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【禍話リライト】阻まれる夢

 たしか平山夢明さんが怪談集の前書きで、知り合いが死ぬ予知夢を見てそれが当たる確率について述べられていた。
 意外にあり得る確率で、それほど「めちゃくちゃ特殊な体験」ではないということなのだろう。確かに、怪談を集めていても時々耳にする。

 しかし、おかしな夢を見てもその対象がどうなったのかわからない場合もある。それはそれで、不思議な夢として片付けるのには惜しいというか、収まりがつかないというか。

【阻まれる夢】

 禍話を語るかぁなっきさんが、熊本在住の知り合いAさんから聞いた話。

 Aさんの小学校、中学校の時の同級生にO君という友人がいた。週5で遊ぶほどだったという。

 高校は別の道に進み、Aさんが大学に進んだ頃、O君は就職した。仲間内の飲み会などで顔を合わせば、挨拶をし、軽く話すこともあるものの昔のように力いっぱい遊ぶようなことはなかった。

 大学4年の時に少し長く話す機会があった。久々の会話の中で、ずいぶんと価値観が違っていることに驚かされたという。中学を卒業してたかだか6、7年。特に女性蔑視の発言が続いたことに「昔はこんな奴じゃなかったのに」と悲しい気持ちになったという。

 その感情が顔に出たのだろうか、O君が席を外した時に、周りの友人が「今、あいつあんな感じなんだ」と言った。進んだ道も違うからと自身を納得させたものの、飽きずに遊んだあの頃と、見るモノの角度まで違ってしまったことが少なからずショックだった。

 就職し、社会に出て2、3年したころから、夢を見るようになった。

 成人したO君が訪ねて来て、「久しぶりだな、遊びに行こうぜ」と笑う。場所は、実家だったり、一人暮らしのアパートだったりまちまちだ。しばらく前に価値観がずいぶんと変わったと感じたこともあったものの、元親友の誘いだ。さて出ようかとなった途端、出られない。

 理由は夢ならではのもので、マンションを出ようとしたら迷路のようになっている、エレベーターに乗るもボタンがなくて思う階に着けない、通路がジェットコースターになっている。あるいは実家のパターンだと、忘れ物を取りに戻ると家人に留守番や用事を頼まれる等々。絶対に遊びに出ることができない。

 マンションのバージョンの場合はエントランスを出たところで、実家の場合は門を出たところで待ってくれているのだという。『特に思い出すようなきっかけもないのに変な夢を見るものだ』と思っていると、どんどん頻度が増えていき、ついには週に一回見るほどまでになった。

 これくらいの回数を重ねると、夢を見始めたときに、それが夢だと感づく。明晰夢というのだろうか。始まった時に、『これはO君が来るな』と思うと、チャイムが鳴るという。『遊びたいんだけど、きっと邪魔が入るんだよなぁ』と思うと、必ず何か障害が起こる。

 あるとき(この時は実家のパターンだったのだそうだ)、夢を見始めていつものようにチャイムが鳴った。またO君だろうなと思いつつ覗き穴から外を見ると、いつも見えるはずの姿が見えない。指で隠しているのかと思って扉を開くと、そこにO君がいた。扉はチェーンがかかっていて向こうから、「俺だよ、遊ぼう。門の外で待ってる」と言う。友人なのだから間から顔を覗かせでもすればよさそうなものだが、律儀に距離を守っている様子。あるいは開けたドアの分半歩後ろに下がっているように少し向こうからの声掛けだ。

 内心、『絶対邪魔が入るんだよな』と思いつつ、「分かった。準備するわ」と答えた。ところが、この日に限ってスムーズに進む。カギを持ち、財布を用意し、携帯をポケットに入れる。『今日は初めて行けるな』『行っていいのかな』と思いながら玄関に向かった。『これで出られる』と扉を開けようとすると、チェーンロックに阻まれた。『あれ、実家にこんなチェーンないんだけどな』と思いつつ外そうとするが、どうやっても外れない。『玄関から出られないのなら、庭に面した今から出ればいいわ』とそちらへ向かった。

 居間から庭を見ると、すごい数の人がこちらに背を向けて立っていた。庭が面する道路を見ている形だ。内心で夢と分かりつつも「これ何ですかね」と近くにいた男性に声をかけると「すこし下がった方がいいよ」と返された。『家の中にいるのに、下がれって……』と思っていると、「ほら、下がって」と指をさす。見ると、ありえないほどデフォルメされた大きさの車が入ってきた。色は黒で、直感的に霊柩車だと感じたそうだ。

 どう壁を乗り越えて、庭のものも乱さずに来るのかは分からないが、玄関に向かってバックで入ってくる……というところで目が覚めた。

 起き上がると汗みずくだ。隣を見ると、同居人が心配げな顔で言った。「大丈夫? 『来るな来るな、やめろやめろ』って大声でうなされてたから、無理矢理起こしたんだけど」

 翌日、やはり夢が気になって地元の友人に電話をかけた。飲み会の折に「今、あいつあんな感じなんだ」と言った彼だ。話の中で「Oは今どうしている?」と尋ねると、「あいつね、何やっているか分からないんだ」と返ってきたのだという。

 この会話の中で、AさんはO君は死んだのだと強く思ったのだという。そしてAさんは「すごい頻度で夢を見出したころに、あいつ死んだんじゃないかと。証拠も何もないですけどね」と話を終えた。

 かぁなっきさんが、「仕事してるんなら生きてるんじゃないの?」と問うと「友人に聞きこむと、どうも少しヤバい仕事についたらしく、詳しく教えてくれない、皆は『A君が心配しないように』というのだが」とのことだった。


 この話を聞いて、かぁなっきさんは心底恐ろしいなと思ったそうだ。なぜなら、F君という別の友人で全く同じようなことがあったのだそうだ。

 一度も同じクラスにはなったことがないものの顔や名前は知っているF君が、ある時期頻繁に夢に現れたことがあるという。設定も当時だったり、現在だったりするものの、夢で遊びに誘いに来て、どうしても一緒に行けないところは同じなのだそうだ。あまりに同じような夢を見るので、Aさんと同じく地元の友人に「F君今どうしている?」と聞くと、「あいつ、たしか死んだんじゃないかな」という。詳しく話を聞こうとしても、それ以上はっきりしたことを教えてもらえないところまで、似通っているという。

 もちろん、Aさんもかぁなっきさんも確かめてはいない。だから、本当に死んだのかどうか実際のところは分からない。けれども、似たような経験をして、その類似性に肌が粟立つ思いをしたのだそうだ。

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出典

元祖!禍話(2-2)完全ノープラン人怖祭(2022年4月23日配信)

0:50〜

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/729292707


※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

禍話 簡易まとめWiki
https://wikiwiki.jp/magabanasi


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