【パレット上の戦火】 第23話
「覚醒」
一時の休息も束の間に、警報ブザーがVEX本部内に鳴り響いた。
モニターには、コウモリの飛膜に似た赤褐色の翼で、空を滑空する巨大生物兵器、浪翩《ローペン》の姿が映し出されていた。その口先はクチバシのように尖り、顎にはワニのような鋭い歯が生え、先端がひし形の長い尾を持つ異様な姿だった。それは、上空から機関銃のようなものを地上に向けて乱射していた。
同時に、ヴァーリアントが乗っている飛行物体も、複数襲来していた。
「相手は飛行タイプか。俺の飛び道具と相性が良さそうだ。」
と、モリスが言った。
「ヴァーリアントもいるようだ。敵も総力を挙げてきたな。」
風浦がそう言うと、ジェシカも頷き、
「いよいよ、最終局面ってわけね。」
と、意気込んだ。
「飛行タイプの巨大生物兵器は、俺が叩く！」
と、モリスは言い放つと、先陣を切ってボゾンゲートに飛び込んでいった。
「ジェシカ、俺たちも続くぞ！」
「ごめん、風浦！出動の前に少しだけライアンと話をさせて。」
「わかった。先に行ってるぞ！」
「ありがとう！」
ジェシカは、研究員の作業を手伝っているライアンの元に、急いで駆け付けた。
「ライアン！」
「どうしたの？ジェシカ姉ちゃん。」
ライアンは、手を止めて駆け寄った。
「戦場に行かなくていいの？」
「行く前に、どうしても伝えたいことがあって。」
ジェシカは、一呼吸置いてから話し出した。
「この戦いは、もうすぐ決着がつくと思う。どちらが正しいかとか、何が正義かなんて分からないし、この先どんな世界になるか想像もつかないけど、それでも私はあなたには、生き続けていてほしいと思う。
自分を信じて、あなたが正しいと思う道を進んで。
そして、あなたが出来る範囲でいいから、守れるものを守ってね。
こんな世界でも、必ず希望はあるはずだから。」
ジェシカは、さらに続けた。
「ライアン。亡くなった私たちの両親も私も、あなたのことを誇りに思っています。強く逞しく、優しさを忘れずに、生きていってください。」
「分かった… 約束する。」
ライアンは、涙を堪えながら、強く頷き答えた。
「なんだか、最後の別れみたいだね。」
「私がそう簡単にやられるわけないでしょ！必ず戻ってくるから！」
そう言うと、ジェシカはライアンの手を握り、首から下げていたペンダントを手渡した。
「これ、預かってて。戦場で失くさないように。後で返してね。」
そう言うと、ジェシカはライアンを強く抱きしめた。
「行ってきます…」
「行ってらっしゃい…」
これで思い残すことなく最後まで戦えると、勇んで戦場へ向かうジェシカの後ろ姿を、ライアンは誇らし気に見送った。成長した二人の姿からは、強い覚悟が感じられた。
モリスたちがボゾンゲートをくぐると、そこは廃墟と化したパリだった。
モリスは、上空を滑空する浪翩《ローペン》を見つけると、麝阿璽豬旋条銃《ジャージーライフル》をスナイパーライフルモードに切り替え、浪翩《ローペン》を攻撃した。
浪翩《ローペン》は軽やかにかわすと、胸部の機関銃から、レアメタル製の弾丸をモリスに向かって連射した。モリスがその銃弾を避けると、背後のエッフェル塔に炸裂した。塔には亀裂が走り、練鉄が捩れる凄まじい金属音が、パリ中に響き渡った。
ローペンとの戦闘はモリスに任せ、風浦とジェシカは二手に分かれて、ヴァーリアントと対峙していた。風浦は、槌之子村正《ツチノコムラマサ》で次々と薙ぎ払い、ジェシカは禰󠄀詩亥連接棍《ネッシーフレイル》 を、超音速で振り回し、ヴァーリアントを撃破していった。
その頃、トリスたちは地底を掘削機で掘り進んでいた。
トリスは、レーダー反応から前方に空間があることを確認した。
「このまま行くと、大きな坑道のような場所に出るぞ！」
暫くすると、掘削機は大きな空間に出た。
そこは不思議な明かりが灯っていて、整備された道路のような場所だった。トリスとンシアは安全を確認するため、掘削機から一度降り立った。
「変わった質感の物質ね。ほんのり暖かさを感じる。」
と、ンシアは壁に触れながら呟いた。
「確かに。全て地上にはない物質で、構成されているな。」
と、トリスは言った。
二人が会話をしていると、掘削機のレーダーのアラートが鳴り響いた。
驚いてトリスがレーダーを見ると、大量の生体反応が確認された。
「何か来るぞ！構えろ、ンシア！」
視認できる距離まで来ると、それはヴァーリアントの編隊だった。
その数の多さに二人は驚いたものの、トリスがすぐに、燿羽衣飛去来器《ヨーウィーブーメラン》を投げると、前衛のヴァーリアントたちを薙ぎ倒し、トリスの元に戻ってきた。続いてンシアも栄米蘭槍《エメラランス》を手に群集へ突撃し、数体を串刺しにした。
後衛のヴァーリアントは、鞭のようにしなる触手で反撃を繰り出したが、ンシアは素早く交わして、連撃を続けた。
特攻して、次々とヴァーリアントを駆逐するンシアと、広範囲に援護するトリスの連携により、あっという間にヴァーリアントの数は減っていった。「だいたい片付いたな。入口までを守る兵隊といったところか。」
「深部に近づくと、もっと手強いのがいそうね。」
「気を引き締めて、先へ進もう。」
二人は掘削機に再度乗り込み、整備された道を奥へと走り出した。
地上では、浪翩《ローペン》とモリスの、一進一退の攻防が続いていた。
浪翩《ローペン》は翼部の発射口からエネルギービームを、モリスは麝阿璽豬旋条銃《ジャージーライフル》をアサルトライフルモードに切り替え高速弾を、互いに撃ち合っていた。
その攻防の均衡を破るように、浪翩《ローペン》は巨大な翼を使って凄まじい突風を引き起こした。辺り一帯に粉塵が巻き起こり、モリスは立っているのがやっとの状態になってしまった。
（くっ、これじゃあ身動きが取れねぇし、視界も塞がっちまう。）
その瞬間、モリスの右の脇腹に激痛が走った。
「うぅっ！」
一帯に舞う粉塵に紛れて、気配を消して近づいたヴァーリアントが、鋭い腕でモリスの上半身を薙ぎ払ってきたのだった。
しかし、U-MEの自己防衛本能により、瞬時に硬化し、刃を途中で食い止めていた。
（クソっ… 粉塵のせいで全く気付かなかった… かなり深手だがU-MEのおかげで致命傷ではなさそうだ…）
浪翩《ローペン》は勝機とばかりに、間髪を入れず肩部と胸部の機関銃を乱射してきた。
（ヤバい、避けきれねぇ！）
絶対絶命のピンチの中、モリスのU-MEが変形した。それはUMAとしての意思を残しているU-MEの覚醒であった。
次の瞬間、
腰のあたりから麝阿璽豬悪魔《ジャージーデビル》の悪魔の翼が生え、上空へと飛び上がり、乱射された弾丸を交わしたのである。
浪翩《ローペン》は、急に飛び上がったモリスに一瞬怯んだが、態勢を立て直し、機関銃とエネルギービームを撃ちながら、距離を縮めてきた。
文：夜田わけい
イラスト：蔦峰トモリ
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