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【パレット上の戦火】 第27話


「世界の記憶」



海の底へ沈みゆく中でジェシカは、かろうじて意識を取り戻した。
(身体に力が入らない‥‥ このまま沈んでしまう‥‥)

そう諦めかけた時、ジェシカの U-ME が覚醒し、突如首長竜のようなヒレと尻尾が生えた。
(何!? 呼吸も苦しくないし、水中でも自由に動ける!)

U-ME の覚醒により、完全に息を吹き返したジェシカは、高速移動して、大海蛇《シーサーペント》に近づいていき、敵の目前で海上に飛び出した。

大海蛇《シーサーペント》は驚いて、独立型浮遊兵器で攻撃してきたが、ジェシカはその攻撃を海上で素早くかわすと、渾身の力を込めてハンマー投げのように、禰󠄀詩亥連接棍《ネッシーフレイル》の鉄球を振り回し始めた。

高速で回転する鉄球により、ジェシカの足元の海面には巨大な渦が発生した。
「これでも、くらえ!!」

そう叫ぶと、鉄球部分を切り離し、頭部に向かって投げつけた。大海蛇《シーサーペント》は、のけ反って避けたが体に命中し、鉄球は大爆発を起こした。
爆発によって装甲は剥がれ、ヒレも吹き飛び、飛び散った鉄球の棘は前方の独立型浮遊兵器に直撃し、2機は海中に沈んでいった。

大きなダメージを受けた大海蛇《シーサーペント》は、一度体制を立て直すため海中に潜って行ったが、ジェシカは好機とばかりに、海中に飛び込み後を追った。
すぐに追いついたが、大海蛇《シーサーペント》は巨大な尻尾を振り回すことで、凄まじい水流を起こし、ジェシカを海上に吹き飛ばした。
続いて、大海蛇《シーサーペント》も海上に姿を現した。
(あれでも、倒せないか…)

大海蛇《シーサーペント》は、残った独立型浮遊兵器からビームを連射して繰り出し、同時に海水を吸い上げ、超高圧で吐き出してきた。
ジェシカは、先端の鉄球が取れた禰󠄀詩亥連接棍《ネッシーフレイル》を逆手に持つと、
「解除コード、1158102398」
と、唱えた。

ロックが解除され、禰󠄀詩亥連接棍《ネッシーフレイル》は、裏モードに切り替わった。
するとフレイルの先端から、まるで死神の鎌のような光を帯びた刃先が現れた。ジェシカが大きく鎌を振り下ろすと、刃先から光の斬撃が飛んでいき、大海蛇《シーサーペント》の尻尾を切断した。

大海蛇《シーサーペント》は、海面が大きく波立つほどの怒りの雄叫びを上げると、頭部の特殊な形状の装備にエネルギーを蓄積し始めた。大気が震えるほどのエネルギー量にジェシカは危険を感じ、距離を取ろうとしたが、時すでに遅く、大海蛇《シーサーペント》の顔前には、巨大なエネルギーの塊が出来上がっていた。
(ヤバい!)

大海蛇《シーサーペント》は、咆哮と共に巨大なエネルギー弾を放ってきた。ジェシカは海中に回避したが、凄まじいエネルギーが海中で爆発し、海上には巨大な水柱が発生した。
巻き込まれたジェシカは、空高く放り投げられ、そのまま海面に叩きつけられた。

瀕死の状態で海上に浮かんだジェシカの目には、薄暗い空が映っていた。
(まだ死ねない… どうせ死ぬなら、真っ青な空の下がいい…)

ジェシカは最後の力を振り絞り、禰󠄀詩亥連接棍《ネッシーフレイル》の先端に、エネルギーを溜め始めた。

まだ息のあるジェシカに止めを刺そうと、大海蛇《シーサーペント》が噛みつこうとしてきた時、微かに見えた喉元のコアに向けて、超高密度レーザーを打ち込んだ。
レーザーがコア部分を貫通すると、大海蛇《シーサーペント》は、ゆっくりと崩れ落ちていった。
海を割る壁のような水飛沫が立ち上り、その巨体は海中へと消えた。

ジェシカは海に浮かんだまま、薄れゆく意識の中で、海潮の音を聞いていた。


VEX 本部で治療中の風浦とモリスは、ほぼ回復し、戦場に戻る準備を始めていた。
準備の途中で、風浦はライアンに連絡を入れた。
連絡を受けたライアンは驚いた様子で、医務室に駆け込んできた。

「戻ってたの、風浦さん!」
「ああ。モリスも俺も負傷してしまって、一旦治療のため戻ってきたんだ。」
「大丈夫なの?」
「もうだいぶ良くなったから、すぐに戦場へ戻る。その前にライアンにお願いがあるんだ。」
「何、あらたまって?」
「‥‥もし俺に何かあった場合、この古い端末を花に渡してやってほしいんだ。メッセージを吹き込んである。」
「自分で渡さなくていいの?今、凛花さんたちと一緒にいるよ。」
「いいんだ。必ず生きて帰ってくるつもりだから。ただ、万が一のためにな。」
そう言って、ライアンの手に、しっかりと端末を握らせた。
ライアンは全てを察したように、真剣な眼差しで黙って頷き、部屋を出て行った。

