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【パレット上の戦火】 第24話

「それぞれの正義」


翼を生やしたモリスは、接近してきた浪翩《ローペン》を空中でかわした。一度距離を取った後、モリスから相手に急接近し、麝阿璽豬旋条銃《ジャージーライフル》をショットガンモードに切り替え、近距離で打ち込んだ。

弾が翼を貫通し、皮膜に風穴が空いた。翼が傷つけられ、たじろいだところで、モリスはグレネードランチャーモードに切り替えた。グレネードランチャーは複数の種類の弾丸を使用できるが、今回は炸薬弾を装填し、照準を合わせ、ただ淡々と任務をこなすように動いた。

「照準よし。発射。」

そう言ってモリスは、グレネードランチャーから炸薬弾を発射した。弾丸が着弾すると、内蔵された炸薬が起爆し、大爆発が起こった。
被弾した浪翩《ローペン》は、装甲が所々破壊され、皮膚は黒く焼けただれていた。
窮地に立たされた浪翩《ローペン》は雄叫びを上げると、尻尾の先端についたひし形の部分に、エネルギーを溜め始めた。
(何だ!?何を仕掛けてくるつもりだ?)

尻尾の先端に凄まじいエネルギーが集約され、眩い光を帯びていった。
(まさか、あれを放つ気か!?)

モリスが危機を感じた時には既に遅く、浪翩《ローペン》は、そのひし形のエネルギーボムを地上に向けて投下した。
(あいつ、俺に向けてじゃなく、地上に落としやがった!)

爆弾は、ゆっくりとパリの上空から地上目掛けて落下していった。モリスは落下する爆弾に向かおうとしたが、地上で戦況を見ていた風浦が、それに気づき、いち早く動き出していた。風浦はU-MEの力で跳び上がり、槌之子村正《ツチノコムラマサ》で爆弾のコアを突き、空中で爆発させた。
コアを突いたことにより、爆発の規模は最小限に抑えられたが、爆発を近距離で受けた風浦は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「風浦ー!」とモリスは叫んだ。

風浦は負傷しながらも力を振り絞り、右手を挙げて"俺は大丈夫だ"と合図をした。

その姿を確認したモリスは、麝阿璽豬旋条銃《ジャージーライフル》を最終兵器のロケットランチャーモードに切り替え、「これで終わりだ!」と叫び、渾身の一発を発射した。
浪翩《ローペン》に命中すると、装甲は完全に破壊され、両翼も失い、力なく地上に向けて落下していった。地面に激突すると、辺り一帯には大きな地響きが鳴り響いた。

モリスは地上に降り立ち、浪翩《ローペン》が動かなくなったのを見届けると、そこで意識を失ってしまった。


一方、トリスとンシアは掘削機で地底の整備された道を進んでいた。
暫く進むと大きく開けた空間に出た。そこからは、ヴァーリアントたちが暮らす都市が一望できた。

トリスは「すごいな、想像以上だ…」
と驚き、
「こんな都市を地底に築いていたなんて…」
と、ンシアも衝撃を受けた。

「掘削機は、あそこの岩陰に隠そう。」
と、トリスが言うとンシアは頷き、二人は掘削機を手で押して岩陰に隠した。
「街に潜入しましょう。」
と、ンシアが提案すると、
「見つからないように、U-MEのステルスモードを使おう。」
と、トリスが答えた。
「何、ステルスモードって?」
「地底に攻め込むことが決まってから、突貫で開発した機能だ。元々、人間に見つかりにくい特徴を持っていたUMAの習性を利用したもので、使用中は保護色になり、かなり見つかりにくくなるんだ。」
「さすが、トリス!」
「とは言っても完璧ではないから、慎重に進むぞ。」
二人は、早速U-MEのステルスモードを使用し、街の外れから潜入していった。

街の中を進むと、今までの常識が覆されるほどの、信じられない光景が広がっていた。まず目に入ったのは、多くのヴァーリアントが地中を掘削している姿だった。
「トリス、あれは何をやっているんだと思う?」
「おそらく、地上にはない鉱石を発掘しているんじゃないか?」

