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【禍話リライト】駄菓子屋の怪人

 怪異は安易に類型化してはいけないと思う。
 もちろん、妖怪のように様々な怪異が類型化されて分かるようになることもあるとは思うが、怪異それぞれには、味わいというか個性のようなものがあって、それが怪談のスパイスになっているということもある。
 子ども時代に訳の分からないものを見たという話は意外に多い。
 これは、そんな話だが、「ああ、よくある〇〇ね」で終わらせてほしくはない。

【駄菓子屋の怪人】

 かあなっきさんが、高校の頃というから今から四半世紀ほど前のこと、友人のAさんと「駄菓子屋を最近見なくなったね」という会話をしていた。すると、Aさんが、「駄菓子屋と言えば子供の頃にこんな話があってさ……」と話してくれたそうだ。

 高校生の頃に「子供の頃」というからには、現在から30年以上も前の話。
 Aさんの地元、大分県に文房具も扱う駄菓子屋があった。ごちゃごちゃした店先には、ビックリマンシールやカードダスのような人気おもちゃのパチもんが並べられ、100円を握りしめて行けばまさに多くの欲望が満たされるパラダイスだった。通学路の途中にあったので、毎日のように訪れていた。
 その店は、入って右側にお菓子やおもちゃのスペース、左側は、文具を扱うようなスペースになっていた。
 その文具の場所にいつもコートを着た背の高い男性がウロウロしていたのだという。そのスペースは、小学生が使うようなものではなく美大生や美術部が使うような本格的なものが揃えられていた。今から考えると、近くの学校とタイアップしていたのかもしれない。
 Aくんたちは、右側のスペースにしか興味がなかったのでほとんど接触はなかったものの、四季を通してコート姿の男性がいることには少しばかり違和感を感じていた。
 最初は、子どもなので「あれがうわさに聞く、万引きGメンだ」と話していたが、さすがにそうでないことも分かってくる。小学校の4年生になったとき、ふと話題に上った。
 「いつも行く駄菓子屋にいる男、万引きGメンじゃないなら、あの人だれなんだろう」
 皆に聞くと、行くたびにいつも店のどこかしらにいるのだという。
「お前もやっぱり思ってた?」
 皆も同じことを思っていたらしく、盛り上がる。
「お店の人の、ご家族かもしれないよ」
 昔は多くがそうだったように、店の奥が住居とつながっていた。そこからおばさんが出てくることから、そういう推測を口にする友人もいた。
「そういえば、あんまり売れそうにない文具の近くにいつもいるね」
「あの人の趣味で置いてるんじゃない」
「そうか! 今日も行ってみようや」
 ところが子どものこと、店についたら食い気が先立ち、皆でお菓子コーナーで盛り上がってしまった。大体の目星をつけて、レジを見ると、そのコートの男の人が店員の席に座っていた。そもそも背が高いので、椅子に腰かけていてもそれなりの存在感がある。子どもながらにビビってしまって、皆で商品を放り出して外に出てしまった。店の外に出た瞬間に我に返る。
「びっくりして出てきたけど、店番してたってことはやっぱり家族のひとだったんだ」
「逆に、ビビッて出てきてしまった俺らが不審者じゃん。万引きした子みたいになってる」
 皆で笑いながら店の中へもどる。
 レジに男の姿はなかった。
 時間にしてせいぜい1~2分。音もしなかったが、お菓子を買いたい欲求の方が強く、もう一度お菓子を選び直して、「すみませーん」と店の奥へ声をかけた。
 すると、いつものおばさんが「あらあらごめんなさいね。洗濯物をたたんでて」と出てくる。皆の頭の中には、コートの男のことがチラついているが、満面笑顔のおばさんには聞きにくい。よくたたずんでいる文具コーナー周りにも目をやるが、そこにもいないようだ。そもそもそんなに広い店ではない。
 内心「おばさんと入れ違いで家の中へ戻ったのか」と無理矢理納得して家路についた。帰り道で、いつものメンバー5人が櫛の歯が欠けるようにそれぞれ帰って行く。

 翌日、その友人が朝一で話しかけてきた。
「実は、昨日夜中にトイレに起きたら、二階の私の部屋からあのコートの男が歩いていくのが見えたの」
 歩いていく方向は、駄菓子屋とは逆の方向で時計を見ると12時を過ぎたところだった。昼間のこともあって内心「怖い」と思ったものの外のことだし、家族には言わなかったという。
 そんな話をしていると、もう一人の友人が勢い込んで言う。
「俺も見た。多分あの人だと思う」
 夜中、同じような時刻にトイレに行った。立って用を足していると、換気用の窓に人影がよぎる。トイレの裏手は人ひとりがやっと歩けるくらいの狭い路地になっており、急いで小用をたして、窓からのぞくとコート姿の背の高い男が歩いていくのが見えたのだという。
 二人の家は、5人の中で最も離れており時間も同じころだというが、記録を取っていたわけではないので確証はない。
「おかしい人だ!」
「不審者だね」
「先生に言った方がいいかも」
 皆で連れ立って、職員室へ担任の先生を訪ねる。それぞれに状況を口にするのでなかなか伝わらなかったが、話の交通整理をするうちに状況が飲み込めてきたようだが、先生の怪訝そうな顔は変わらない。
「あの店は、昔っからご夫婦二人でやってるんだぞ」
「最近、親戚が来たとか」
「そういうことがあれば、分かると思うけどな。それ、男の人だったのか?」
 先生の質問にAさんが答える。
「そうです。コートを着た若い男性」
「たしか、息子さんがいらっしゃったが……亡くなっているはずだぞ」
 思わず、皆で顔を見合わせたのだという。
 しばらくの沈黙のうち、先生がこういった。
「お前たちそれは、その……勘違いだよ」

 その後も、駄菓子屋に行くと時々その男を見かけたそうだが、帰宅途中の唯一のオアシスでもあり、その事件以降気にすることをやめたのだという。言い方を変えれば、お菓子の誘惑の方が強かったということか。
 いまはもうその駄菓子屋はないという。
 過剰に反応したから、夜中に訪れたのか。
                           〈了〉

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出典

元祖!禍話 第30夜(2022年11月26日配信)

21:54〜

元祖!禍話 第三十夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/752344281

※本記事誰も隠れておらず、EAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。


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