「何だかんだ言って、娘のことを考えて、ちゃんと用意しているんだな。」と、モリスが微笑んだ。

「指令室で、まずは戦況を確認しよう。」と風浦が言うと、
「そうだな。」と、モリスが返した。

二人は戦況を確認するため、急いで指令室に向かった。


一方、地底では、ヴァーリアントの本拠地で死闘が繰り広げられていた。

「入口の兵隊と違って、こいつら手強いな。」
と、トリスは息を切らしながら言った。
「何体か倒したけど、まだ相当な数ね…」
そう答えたンシアも、体のあちこちにダメージを受けていた。
「持久戦だと俺たちが不利だ。打開策を考えないと…」

「縺翫∪縺医◆縺。縲∵判謦?r豁「繧√h縲ゆク?蠎ヲ遘√′隧ア繧偵☆繧九? 」
(おまえたち、攻撃を止めよ。一度私が話をする。)

ヴァーリアントたちは、一斉に攻撃を止めた。

「人間にも分かる言葉で話してやろう。何故このような状況になっているのか、理解しているか?」
と、マザーが話し始めた。
「人間が地球の環境を破壊していることが許せなくて、地上に攻めて来たのだろう?」
と、トリスが答えた。
「それだけではない。人間は、あまりにも身勝手すぎるのだ。」
「どういう意味だ?」
「人間は自分たちの文明を発展させることに伴い、環境を破壊し、資源を無駄に使い、いくつもの動植物の生命を奪ってきた。」
「我々も歴史を顧みて、徐々に変わろうとしてきている。何故、こんな強硬手段を選んでしまったんだ?」
「私のコーパスには、人類のこれまでの歴史が刻まれている。これを見よ。」
マザーは、空中に映像を投影した。

そこには、ドードー鳥やリョコウバトが狩られて絶滅していく様や、温室効果ガスで真っ赤になる地球のサーモグラフィー、排水による水質汚染、更には戦争に使用された核爆弾によるキノコ雲など、地球上の様々なものが破壊されていく、いくつものシーンが映し出されていた。

それらは全て、人間の愚かしい振る舞いを捉えていた。

「これがあなたの中に刻まれた、世界の記憶ってことね…」
と、ンシアは呟いた。
「我々は常に地上の状況を観察し、手をこまねいているだけではなく、出来ることはやってきたつもりだ。少しでも環境が良くなるように、地底から水や空気の浄化に取り組んできた。
しかし、人間たちはそれ以上のスピードで、環境を破壊していく。遂には我々の住む場所にも影響が及んできた。地底の温度が上昇し、土にも汚染が見られるようになってしまった。
本当に対話などで、この現状を止めることが出来ると思うか?」
「だからと言って、おまえたちが我々人類にしていることを受け入れることなど、到底できない!」
と、トリスは自分を奮い立たせるよう言い放ち、
「大切な人をたくさん殺されて、黙っているわけにはいかない!」
と、ンシアも続いた。
「人間は生きるため以外にも、他の生物を殺し、挙句の果てには大義名分を振りかざして、戦争を引き起こし、同族間での殺し合いまでも繰り返してきたではないか。そのおまえたちが言うのか?」
「確かに言っていることは、よくわかる。一部の人間は自身の私利私欲のためだけに、他の生物を殺している。
人間同士の戦争についても、お互いが信じる正義のために起こってしまったことで、どちらも愚かしい行為だと我々も思っている。」

トリスは、さらに続けた。
「おまえたちが人間に行っていることは、“殺戮”であり“破壊”だ。結果、人間以外の生物を殺し、地球自体にも相当なダメージを与えている。こんなやり方は、おまえたちが嫌う我々人間が行ってきたことと、変わらないんじゃないのか?」
「そんなことは分かっている。多くの犠牲が出ていることも承知の上だ。矛盾していても構わない。それでも我々は、最も大きな“害”を取り除く。この母なる地球と、そこで生きる全ての生命のために。」
「それこそ、おまえたちのエゴであり、間違った正義ではないのか?」

「正義とは、一体何だろうな。」
マザーは、少し悲し気な口調だった。

「私は過去の記憶を思い出した。あなたたちが私たちの一族を助けてくれたことも、私たちの一族があなたたちに、感謝の気持ちを持っていたことも。」
と、ンシアが話し出した。
「おまえたちを助けたことは、気まぐれに過ぎなかったが、地底にいる我々と人間との間に良い接点が生まれたことに、希望を感じたこともあった。人間が自分たちの行いを、少しでも改善してくれることを期待したが、おまえたちの一族だけでは難しかったようだな…」
「私は、やはりお互いに他の手段を選べなかったことが、どうしても悔やまれる…  でもこの戦いはもう止められない…  今日ここで終わらせましょう。この悲しい運命を。」
「そうだな。これは我々と人間の、決して抗えない宿命の戦いだ。」

その言葉を最後に、マザーがヴァーリアントに合図をすると、再び戦いの火蓋が切られた。


文:夜田わけい
イラスト:蔦峰トモリ



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