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【パレット上の戦火】 第22話

「護りたいもの、繋ぎたい【いのち】」


掃除が終わり、一同はほっと一息ついた。

お腹が空いたので、モリスが手料理を振る舞った。彼が作ったのはイタリア料理で、シンプルなサルティンボッカだった。鶏肉に生ハムとセージを乗せて焼いた料理で、美味しそうな香りが辺りに広がっていた。

凛花がパッケージに入ったクッキーを持ってきて、 ハーブティーを淹れた。

「この料理、美味しいな。最後の晩餐、みたいなもんか。こうやって団欒できるのも、最後かもしれないな。」
と、風浦が言った。
「そうだな。」
と、モリスは返した。
「みんな、お茶を飲みながら聞いて。予定通り、ンシアとトリスの2人には地底に行ってもらおうと思ってる。巨大な掘削機をボゾンゲートで運ぶためには、同時に入れる人数にどうしても制限ができてしまって、2名が限界なの。」
と、凛花が説明した。
「掘削機って何だ?」
と、モリスが聞いた。
「先端にドリルが付いた巨大なバイクみたいなものを想像して。地底の構造はどうなっているかわからないから、人が乗って地底を掘り進むことを想定して準備したの。」
と、凛花が答えると、一同は納得した様子だった。


その頃、ヴァーリアントの本拠地である地底では、ヴァーリアントたちが儀式を行うかのように密集して、マザーの意思を確認しようと集っていた。生物として、全てのヴァーリアントを生み出すことが出来る上に、スーパーコンピュータの役割も担っている、究極の生命体であるマザーは、この闘いに対する意思を電気信号を用いて伝えようとしていた。

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(古より…我々は地底で、人間は地上で、お互い隔たれた世界で交わることなく、生活を営んできた。)

マザーが、ゆっくりと語り始めた。

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(だが、人間は文明を発展させるにつれ、地球の環境を破壊し始めた。その過ちに気付いてくれることを願い、暫く見守ってきた。そして我々に何か出来ないか、ということも考え続けたが、人間は環境を改善するどころか破壊を加速させていった。)

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(もうこれ以上、この大切な地球が壊されていくのを、見過ごすわけにはいかない。地球という同じ星に生まれた生物として、決して本意ではないが、人間を滅ぼし、地球の環境を再生させようと思う。きっと厳しい闘いになり、我々にも多くの犠牲が出るだろうが、それでも命を懸けて共に闘ってほしい。)

そのマザーの言葉に呼応するかのように、ヴァーリアントたちは一体となって電気信号を発すると、辺りはたくさんの蛍が舞うかのように一斉にきらめいた。


この地底での信号により、地上のVEXの本部にも電気信号が受信され、警告のマークが点滅した。
「奴らの気配だな…」トリスが、淡々と言った。

トリスはモニターに説明画像を映しながら、こう言った。
「一応説明しておく。エアーズロック付近に穴があり、レーダーなどを使った解析によると、その穴はかなり深く、その先には大きな地下空間がありそうなことがわかった。
おそらく、そこがヴァーリアントの本拠地と考えらえれる。実際には現地に行ってみないとわからないが、障害物などもあるかもしれないので、掘削機で掘り進むことを考えると、敵の本拠地まで到達するのは、時間がかかるかもしれない。その間に、巨大生物兵器が地上に出現する可能性もあるので、残る3人は襲撃に備えてほしい。」
「了解!」
と、3人は返事をした。

そこで、ライアンが口を挟んだ。
「戦わないで済む方法はないの…?」
「それは難しいと思う。気持ちは、わからなくはないけど…」
と、ジェシカが言った。
「ヴァーリアントからすれば、私たちが地球を壊していると感じているのかもしれないけど、だからといって、人間を皆殺しにするなんて、到底受け入れることはできない。それがヴァーリアントの正義だとしても、私たちはそれに抗って、戦うしかない。 」
ンシアは、厳粛な口調で、諭すように話した。
風浦も同調するように、
「戦いは避けられないと思う。」
と、言った。
「お互いの正義があって、それがぶつかり合ってしまう以上、争いは避けられないと私も思う。どちらが正しい、正しくないとか、正解、不正解ということではないんだ。だから、私たちは生きるため、未来のために戦おう!」と、トリスは皆を鼓舞するように話し、右手を出した。

