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【パレット上の戦火】 第20話

「漸近線」


ンシアは、本体の喉元まで来ていた。U-MEを通して、その奥に赤く光るコアを確認することが出来た。

喉元の肉を切り裂こうとした時、小型の中破蕪羅《チュパカブラ》が、二の腕に噛みついて血を吸ってきた。追い払っても、また別の個体が襲撃してきて、攻撃は止むことがなかった。ンシアは、その攻撃によりダメージが蓄積し、本体から地上に落下してしまったが、装備しているU-MEのアームが落下の衝撃を吸収してくれた。
地面に落ちたンシアを、本体が足で踏み潰そうとしてきたが、再びU-MEのアームが地面を掴んで、ンシアの身体をその場から瞬時に移動させ、回避した。

<これは、U-MEの自己防衛本能なの!?>

さらに、地面にいるンシアに向かって、鋭い爪を振り下ろしてきたが、それをひらりとかわすと、その腕の上を駆け上がり、喉元に向かっていった。
進行を阻んでくる小型を払い除けながら、再度本体の喉元まで到達した。そして、コアを攻撃するため、槍で肉を引き裂いていき、ついに喉元のコアが眼前に現れた。
ンシアは渾身の力で巨大なコアを突き刺したが、弾かれてしまった。

<ダメだ・・・通常の攻撃じゃ、破壊出来ない・・・>
<それなら、ありったけの力で反重力砲を放ってやる!>

ンシアは、右手に全神経を集中させ、反重力砲を撃ち込んだ。
轟音が鳴り響き、波動弾が中破蕪羅《チュパカブラ》を貫通した。それは、成層圏の彼方まで飛んでいって、見えなくなった。

本体は、まるで豆腐の角が崩れていくかのように崩壊していき、それに伴い、大量の小型も次々と倒れていった。
「崩壊するぞ! ンシア! 退け! 今、ボゾンゲートを開く!」
ンシアはボゾンゲートまで走り、飛び込んだ。

本部に戻ってきたンシアが目にしたのは、様々な箇所が破壊され、床や壁に血痕や中破蕪羅《チュパカブラ》の体液が飛び散る、悲惨な光景だった。
ンシアは、他のメンバーと同様に、毛星蘭波叉蘭《ケセランパサラン》による治療を受けたが、失血がひどく、人工血液を輸血し、回復するまで待たなければならなかった。暫くして目を覚ますと、VEXのメンバーがベッドの周りに集まってくれていた。

最初に声をかけたのは、珍しく風浦だった。
「大丈夫か?」
目を覚ましたンシアを見たジェシカは、涙ぐみながらンシアに抱きついた。
「ジェシカ…」
「ごめんなさい… 私、あんな酷いこと言って… ンシアの気持ちも考えずに… 生きて帰ってきてくれてありがとう…」
「いいの、ジェシカ。みんな言わないだけで、そう思ってしまうのは当たり前だから。私だって立場が違ったら、同じように言っていたかもしれない。」
「ンシア…」
「私も信じたくない事実だったけど、受け入れるしかないと思ってる。無かったことにするなんてできないから。宿命だと思って戦う。」
ジェシカとンシアのわだかまりが無くなり、一同は安堵した。

続けて、トリスが話し出した。
「皆に、重要な報告が3つある。
まず1つは、ロケットの完成が近い。あとは、発射装置を作ればいいだけの状態になった。
2つ目は、先の戦いの分析によると、巨大生物兵器がヴァーリアントからの通信のようなもので動いていて、その発信源が地底だったことが分かった。場所も特定できて、オーストラリアにあるエアーズロック付近だった。このまま防戦一方ではなく、敵の本拠地を叩くことが我々の勝利に繋がると思う。そこで私は、地底に攻め込もうと考えている。」

そこでンシアが、すぐさま声を発した。
「私も行く!因縁をこの目で確かめるために。」

「分かった。ンシアと私、二人で向かおう。風浦、モリス、ジェシカは地上でヴァーリアントの侵略を防ぎ、人々を守ってほしい。」
「了解!」と、3人は答えた。

「最後に3つ目だが、私が地底に行っている間、VEX本部の指揮は、妻の凛花に任せようと思っている。私の考え方も、しっかりと彼女に伝わっているし、みんなとも顔馴染みでもある。リーダーシップを取れる人間でもあるから、安心して任せられると思っている。」
トリスはそう話しながら、凛花を紹介した。

「凛花です。いきなりびっくりしたかと思うけど、みんなのことは良く知っているので、私は何も心配していません。戦闘には参加できないけど、私は私の役目を全うできるよう、最善を尽くします。」
そう話す凛花は、とても頼もしそうに見えた。

「じゃあ、今からヴァーリアントの本拠地を叩く準備をするのか?」
と、モリスが聞いた。
「いえ、その前に本部の掃除です!」
と、凛花は元気よく答えた。


皆は、それぞれ掃除道具を手に、一斉に掃除を始めた。
「この基地には最新の科学技術があるというのに、なんで掃除は手作業かなぁー。そこは、アナログなのね…」
そうジェシカが愚痴を言うと、
「仕方ない。いろいろ切り詰めてやっているからな。」
と、モリスが答えた。
「掃除ロボットを作っても、ヴァーリアントのハッキングの影響で動かなくなってしまうだろうな。連中には超磁場のような特殊能力があるようだから、きっとその干渉を受けてしまうんじゃないか?」
と、風浦が補足した。
「トリスピーカーは、なんでその影響を受けないの?」
と、不思議そうにジェシカが聞いた。
「さあ…?確かにそう言われてみると、不思議だよな。」と、モリスが返した。


ンシアは掃除をしながら、先の戦いの事を思い出していた。そして、たまらず凛花に話しかけた。
「あの巨大兵器も、元々は生物だったんですよね… 私は、その何の罪もない生物を殺したことになりますね…」
凛花が、慰めるように答えた。
「あなたが殺したんじゃない。もう生物としては死んでいたと思う。それに、私たちもU-MEとして、UMAを利用しているのだから、相手の事ばかり責められない。やっぱり戦争なんて始めた時点で、どっちも悪ね…」
「ヴァーリアントも、感情がある生物なのでしょうか…?」

「モリス、そういえばあの話も、ンシアにしておかないか。」
と、風浦も会話に参加した。
「あの話?ああ、モニター越しに見えたことか。」
と、モリスは返事をした。
「何が、あったの?」
と、ンシアは尋ねた。
「ヴァーリアントの一体が、傷ついた仲間の傷口に触手で触れて、手当をしていたように見えたんだ。他にも、仲間の遺体を抱えて、飛行体に乗っていく姿も見えた。彼らも生物で、きっと感情もあって、我々人間と変わらないのかもしれないな。」
風浦は、感慨深げにそう言った。
「そういえば私も、無意識の状態に陥った時、一族の過去の情景が見えたの。そこで見えたヴァーリアントは、人間に感謝されているような存在に見えた。」
と、ンシアも話した。

少し考えて、更に続けた。
「人類を無差別に攻撃してくるヴァーリアントのことは、絶対に許すことはできない。でも今は、少し彼らのことを知りたいと思う気持ちもある。彼らが何を考え、何故こんな戦争を始めたのか、その理由を知る必要があるように感じるの。」
そう語る声は、凛として、芯があった。
「それが、私にできるせめてもの贖罪だと思うの。」
ンシアの眼差しは、強い使命感を帯びていた。


文:夜田わけい
イラスト:蔦峰トモリ




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