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【パレット上の戦火】 第30話


「さようなら」の代わりに


融合したヴァーリアントを目の当たりにしたトリスとンシアは、あまりの威圧感で、まるで魂を掴まれたかのように、死の恐怖を感じた。微動だに出来ない2人に向けて、ヴァーリアントは容赦なく、巨大な鋭い腕で薙ぎ払ってきた。
一歩も動けない2人であったが、トリスのU-ME、燿羽衣飛去来器《ヨーウィーブーメラン》の自己防衛本能により、自身の腕が硬化し、相手の攻撃を防いでくれた。
(生物の本能を残しておいたのは、正解だったな…)

しかし、ヴァーリアントの力は凄まじく、トリスは押し負けそうになっていた。
「ンシア!動け!」
ンシアは、その声で我を取り戻し、バックステップでその場から離れた
(危ないところだった… あまりの威圧感で体が動かなかった…)

ンシアが動いた後、トリスは踏ん張り切れず吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。ンシアは地面に着地したと同時に、槍を構えヴァーリアントへ向かって突進した。
(融合したとしても、コアはあるはず。それを見つけ出さなければ…)

ンシアは、上半身に向けて思い切り槍を突き刺したが弾かれ、態勢を立て直し、再度下半身にも攻撃したが、それも全て弾かれてしまった。
(通常の攻撃じゃ、ダメだ… どうすれば…)

ンシアは距離を取るため、一度その場を離れたが、ヴァーリアントは瞬間移動し、あっという間に目の前に現れた。ヴァーリアントは巨大な手でンシアを叩き潰そうとしてきたが、ンシアは瞬時に空中へ跳び上がった。
(テレポートも、しっかり継承してるのね…)

攻撃を避けたと思ったその時、空中にいるンシアに向けて、目から強大な怪光線が放たれた。避けられないと覚悟した瞬間、衝撃と共にンシアの体が吹き飛ばされた。トリスが空中に跳び上がり、ンシアを守るため体当たりしていた。怪光線の軌道に入ってしまったトリスは、攻撃を左足に受け、膝から下が無残にも吹き飛ばされてしまった。
「トリス!!」
「俺に構うな!自分の身を守れ!」
そう言ってトリスは、倒れ込んでしまった。

絶体絶命だと思ったその時、何故かヴァーリアントは急に自分の身体を掻きむしり、苦しみ始めた。ンシアはその隙をつきトリスに駆け寄り、抱えて建物の陰に身を隠した。
「とにかく血を止めないと!」
ンシアは衣服の一部をちぎり、トリスの足を縛った。
「くっ…! ……ありがとう、ンシア。」
「私のせいで、ごめんなさい…」
「気にするな。俺はまだ戦える。
それより様子がおかしいな。きっと急ごしらえの融合で、精神と肉体のバランスが保てないんだろう。」
「すごく苦しんでるけど、このまま自滅しないかな?」
「自ら融合を望んだ強靭な精神の持ち主だから、すぐに落ち着いてしまうだろうな。」

2人は暫く考えた後、トリスが口火を切った。
「…実はみんなに話していない最終手段があるんだ…」
「リミッター解除のこと?」
「知っていたのか…」
「たまたま、トリスピーカーから聞いて、みんな知ってる。」
「あの、お喋りめ…。 ということは、リスクも聞いたんだな?」
「うん、聞いた…」
「俺はこんな有様だし、攻撃も効かない。だからリミッターを解除しようと思う。共倒れよりはマシだからな。」
「私も、解除して一緒に戦う。」
「俺だけで十分だ。おまえまで、人間でなくなる必要はない。1人でも生き残って地上へ帰れ。」
「ヴァーリアントを倒せても、まだマザーもいる。トリス1人にだけ命を懸けさせて、自分だけ逃げられない。私の事なら気にしないで。地下に来ると決めてから、覚悟は出来てる。」
「……そうか……わかった。」
トリスは、ンシアの覚悟を受け取った。


