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【禍話リライト】だーるーまーさーん

 怪談は多様で、そのままストレートに恐ろしい話と、少し考えてから肌に粟粒が立つようなものがある。逆に、事前に得た情報で、より怖くなるものも。

 これは、かぁなっきさんに怪談を提供する甘味さんが体験した話。甘味さんとは、禍話のレギュラーで廃墟で甘味を食べることを趣味としている女性だ。

【だーるーまーさーん】

 甘味さんが最初にその話を聞いた時、「そんなことあるか?」と思ったそうだ。

 今は廃墟となった、山中の病院に併設する児童施設があった。その建物に、肝試しで入り込んだ若者が、探索中に「だーるーまーさーん」という子供の声を聴いたという。しかも、あちこちから大声で繰り返される。夜中の廃墟の病院でそんなことはあり得ないが、万一遊びだとしても、後半の「が転んだ」が口にされることはない。恐ろしくなって逃げた若者の一人が転んで片目に大けがを負った。

 言うまでもないが、だるまは片目だ。

 そこまで聞いて、「バカバカしい」と思ったのだそうだが、興味を持つ何人かと他県にあるその廃墟病院に向かったのだという。一通り中を見たのだが、もちろん「だーるーまーさーん」という声は聞こえない。

 一緒に行った面々には、だるまさんの話は伝えていない。せっかく車で連れて行ってくれるのに断られる原因をわざわざ作る必要はない。

 廃墟は、雰囲気だけは満点だった。「壁に子供の字で書いてある『良くなりますように』などが切ない」、などと盛り上がる。内心は外れかと思っていた甘味さんの耳に、奥の方から「びっくりしたー!」という仲間の声が聞こえた。

 あわてて皆でそちらに向かうと、病院併設の一階の児童施設跡にロッカールームがあり、ほとんどが壊れたり扉そのものが外されたりする中、一つだけきちんと閉まったロッカーがあった。探索した一人が大声を上げた。

「これ、見てくれよ。心臓が止まるかと思った」

 誰かにしてやられた体で語る彼の指す先に、人体模型があった。しかも、手足がない。

 もともと手足のないものではない。甘味さんは「怪異来た!」と内心喜んだのだそうだが、周りの連れ合いは、「気持ち悪いね」「怖い」などと、盛り下がっている。

 普段はそんなことを言わない甘味さんだが、そんな皆の様子を見て、今思い出した体で「実は……」とだるまの声の一件を伝えてしまった。もちろんだが、周りの様子がさらに盛り下がる。「ヤバイヤバイ」と恐慌一歩手前にまで状況は悪化しそうになったのだが、うち一人の男性が、「仕組んだの?」「そんなことあるわけない」と頑なに異常を認めない。「怖くない」と頑張るのだ。それは手足のない人体模型を見つけた彼だった。

 その彼が、「まだ見てないところあるから、俺、奥に行ってくるわ」とさらに廃墟の奥へと足を向けた。

 再度人体模型の手足を見ると、何かに打ち付けて荒々しく手足がもぎ取られたらしく、それに気づいてテンションがマックスまで下がった皆は、車へと戻った。加えて、甘味さんは低い身長から発せられる視線を感じ始めたのだという。視線は、病院を囲む灌木の茂みから感じられる。そのことも、(口には出さないものの)戻るという選択肢を選ばせた一因だ。

 しかし、一人で別行動をとった男性は、10分経っても20分経っても戻ってこない。そのうちに、車の中の誰かが、「あいつ、何かふざけてない?」と言う。甘味さんには聞こえなかったのだが、開けた窓から「だーるーまーさーん」という彼の声が聞こえるというのだ。「子どもの声じゃなくて?」と問うと、「怖いこと言わないでよ」と返された。

 確かに、車の外に出ると細く男性の声が聞こえる。

 「迎えに行かなきゃ」と言うものの、誰も尻込みして行こうとはしない。運転手ではないので置いていこうかとも思ったのだが、そういうわけにもいかず、甘味さんが見に行くことになった。

 先ほど出てきた廃墟へと再度足を向ける。

 しばらく奥へと進むと、声がどんどん近づいてくる。

 その曲がり角の先にいるだろうというところで、手に持ったライトの中に単独行動をとった男の顔が浮かんだ。

 口に笑みを浮かべ、目は、明らかに焦点が合っていない。汗まみれの顔で、後ろを指さしながら、「だーるーまーさーん」と興奮した様子で叫ぶ。

「これは駄目だ」と甘味さんが走って戻った様子が鬼気迫るものだったのだろう、車内の人々の「ヤバイの?」との問いに、短く「ヤバイかも」と答える。

 そうするうちに、後ろから大声を上げる男性が廃墟から出てきた。あいも変わらず汗だくで口角を上げながら、後ろを指しながら「だーるーまーさーん」と絶叫している。

 その様子を見て、甘味さんをピックアップした面々は車を発進させたのだという。山を下りたコンビニで、しばらくして皆の心が静まってから迎えに行ったのだが、彼はその山道を途中まで下りていた。


 彼は、今では甘味さんとはずいぶんと疎遠になってしまった。風の便りでは元気なのだというが。

                             〈了〉

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出典

シン・禍話 第四十一夜 (2022年1月8日配信)

31:25〜


※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/716375478

31:25〜

禍話 簡易まとめWiki
https://wikiwiki.jp/magabanasi
 

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