【禍話リライト】おそろい 1
昨今の呪具ブームで脚光が当たっているが、人形にまつわる話は昔から多い。
積極的に接点を持たないようにしても、ふとしたタイミングで出会ってしまうのが恐ろしいところだ。
これは、そんな人形にまつわる話。
【おそろい 1】
現在30代のAさんが大学生の頃の話だという。
いわゆる飲みサークルに入っており、全員の名前が把握できないほど人数がいたのだそうだ。
ある飲み屋さんで貸し切りでサークルの飲み会が行われた後、一つ上の仲の良い先輩が、「〇〇の家で二次会するか」と誘ってくれた。Aさんは〇〇という人物を知らなかったが、程よく酔っていたこともありサークル仲間のBとともについていくことにした。
果たして、〇〇は先輩の男友達だった。親が持っているという一人暮らしには少し広めのおしゃれなマンションには、いろんな種類の酒が並べられており、それでカクテルを作ってくれたりするような人だったという。しかも、器用につまみも作ってくれるというサービスぶりだ。以降〇〇先輩と呼ぶことにする。
お酒もおいしくて、いい気分になっていると、一緒に来たBが勝手にあちこちの引き出しを開け始めた。こいつは酔うとこういう癖があり、飲み屋などで過去に何度も注意を受けていた。
普段は忘れているのだが、酒を飲むとその癖が出てしまいその度にAさんが止めるというのが恒例となっていた。
「いいタンスですねぇ」
「おい、B開けるなよ! バカかお前。すみません〇〇先輩、コイツ酔うと勝手に引き出しを開ける悪い癖がある奴でして」
「あはは、いいよいいよ」
Bは注意されて、開けるのをやめたが、その後もチラチラとそのタンスを見ていたのだという。だから、Aさんは家主に聞こえないよう小声で注意を促した。
「いい加減にしろよ。二度目はないぞ」
「いや、タンスの中に……」
「何だよ」
「服とか入っているかと思ってたら、目が合ったんだ」
「は? 何と?」
「ぬいぐるみ。動物の。ちょっとリアルな奴。ぼろぼろのやつ」
「タンスの中にあったの?」
「そう。開けた引き出しの中にピンポイントであったんだけど」
「見間違いじゃないの?」
「でも、もう確かめられないじゃん」
「それはそうだけど」
会話はここで終わった。Bは責任を感じたのか、キッチンへつまみを取りに行ったりなどかいがいしく働いてはいた。しかし、それでもなおちょこちょこ見ていたことに気付いた〇〇先輩がBに聞いてきた。
「どうしたの?」
「さっきタンス開けてしまったじゃないですか」
「うん、開けてたね」
「これ、言っていいのかどうか……。ボロボロのぬいぐるみがあったんですよ」
「あぁあぁ、あれね。半年くらい前かな、このマンションのごみステーションに捨ててあったの」
Bの問いへの直接の答えにはなっていない。
「そのーー、知り合いが捨てたものなんですか?」
「いや違うよ。そもそもぬいぐるみに興味なんてないし」
内心、あまり会話がかみ合わないなと思いながらも、Aさんは問うた。
「何で持って帰って……」
「何でなんだろうね。何となく持って帰って、そのタンスの上にポーンと置いといたんだよ。崩れ方もいい感じでさぁ」
周りは会話の流れについてきていないようだ。
「何かいろいろあってさぁ、今、タンスん中入れてんだよね」
いろいろあったのは分かったが、一番大事なところを端折られた気がする。
「あの……、捨てないんですね」
「捨てたらよくないのかなと思ってさ」
「そうなんですか。すみません」
結局、二次会で飲み会はお開きとなった。
Aさんは帰りながら、まだテンションの低いままのBに文句を言う。
「お前のせいで変な空気になっちゃったじゃないかよ。でも、何で、興味もない動物の人形を拾って、飾って、タンスにしまってあるんだろうね」
「人形のさ」
「何、急に」
「人形の額のところに、横にシャーっと線が入っていたんだよね」
「どういうこと?」
「ぬいぐるみと目が合った時に、額のところに傷が入ってたんだよ。破れたって感じじゃなくて、明らかに人為的に裂いてる感じ。前の持ち主がしたのか拾ってからしたのか分からないけど」
「うん」
Bは明らかに酔っているのだが、さらに言葉に熱が入る。
「さっきの〇〇先輩って額が見えない髪型だったじゃん。俺、何度か料理を取りに行ってた時、額に横に傷があるの見えちゃったんだよね。あれ、子どものときの傷じゃなくて、最近のものだよ。治りかけてたし」
「気持ち悪い!」
それ以来、何度か〇〇先輩の家へ飲みに誘われたのだそうだが、AさんもBさんも二度と行かなかったという。
あまり親しくない人の家で、不用意に何かを目にしても口に出さずに心にしまっておくのがいいのではなかろうか。
果たして傷は、人形側からの干渉なのか、先輩側の行為なのか。
〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第二十五夜(2024年1月6日配信)
21:00〜
※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
ボランティア運営で無料の「禍話wiki」も大いに参考にさせていただいています。
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