一同も、その手に互いの手を重ね合った。

そこで、風浦が語気を強めて言った。
「必ず全員生きて帰ってきて、またいつかのように笑い合おう!」

皆は力強く声をあげた。


トリスとンシアの準備が整うと、トリスピーカーはボゾンゲートを開いた。酸素マスクを着けた、トリスとンシアがバイクのような掘削機に乗り、入っていった。ボゾンゲートの中の、瞬間的な時空の歪みは宇宙空間のようで、そこで見えた無数の光は、まるで星たちがまたたいているようだった。

次の瞬間、彼らはエアーズロックのそばにいた。

掘削機に搭載された光存在《ライトビーイング》が、地底への道のりをほのかに明るく照らし、その機動力を生かしながら、敵の本拠地へ向けて進んでいった。
地下を掘り進めるにつれ、さまざまな結晶が目の前をよぎっていった。その種類たるや、実に多様で、リン鉱石、水晶、アメジスト、石英、ダイヤモンド、ルビーなど、豪華絢爛の極みであった。


その頃、花の部屋には、凛花、トリスピーカー、モリスの愛犬ヴァンが集まっていた。
「これからどうなっちゃうの?」
と、花が凛花に聞いた。
「そうねぇ・・・」
と、凛花が返答に困っていると、トリスピーカーが語り出した。
「人類とヴァーリアントの戦いは、最終的な局面を迎えようとしています。おそらくどちらにも、多大なる被害が出るでしょう。人類はその種としての存在を、未来に繋げなければなりません。よって、その可能性を最大限に引き上げることを考慮すると、若い世代の人間を生かすことが、妥当であると考えられます。
そのためには最悪のケースを考えて、命の選別をしなくてはなりません。今、命を繋げられる可能性があるのは、研究員たちが希望を込めて作ったロケットだけです。そのロケットは、現在のところ2名しか乗れません。VEX内部で選ぶとすると、あなたとライアンが妥当だと考えられます。」
花は「そうなったら、パパとはもう会えないの?」
と、泣き出した。

そんな花に、凛花は優しく語り始めた。
「パパは、人類を守る立派な仕事をしているのよ。それが花ちゃんにもわかる時が、いつか必ず来ると思うよ。
命には順番があるの。先に生まれた人は、次の命を育んで先に死んでいくの。それは、どんな生物も一緒なのよ。
私には、ユーリっていう息子がいたんだけどね、先に死んじゃったの。私とトリスはとても悲しくて、何で自分たちが代わってあげられなかったんだろうって、すごく苦しんだんだ。
花ちゃんはパパにそんな思いをさせたくないでしょ?それにパパは、花ちゃんが幸せに、この先も生きていってくれることが一番の望みなんだよ、きっと。」
凛花がそんな話をしている時、犬のヴァンは、泣いている花の隣でずっと手を舐めていた。
「あなたがこれからも生きていくことが、風浦の最も強い願いだと思いますよ。」
そう言い終わるとトリスピーカーは、ンシアが歌う「No Surprises」を流し出した。
「あ…これ、ンシアお姉ちゃんの歌だ‥‥どうして?」
「こっそり、録音しちゃいました。」

歌を聴いていると、花は穏やかな気持ちになっていった。花はトリスピーカーを、ぎゅっと抱きしめ、そばを離れないヴァンの頭を優しく撫でて笑いかけた。


部屋のドアが少し開いていて、その外ではライアンが壁により掛かりながら、話を聞いていた。
天井を見つめているその表情は、今まで見せたことのないような、覚悟が感じられるものだった。


文:夜田わけい
イラスト:蔦峰トモリ




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