、触れると吸収される仕組みのようだった。

暫く経つと、マザーから1体の生命体が出てきた。
それは、上半身こそヴァーリアントの面影が残っているものの、背中には巨大な翼が生え、異常に発達した腕を持ち、獣のような4本の足で立つ、人知を遥かに超えた、禍々しくも、どこか神々しささえ感じられる姿であった。


文:夜田わけい
イラスト:蔦峰トモリ



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