もう少し進むと、街の至る所に金属製の特殊な装置が置かれていて、発掘した鉱石を運び入れているヴァーリアントの姿も目にした。
「わかったぞ、ンシア。あれはエネルギープラント的な役割の装置だ。きっと発掘した特殊な鉱石をエネルギー化して、プラントで貯蔵しているんだろう。これは想像だが、街の造りを見ると、地底生活のインフラの動力源にしているんだと思う。」
「そのプラントから、自身にエネルギーを注入しているヴァーリアントもいたから、あれが食事の代わりになっているのかも。」
と、ンシアも続けた。

さらに街の中心に向かって進んでいくと、先程とはまた形態の違う、淡く光り輝く大きな装置を発見した。
「ヴァーリアントが触腕を入れると、あの装置が点灯するようね。」
「なるほどな。自然光が届かない地底では、あのように自身が発光するエネルギーを装置に溜めているんだろうな。深海のクラゲなんかと同じような原理なんだろう。」
「きっと、あれを生活の光源としているのね。」

ヴァーリアントの生活の一部を垣間見ながら進んでいくと、二人は街の中心部に着いた。そこは明らかにこれまでの街並みとは違う、異質な空間であった。
そこでは金属製の循環器でエネルギーが循環され、柱が枝垂れ柳しだれやなぎや、蜘蛛の足のように辺りに立体的にせり出していて、中心に置かれている卵のようなものを守るための障壁になっていた。まさに奇々怪々の様相を呈していた。
「地底だからか、重力の軽減にも耐えられる柔軟な構造になっているようだな。」
と、トリスが言った。
「何だか少し、息苦しい気がする…」
と、ンシアは呼吸を整えながら言った。
「地底だからな。超高圧になっているんだろう。我々が身体を正常に保っていられるのも、U-MEの力のお陰なんだ。」

卵の周辺には、一度地上で見た体の大きい指揮官的な存在のヴァーリアントが多くみられた。また、今まで見たことのない姿のヴァーリアントたちの影も見えた。そして建物の至る所に、ミステリーサークルの紋様が刻まれていた。

「地球が生み出す資源に寄り添い、その恩恵を受け、自己循環している生命体であるヴァーリアントたちにとって、人間が地球の自然環境を破壊していくことが、どうしても許せなくて、戦うことを決意したんだろうな。彼らが命を懸けて我々と戦おうとしたのは、きっと地球が自分たちの命と同じくらい、重たいものだったんだろう。それがこの一連の戦争の、本当の原因だと思う。」
トリスは、これまで見た光景を元に、感じた内容を話した。
ンシアは、とても複雑な気持ちになり、何も語らなかった。

そんな二人の存在に、一体のヴァーリアントが気づいてしまった…


地上では、ジェシカが負傷した風浦とモリスに応急処置を施していた。
だが、モリスは傷口から血が止まらず、風浦も爆発に巻き込まれたことと、地面に叩きつけられたことで、数ヵ所骨折していた。
「二人とも、ここでの治療は無理だから、一度基地に帰還しよう!」
ジェシカは傷ついた二人の真ん中に立ち、肩を貸しながらボゾンゲートに入った。

基地に着くと、ジェシカは二人をベッドに寝かせ、研究員たちを呼んだ。
研究員たちはすぐに、毛星蘭波叉蘭《ケセランパサラン》の力を使った治療を開始した。
ジェシカは、ほっとしたのも束の間、新たな敵襲の報せを聞いた。
「オーストラリア近海に、巨大生物兵器が出現しました!」

「まったく、休む暇もないじゃない!でも海上での戦いなら、私の出番ね!トリスピーカー、ボゾンゲートを開いて!」
「ゴールドコースト近辺、緯度-28.0166、経度153.3999、ボゾンゲート開きます!」と、トリスピーカーが答えた。

ジェシカは、ボゾンゲートに向かいながら、
「これが、普通の旅行だったら良かったのになー。」と、無邪気な言葉を口にして、ゲートに飛び込んでいった。


文:夜田わけい
イラスト:蔦峰トモリ




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