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【禍話リライト】壁抜けトイレ/かけられた鍵

 2022年11月19日の禍話も秀逸なものが多かった。特に怪談パートの最後の三つ(十周の部屋/コンビニまわり/わが子がやったこと)はゆったりつながっており、放送でも不具合が起こるほどの恐ろしい話だったが、とてもリライトする勇気はない。誰かチャレンジしてくれないだろうか。
 ということで、ウェルカム怪談の中からトイレにまつわる話を。

 トイレにまつわる話は多い。
 理由は、水場、一人になる場所、具合が悪い時を含め毎日行く場所だから等様々に挙げられるものの、明快な答えなどない。
 禍話でもたくさん取り上げておられ、昨日の放送では人怖を含め3篇話されたが、そのうちから人外のものが関係するだろう2篇を。

【壁抜けトイレ】

 帰宅途中に便意や尿意に襲われた折、対策としてはコンビニが最有力かと思われるが、観光地や治安が良くない場所では貸し出していないところもある。
 あるいは、店員にひとこと言わなければならないのがどうも、という人もいる。
 そうしたときに、比較的選ばれるのが公園のトイレだろう。しかし、そこでは意外に怪異に遭いやすい。

 今年(2022年)の夏のことだそうだ。
 40代のAさんは、帰宅中の夜11時頃急な腹痛に襲われた。
 自宅までは少し距離があり、とても間に合いそうにない。
 キョロキョロと周りの様子を見つつ、家路をたどっていると路地を少し入った奥に小さな公園が見えた。
 「これでトイレがなかったらアウトだな」
 そう思いながら足を向けると、武骨ながらも男性と女性が分かれているトイレがあった。
 安心しながら、男性用に入ると個室も二つある。
 奥の方へ入って安堵の胸をなでおろしながらトイレットペーパーを確認すると、こちらもきちんと備えられていた。
 管理の行き届いた公共施設だなと思いながら、用を足して人心地ついたころに、外から「タッタッタッタ」と独特な足音が聞こえた。
 自分のように急いでいる人がいるのかとそれとはなしに耳を澄ますと、こちらに向かってきている。
 大小どちらだろうが、個室はもう一つ空いているので大丈夫だと思っていると、足音はそのままトイレに入ってきて、自分の入っている個室の前を通り過ぎた・・・・・のだという。
「えっ! 嘘だ」
 思わず声が出た。
 自分のいる奥の個室の扉を出て右は、すぐ壁のはずなのに、足音は通り過ぎてしまったのだ。
 忍者屋敷じゃあるまいし、出入り口がないのは一目でわかる。
 急いで身なりを整えて個室を出た。
 すぐに右手を見る。
 しかし、最初に入った時と同じ、壁があるだけだ。
「どうなってんだ」
 しげしげと見ても何も変わらない。外の音を聞き間違えたのか。
 振り返って、手洗い場の方をみると、腿を上げてその場で足踏みをしている人がいた。
 激しく体を動かしているにもかかわらず、無音だ。
「うわっ!」

 気が付くと、同じ公園のベンチに座っていた。
 目は少し腫れており、顔はびしょびしょに濡れている。まるで大泣きした後のようだったそうだ。
 慌てて家へと返ったのだという。

 足踏みしていた人のことは、性別、外見も含めて全く覚えていないのだという。
 ただ、履いていたものが青いスリッパだったことだけがクリアに記憶に残っていた。どこにでもある、普通のものだったそうだ。
 数か月して、仕事の忙しさも相まって胃をやられ、近くの内科に駆け込んだことがあるという。病院に入って、靴からスリッパに履き替えようとしたときに、あの晩見たものと色と形がそっくりで驚かされた。
 もちろん、この病院のものかは分からないが、品物は同じものだったそうだ。あまりのショックで、しばし胃の痛みを忘れたほどだという。


【かけられた鍵】

 北九州に住むBさんの住まいの近所の公園に、小さな公衆トイレがあるという。ここは男女兼用で、扉を開けると小さな和式便器がある。
 ある夕方、Bさんがそこで小用をたした。
 雲一つない空に、うっすらと月が浮かんでおり、数日雨も降っていなかったためトイレの中は乾ききっていた。
 もちろん、誰か入ってきてはかなわないので簡便な鍵をかけていたはずだが、振り返って扉を見ると、鍵が開いている。よくある左右に動かしてロックするタイプのものだったので、そうそう簡単に開くことなどないように思うが、何かのはずみということもある。
 トイレの扉を開けて出て、すぐそばにある手洗い場で手をゆすいでいると、ズボンが軽いことに気が付いた。ハンカチで手を拭いてから確かめると、腰に着けていた小さなキーケースがない。さっきトイレで用を足した時に落としたのだと振り返って、トイレを見ると扉が閉じている。
 手をかけると、鍵がかけられていた。もちろん内鍵しかない。
「えぇ!?」
 トイレから手洗い場までは数歩。もちろん、この数十秒の間にBさんの後ろを通って誰かが入ったということもなく、勝手にかかるタイプの鍵ではない。
 ガチャガチャと扉を動かすものの、扉は動かない。
 自分で無いと思いながらも、ノックをしてみると、中から「コンコン」と返ってきた。
 驚いて、一歩下がってしまう。
 トイレには窓もなく、どこからか入ることは不可能だ。
 しかし、鍵がなくては家にも帰れないので、トイレ近くにあるベンチに腰を掛けて公園内を散歩する老人に挨拶をするなど15分ほどつぶしたのちに、再度トイレに向かうと、今度はあっさりと扉が開いた。
 もちろん、その間に誰かが出て行ったということはない。
 中には誰も隠れておらず、ポツンと鍵だけが床に残されていた。
 唯一不可解だったのが、そのキーケースにくっきりと足跡が付いていたことだった。
 確認しても、自分の靴とは全く違うものだ。しかも、数日晴れ続きで、靴跡の泥が付くような水分は考えにくい。
 先ほどの手洗い場で念入りに汚れを落として、逃げるように自宅へ帰ったのだという。
                           〈了〉

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出典

元祖!禍話 第29夜(2022年11月19日配信)

1:50〜(壁抜けトイレ)
9:35~(かけられた鍵)

元祖!禍話 第二十九夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/751701297

※本記事誰も隠れておらず、EAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。


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