「本部、応答せよ。地下のトリスだ。」
トリスはLBN(ライトビーイングネットワーク [Light Being Network] )の端末を使い、本部に連絡した。
「本部のアモンです!ご無事ですか、トリスさん!」
「ああ、なんとかな。」
「アモンくん。俺とンシアは、リミッターを解除することに決めた。本部でロックを外してくれ。」
「……開発者のトリスさんだから、全てをわかっていての決断だとは思いますが、肉体がUMAと融合してヒトには戻れなくなります… 私は正直ロックを外したくありません…」
「ありがとう、アモンくん。でも人類の未来を守るには、もうこれしか方法が思いつかないんだ。」
「……わかりました、トリスさん……解除します。」
トリスの想いを受け取ったアモンは、涙を堪えながらロックを解除した。
「よく聞いてください。こちらのロックは解除しました。あとはご自身での起動となります。解除コードは“解放”という言葉と、ご自身のU-MEの名前です。」
「わかった。後のことは宜しく頼む、アモンくん。」
「わかりました。どうかご武運を。VEXとして共に戦えた日々を、誇りに思います。地下に入っていった場所に、ボゾンゲートを開けておきます、私たちは、あなたたち2人が無事に帰ってくると信じていますから。」


アモンの言葉を聞いて、トリスは通信を切った。
「ンシア。君と一緒に最後の戦いを迎えられて、とても光栄だったよ。」
「こちらこそ、どうもありがとう。トリス。」
「人間の底力を、見せてやろう!」
2人は深呼吸し、叫んだ。

「解放、燿羽衣飛去来器《ヨーウィーブーメラン》!」
「解放、栄米蘭槍《エメラランス》!」

リミッターを解除した2人の容姿は、瞬く間に変化していった。トリスはU-MEと完全に融合し、その姿は巨大な猿のようであった。武器であるブーメランは左腕と一体化し、失った左足はUMAの足が補う形で生えていた。
ンシアはU-MEと体の半分ほどが融合していたが、一部は人間の生身の状態で残っていた。武器の槍は人間のままの左手と一体化し、失った右腕はそのままの状態であった。
2人は建物の陰から勢いよく飛び出していった。

一方、苦しんでいたヴァーリアントは落ち着きを取り戻していた。掻きむしった上半身は皮膚のような装甲が剥がれ落ち、その下からはクラゲのような透明な肉体が、ところどころ剥き出しになり、胸の中心部にコアが輝いて見えていた。
ヴァーリアントは高く跳び上がると、翼を広げ襲い掛かって来た。それは凄まじいスピードであったが、リミッターを解除した2人は、それにも勝るスピードで容易にかわした。
トリスが左腕のブーメランで切りかかったが、ヴァーリアントは瞬間移動を使い、離れた場所に姿を現した。その移動先をUMAの本能で察知していたンシアは、ヴァーリアントが現れたと同時に、コアに向け槍を鋭く突いたが、予想以上に生身の肉体も硬く、弾かれてしまった。

2人と1体は、それぞれに距離を取った。

ンシアは態勢を低くし、片脚を引き、力を溜め、突撃の構えを取った。そして、トリスの方に一度顔を向けた。トリスはそれを確認し、小さく頷いた。
対するヴァーリアントは、上を向いて雄叫びを上げると、腹部が上下に裂けて、そこから牙が生え、獣が大きな口を開けているような状態となり、青いエネルギーを溜めていった。そしてそれは、徐々に塊となっていった。

その均衡を破るように、ンシアは正面から猛突進していった。稲妻のような光を帯びながら、瞬時に眼前に辿り着くと、渾身の力で胸のコアを突いた。その衝撃で発生したエネルギーは、まるで花火が夜空に咲いたように、薄暗い地下を照らした。
ンシアの身体に帯びていた閃光は、ヴァーリアントの身体を流れ、地面を伝っていった。その攻撃は肉体を突き破り、コアに達したが、破壊するまでには至らなかった。
次の瞬間、ヴァーリアントの溜めていたエネルギーが最大まで達した。その刹那、トリスが後方より現れ、ンシアを遠くまで蹴り飛ばした。そして、トリスは地面にめり込むほど両足を踏ん張り、右腕を大きく引き、渾身の力を込めた。
それは一瞬の出来事であったが、まるで世界の時が止まったように感じる瞬間でもあった。

敵が放ったエネルギー砲と、トリスの渾身の右手の一撃は、ほぼ同時であった。エネルギー砲はトリスの胴体の半分を消滅させ、後方の都市を破壊しながら突き進んでいったが、トリスの右手の一撃も、敵のコアに大きな亀裂を入れていた。
トリスは、更に腕に力を込めて叫んだ。
「ヴガァァァ!!!」
コアの亀裂は徐々に広がっていき、完全に破壊された。ヴァーリアントは地面に崩れ落ち、トリスも倒れ込んだ。

