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【禍話リライト】足元に鏡台

 年が明けました。皆様に良い年が訪れますように。
 といいつつ、怪談をリライトするのは少々矛盾しているようにも思うが。

 旅先の怪異は、メジャーどころだ。一番身近な”非日常”だからだろうか。
 これは、有料配信を受けた視聴者さんからの体験談を話したかぁなっきさんが「足をつかまれる」というキーワードから地元の友人が体験した話を思い出したもの。

【足元に鏡台】

 大分の友人Aさんは、仕事の上司と数日の宿泊を伴う出張に出ていた。
 その日も、安い民宿の和室に投宿し、遅い夕食を部屋に運ばれて、上司と膝をつき合わせて食べた。
 それほど狭い部屋でもないが、それなりに年季の入ったつくりだった。大浴場から帰ってくると、12畳の和室に布団が二組延べられている。
 上司と枕を並べるのも、ずいぶん慣れてきた。そのまま布団に入って、寝入った。

 どれくらいたっただろうか、足元が寒くて目が覚めた。
 見ると、ずいぶん掛布団を上にたくし上げていて足が出てしまっている。
『何しているんだ俺は』
 心の中でつぶやく。
 普段は同棲している彼女にも文句を言われないほどいい寝相なのだが。
 再度寝入ってしばらくすると、また足が寒い。
 見ると、また布団が上に上がっている。奇妙に思って布団に変な癖でもあるかと手でしげしげと見て確かめるが、特に問題はない。『おかしいな』と起き上がった。
 すると、豆球だけに照らされた室内、自分と上司が並べた布団の足元に鏡台があった。かなりしっかりした造りのものだ。
『あれ、この部屋に鏡台なんかあったか?』
 確かに、部屋は布団を並べても余裕があるので、その程度のスペースはある。しかし、この部屋で食事もとっているので、そんなものがあって顔でも映っていようものなら気が付くはずだ。
 しかも気味の悪いことに、扉が開いて中の鏡が見えている。
『こんなところに無かったよな~』
 そう思いながらも再度眠りに落ちた。

 明け方くらいに、体が動くほど足が引っ張られた。
 そんな訳はないのだが、上司が引っ張ったと思って「〇〇さーん」と声をかけてしまった。そちらを見ると、当の上司は枕を抱いて眠りこけている。
 足元を見ると、先ほど見たはずの鏡台がない。
 未だに、足首をつかまれた感覚がリアルに残っている。遅い食事だったので、アルコールも飲んでいない。
 怖くて、嫌な体験だったが、翌朝起きたときに上司に話すことはできなかった。

 その日の出張の途中、彼女に連絡をした折、
「いやー、おれさぁ昨日の晩上司と泊ったところで気持ちの悪い体験をしてさ。お化け系の話なんだけど」
 そう言って話そうとした。
「ちょっと、私、今家に一人なんだから。怖い話を電話でやめて」
「分かった。帰ってから話すわ」
 それから数日して、長めの出張から帰った折、迎えてくれた彼女を見ると、足首に湿布を貼っている。
「あれ、どうしたの?」
「捻ったのかな、捻挫まで行かないけど、筋を違えてしまったみたい」
 明け方にトイレに立った時に足の置き所が悪かったらしい。話を聞くと、鏡台を見た同じ日の明け方の話だった。

 話者のAさんへ、かあなっきさんが「おそろいだ」と言ったところ、ひどく怒られたそうだ。
                         〈了〉

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出典

元祖!禍話 第33夜(2022年12月31日配信)

18:55〜

元祖!禍話 第三十三夜

※本記事誰も隠れておらず、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。


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