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第30夜 二度起き

 時間が戻る系の話はめったに聞かない。
 以前に禍話で、何度も巻き戻る話をリライトしたが、こうした実体験(夢だと言い張る人もいるだろうが)が、有名小説の死に戻りやタイムリープのアイディアになったのではないかと思ったりもする。

 これはつい最近聞いた。タイムリープの話。

【二度起き】

 C子さんの仕事はときどき電車がない時間まで遅くなることがある。その場合、会社が近くのホテルを押さえており、そこに泊ることがあった。特に、繁忙期には珍しいことではないという。
 今年(2022年)の12月、本来なら24時までの勤務だったが、雨で少し早く上がることができた。23時には昨晩も骨を休めたホテルに到着し、風呂に入って、寝る前に翌日のためのアラームをかけた。
 朝起きるのが得意とは言えないC子さんは、起きるぎりぎりの時間から1時間さかのぼって5分おきにアラームが鳴るようにしていた。もはやクセのようなもので、何度もアラームが鳴るという安心感が、一人寝の眠りの質を上げるのだろう。
 その日も、5時半からのアラームを設定し、そのまま消灯した。

 翌朝、いつものように何度目かのアラームを止めてベッドから起き上がった。冬至も近いこともあって外はまだほの暗い。スマホの時計は6時過ぎを指している。狭いシングルルームに差し込む弱い朝日で、備え付けの鏡に、ベッドで起き上がる自分の姿が映った。
 思い切ってベッドから出て、持参してきているお気に入りのパジャマを脱いだが、あまりの気温の低さに思わず声が出る。
「寒っ!」
 いまボタンをはずして脱いだばかりのパジャマに再度腕を通して、ベッドにもぐりこんでしまった。
……。
 再度、携帯のアラームで気が付いた。
「やばっ、遅刻や! 二度寝した!」
 思わず手に取った携帯の画面には、「5:30」との表示があった。
 その日の朝の出勤には、余裕をもって間に合ったそうだ。

 不思議なのは、起きたときのパジャマの様子が、昨晩寝たときと違って、慌ててはおったような様子になっていたこと。C子さんは確実に記憶の通り、6時過ぎに起きて、二度寝してしまったら時間が巻き戻っていたというが。

〈蛇足〉
 上記の「無限ぬらりひょん」をある人に話したときも、(ミステリー好きのその方は)、「二度寝をして起きた夢を見たという考え方もある」と指摘してくれた。もちろん、朝の寝起きに確実な証拠などないが、つぶさに見るといつもとの違いが見つかる。ぬらりひょんの場合は、泣きながら部屋に駆け込んでくる姿を祖母が覚えていたし、C子さんの場合は、起きたときの違和感だ。
 私は「気のせい」「夢のせい」とするよりも、こんな不思議な話もあるのだ、と思うようにしている。

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