ンシアはその戦いを見届けると、トリスの元に駆け寄ることなく、マザーに向かっていった。
「戦いはこれで終わりにしましょう。
ありがとう…ごめんなさい…」
「我々は信念を貫いた。
このやり方が正しかったのかは、もはやわからない。
我々はこれで滅びるだろう。だが、死してもなお、
……我々は地球をけがすものを許さない。
……人間を許せない。」

そのマザーの言葉を聞いたのを最後に、ンシアは持てる力の全てを反重力砲のエネルギーに変えていった。強大なエネルギーに包まれたンシアは、空中高く跳び上がった。

(さようなら……)

そしてンシアは、反重力砲を放った。

凄まじいエネルギーがマザーを貫き、神殿も地下都市も破壊していった。消えゆくマザーの最期の言葉は、地下都市に悲しい鎮魂歌レクイエムのように鳴り響いた。

……我々は地球をけがすものを許さない…
……人間を許せない…

地面に倒れていたトリスは、意識が朦朧とする中、響き渡るマザーの言葉を端末で録音した。
(この言葉を人類は決して忘れてはいけない… 地上に届けなければ…)

リミッター解除により、人としての意識が薄れゆく中で、トリスは凛花への大切なメッセージも録音した。そして、体に融合してしまった左腕のブーメランを切り落とし、端末を括り付け、残る全ての力を使って、ブーメランを地上に向けて飛ばした。ブーメランはトリスたちが通ってきた道を辿るように、地上に向かって飛んで行った。
(  凛花に/届く/といいが/ 後は/任せたぞ/戦友/たちよ  )


地下都市の崩壊が始まる中、1体のヴァーリアントがンシアの前に現れた。

「繧医¥繧ゅ?∵?繧峨?豈阪r?√%縺ョ縺セ縺セ縺ァ縺ッ邨ゅo繧峨〓縺橸シ∬イエ讒倥i繧ょ?縺ォ貊??繧搾シ!」
(よくも、我らの母を!このままでは終わらぬぞ!貴様らも共に滅びろ!)ヴァーリアントはそう叫ぶと、地上で息絶えたはずの巨大生物兵器に向けて、自爆装置作動のテレパシーを送った。

「縺薙l縺ァ縺雁燕繧峨′蛟偵@縺溘→諤昴▲縺ヲ縺?◆蝨ー荳翫?蟾ィ螟ァ逕溽黄蜈オ蝎ィ縺ッ縲∝、ァ辷?匱繧定オキ縺薙☆縲ゅ◎繧後?莠コ髢薙′莉翫∪縺ァ邨碁ィ薙@縺溘%縺ィ繧ゅ↑縺?h縺?↑遐エ螢雁鴨縺??∝?縺ヲ豸医∴縺ヲ辟。縺上↑縺」縺ヲ縺励∪縺茨シ!」
(これでお前らが倒したと思っていた地上の巨大生物兵器は、大爆発を起こす。それは人間が今まで経験したこともないような破壊力だ!全て消えて無くなってしまえ!)
その言葉を言い放った後、ヴァーリアントは瓦礫に押し潰されてしまった。

(爆発!?マズい!地上のみんなに伝えないと!)

「こちら、ンシア!風浦、応答して!」
ンシアはLBNの端末を使い連絡した。
「……………」
「風浦、お願い!応答して!」

「こちら、風浦!ンシアか!無事なのか!?」
「よく聞いて!地上の巨大生物兵器が自爆するように、地下都市のヴァーリアントが、テレパシーで信号を送ったみたいなの!大爆発が起こる前に、止めて!このままじゃ、地球が大変なことになる!」
「巨大生物兵器は、仕留めたはずだぞ!?」
「きっと、コアを破壊しきれていない奴がいるはず!本部でエネルギー反応を、探ってもらって!」
「わかった!すぐに対応する!」

「風浦…あなたと最期に話せて良かった… 
気に入って/くれた/私の歌を/あなたにも/花ちゃんにも/もっと/聴いて/もらい/たかったな/
今まで/いろいろ/ありがとう/ 一緒に/戦えて/う/れ/―――――」
「ンシア!どうした、ンシア!返事をしてくれ!」

端末の通信は途切れてしまい、二度と繋がることはなかった。
ンシアは地面に横たわり、崩壊する地下都市の天井を見上げていた。
(  おとうさん/おかあさん/ わたし/がんばったよ/
アンディ/また/あえる/かな/ きっと/あえる/よね  )

轟音鳴り響く中、トリスとンシアと共に、地下都市はゆっくりと崩れ去っていった。


文:夜田わけい
イラスト:蔦峰トモリ




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