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【禍話リライト】レンズ片方

 この話も、前回(下記)のように身内に返ってくるパターンだ。

 しかも、きっかけが善意だから始末に負えない。

【レンズ片方】

 Aさんが大学生の頃、チェーン系の大型古書店でアルバイトをしていた。
 ある晩、最後店を閉めるための作業を行っていると、落とし物に気が付いた。
 眼鏡のレンズだ。
 眼鏡そのものではなく、レンズだけが店内フロアにポツンと残されていた。手に取ってみると縁には眼鏡とのかみ合わせの溝もある。しかも、ずいぶんと使い古されていて、内心『見えるのか』と思うほどきれいだとは言えないものだった。
 変わった落とし物だと思うが、お客様のものには間違いないだろう。
 しかし例えば、つまずくなどしてレンズだけが外れたら、普通気が付くのではないだろうか、との思いがよぎった。
 近くの棚ので品出しをしていた担当者に「お客様からの問い合わせはなかった?」と聞いてみたが、心当たりはないという。
 仕方がないので、マニュアル通り拾得品ばかりが集められている棚へ包んで収める。その後、いつも通りレジ締めや簡単な清掃を済ませ、帰る準備をし始めたときに、カウンターに光るものがあることに気が付いた。
 しまい忘れの小銭でもあったかと思って近づくと、先ほどのレンズだった。確かに、ティッシュにくるみ、ビニール袋に今日の日時と拾った場所、自分の名前を書き込んで棚にしまったはずだが、その袋は無理矢理開けられて近くの床に落ちていた。
「誰か、こんなことした?」
 店はとっくに扉を閉めて、中にいるのは社員一人とバイト二人だけだ。
 皆は一様に知らないと口をそろえる。
「気持ち悪いね」
 そう言って、同じようにビニール袋に拾得情報を書き込み、棚にしまい直して店を出た。

 二日ほどして、バイトで店に顔を出すと、拾得物の棚にその袋がなかった。
 内心『取りに来たんだ』と思って、拾得物引き渡しリストを見ると、何も記されていない。来たのであれば「来店・お渡し済み」などと書かれているはずだ。
 たまたま、あの日と同じ社員さんだったので、聞いてみた。
「誰か取りに来られたんですかね?」
「あれ、そういやないな。俺もずっといるわけじゃないから。誰か渡しちゃってそのままなんじゃない」
 確かに、店が忙しい時間に取りに来られた場合、記入を忘れることはあるだろう。珍しいことではない。
 その日は、特段変わったこともなくバイトも終了した。

 夜も更けてから自宅(実家)に帰り、自分の部屋でゲームでもしようかと思っていると、高校生の弟が扉をノックした。
「ちょっと兄貴いいか」
 いつになく表情が暗い。
「5,000円くらいならいいぞ」
「違う違う。そういうのは卒業したから」
 少し、場の雰囲気が和む。
「今日、気持ちの悪いことがあって。親父やお袋に言っても信じてはもらえないと思うから、兄貴に聞いてほしいなと思って」
 話を聞くと、学校からの帰りにずっと付きまとわれたのだという。
「お前、イケメンでもないのに何?」
「いや、そういうことじゃなくて、おっさんが帰り道に後をつけてきてたんだよ。ずっと片目を押さえて、『コイツかな、コイツかな』って言われ続けて」
「へー! それは……、めっちゃ怖いな。もしかして、そのおっさん眼鏡とかしてた?」
「ん? そういえばしていたような、していなかったような」
 Aさんの脳裏をよぎったのは、一昨日店内で拾った眼鏡のレンズのことだった。
「兄貴らしいこともしてやれてないから、小遣いやるよ」
 高校生ながら「ありがとう」と無邪気に喜ぶ弟を見ながら、『もしかして弟は自分と間違われたのか』と思ったそうだ。二人の姿はそれほどそっくりというわけでもないが、兄弟なりに背格好は時々間違われることもあるのだという。
 あるいは、おじさんのレンズが片方ないからきちんと見分けられなかったのか。
                           〈了〉

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出典

元祖!禍話 第28夜(2022年11月12日配信)

14:45〜

元祖!禍話 第二十八夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/751048887

※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。


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