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【パレット上の戦火】 第19話

「背信」


「ンシア、ちょっといい?」
そう、突っ掛かってきた、ジェシカの表情は険しかった。
「昨日の話、聞いたけど、ンシア、あなたの一族がヴァーリアントと繋がりがあったのはホント?」
いぶかしげな目で、まくし立てた。
「私は、そんなこと知らない。」
と、ンシアは弱々しく返事をしたが、
「でも昨日の風浦の話だと、あなたの一族はヴァーリアントと交流があったってことでしょ? 本当はヴァーリアントと、繋がっているんじゃないの?」
「私は何も知らない。昨日の話だって、初めて聞いたのよ!」
ンシアは、怒気を交えて反論した。
「奴らが私たちの情報をハッキングしたのだって、あなたたちが裏で手を回していたとかじゃないの?」
疑心暗鬼となった、ジェシカの追及は止まらない。
「私が、そんなことするわけないじゃない!」
ンシアの悲痛な叫びが、基地に響いた。
「もし、こっちの情報をやつらに流していたりしたら、あなたのやっていることは、組織に対する背信であり、私たちへの裏切りよ!」
そう、強くジェシカは言った。その言葉は、鋭く尖ったナイフのようにンシアの心を刺した。
ンシアは気を張って、
「誰がなんと言おうと、私はVEXのメンバーよ!決してメンバーを裏切るようなことはしていない!」
と、強く主張した。
ジェシカは、
「最後に生き残って、奴らとよろしくやるつもりなんじゃないの?」
と言い放った。
すかさずモリスが、
「そんなこと言うもんじゃない!」
と、素早くジェシカの頬を打った。
ジェシカは泣き出し、
「なんで、私だけ・・」
と、震えながら呟いた。

皆、この険悪で悲壮な状況に、どうすることもできず黙っていた。しかし、沈黙を破るように警報ブザーが、けたたましく鳴り、敵の襲来を知らせた。


モニターには、城ほどの大きさの爬虫類のような巨大生物兵器、中破蕪羅《チュパカブラ》が映し出されていた。巨大な中破蕪羅《チュパカブラ》は、小型の中破蕪羅《チュパカブラ》を、次々と口から吐き出していて、そのグロテスクな様相が目に飛び込んできた。
地に降り立った小型の中破蕪羅《チュパカブラ》は、戦車の1小隊のごとく列をなし、あっという間にVEXの基地まで到達し、施設内のあちこちが破壊され始めていた。

VEXメンバーは、すぐに戦闘配置につき、変身して基地に入ってきた小型の中破蕪羅《チュパカブラ》を、片っ端から駆逐し始めた。小型の中破蕪羅《チュパカブラ》の群体が離散集合りさんしゅうごうしながら、部屋のあちこちを駆けずり回り、体液の足跡が泥の上を歩いたかのように辺りに痕跡を残していった。さらに、飛び付かれた研究員たちやVEXメンバーが吸血され、部屋中に血のシミが幾つも残った。

「ここはお願い!私が、あのデカいのを倒す!」
ンシアは、本体を倒すために、ボゾンゲートに飛び込んだ。
「分かった、ここは任せろ!」
トリスは、そう返事をすると、燿羽衣飛去来器《ヨーウィーブーメラン》を、小型の中破蕪羅《チュパカブラ》の群れにぶつけて殲滅させた。

襲撃により、破壊された本部内を目にしながら、ジェシカの心には不安と反省の念が湧いてきていた。
(ああ、ンシアになんて酷いことを言ってしまったのか…)
ジェシカは、自己嫌悪に苛まれた。


ンシアが移動した先は、海を越えた彼方だった。退廃した荒野を駆け出したンシアは、栄米蘭槍《エメラランス》で、巨大な中破蕪羅《チュパカブラ》を突き刺そうと懐に入ったが、小型の中破蕪羅《チュパカブラ》に攻撃され、おびただしく流血した。ンシアの肌が赤い血でなまぐさく汚れた。
「くっ…… でも、絶対に負けるものか…… ここで食い止めてみせる……!」
そこで、トリスがンシアに通信を通して叫んだ。
「それ以上は、危険だ!やめろンシア! 退避命令だ! そこにいると小さい奴らの恰好の的だぞ!」
ンシアは、力強く答えた。「退避はしない!今、このまま突っ込めば本体を殺れる!」
そう、このとき既に、ンシアの視線の先には、改造された中破蕪羅《チュパカブラ》の、コアらしきものが見えていた。

そんな中、小型の中破蕪羅《チュパカブラ》が、数匹同時にンシア目掛けて飛びついてきた。
「くっ…!! あと少しなんだから……!ここで引けない……! 絶対やってやる……!!」

大量の出血により薄れゆく意識の中で、ンシアの脳裏にはある光景が、まるで走馬灯のように浮かび上がってきた。
それは、彼女の記憶では無く、一族の血が呼び起こした、記憶のフラッシュバックであった。

それは、風浦から聞いた彼女の一族の話と同じ、ヴァーリアントを崇めている姿。

<これは何?私はどこに行ったの?>

次に見えてきたのは、ンシアが子供のころに行ったお祭りで、大人たちは民族衣装のような古びた衣装をまとい、神殿みたいなやぐらを囲み、中央のヴァーリアント像に頭を垂れる姿。

<どこなの、これは?私の記憶?いや違う、何なのこれは?>

場面が変わり、まるで海中を泳ぐクラゲや、クリオネのようなヴァーリアントの姿が描かれた壁画を、見つめる子供たちの姿。

<誰、これは私なの?私が、あのヴァーリアントを知っていたってこと……?>

最後に見えたのは、一族の長のような老人が、ヴァーリアント像に供え物をする姿。

<誰?もしかして、おじいちゃん?何をしているの?>

<これは何なの?誰の記憶なの?私が、ヴァーリアントと繋がりがあったから見えたというの?>

ンシアは、脳裏に映る光景に激しく動揺した。

<これじゃあ、ジェシカの言う通り、私はヴァーリアントと繋がっていたってこと……?>


「ンシア!!前を見ろ!!」
風浦からの通信により、ンシアは意識を取り戻した。
いつの間にかンシアは、コアの目前にまで、無意識状態で辿り着いていた。

「私の一族は、あなたたちと繋がっていたのかもしれない!でも今は、私はVEXの隊員だ!」

ンシアは、そう強く叫んだ。


文:夜田わけい
イラスト:蔦峰トモリ




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