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【禍話リライト】三日前の予言

 怪談を集めていると、比較的多いのが「虫の知らせ」や「何かの予兆」の話。もちろん、あれを後から考えてみると……という形が圧倒的だ。

 亡くなった人や買っていたペットが夢に出た、死神らしき影を見た人があっさりなくなったなど、パターンも様々。

 今回の禍話は、そのかなり変化球。いや、変化球というには少し禍々しすぎるか。

【三日前の予言】

 軽犯罪というものではないが、人に眉をしかめられるようなことというのはある。信号の変わり際に無理矢理渡ったり、もうはみ出しかけていて、風が吹いたら零れ落ちるようなゴミ箱にペットボトルの空を突っ込んだり。

 普段やっている人でなければ、大なり小なり良心の呵責にさいなまれるものだ。そんな時にも怪異はやってくるという。

 50代のAさんが、大きなデパートの中でお目当ての店に入った途端、携帯電話が鳴った。普段なら、あとで掛け直すなどするものの、表示を見るとかなり久しぶりの友人からの電話だったため、思わずとってしまった。

 すでにコロナが蔓延しているご時世で、電話とはいえ声を出すのは少し気がとがめた。したがって、Aさんは、うろうろと店内を歩き回りながら、会話を続けることにしたという。

 友人Bからの電話の内容は他愛もないもので、近況報告の後、長らく皆で集まれていないから、プチ同窓会のようなものを開きたいというものだった。

 久々の大学の同級生との会話に、心が弾んでいたが、そのうち奇妙な事に気が付いた。後ろに、若い女性が付いてくるのだ。大学生くらいでマスクをしており、小さなリュックなど背負っている。どれだけイレギュラーな軌道で歩いても、彼女は後ろに居続ける。

 最初は店員が注意しようとしているのかと思ったが、服装がそうではない。万引きを疑われているのかとも思うものの、雰囲気はいたって普通だ。リュックに小さなキャラクター人形をつけているのが特徴だったという。

 内心、正義感の強い人に「静かにしてください」と注意されるのかとも思いつつ、Aさんは立ち止まり、「何ですか?」と聞いた。

 女性は、間髪を入れず、「あのーすみません。あなたが今話している人、3日前に死んでるんですよ」と言う。

 あまりに普通のトーンに「何言っているの君?」と問い直す。

「電話とはいえ、死んでいる人と長く話すのはよくないですよ」

と若い女性は続ける。まるで、信号が変わる前に横断歩道を渡ると、突然車が来るかもしれないから危ないよ、と言わんばかりだ。表情は普通のまま、理論で諭すというような雰囲気だったという。

 友人Bに「後でかけ直すわ」と言って電話を切った。

 再度、「君、何を言ってるの」と問うと、安堵した表情で「切ってくれたんですね、良かったー」と胸をなでおろした。

「びっくりしましたよ。だって、3日前に死んだ人とお話ししているから。電話を切ってくれて、うまく縁が立ちきれました」

 Aさんは、あまりに普通のトーンにこれはヤバい人にからまれたのかな、と不安になってきた。あまりに気持ちが悪いので、とっとと話を切り上げて、その場を後にした。周りからの「あの人たち何話しているの?」という視線にも耐えられなかったのも立ち去った理由だ。

 建物の外に出て、掛け直すとつながらない。2時間ほどして再度かけるとつながった。どうやら、電波の具合が悪かったのだという。中心市街地でそんなことはないのだが、そういうこともあると飲み込んだ。

 掛け直した電話で、「皆もいろいろあるだろうから、2、3か月後に近くにいる人たちに声をかけてプレ同窓会みたいなことをしよう」と話がまとまった。


 その同窓会の直前に、Bが亡くなった。死因は突然死で、朝起きたら冷たくなっていたという。

 葬式へ向かいながら、内心、3日前の過去の死と、数か月たっての未来で内容も違うものの、電話していた相手が電話の主題の同窓会直前に亡くなるのは気味の悪い一致だと思っていた。

 式場でBの奥さんに「この度は突然のことで……」とあいさつをして、受付へと案内されると、そこに、あの女性がいた。

「えっ!」

 大きな声を上げると、その女性も驚いたが、こちらのことは全く知らないそぶり。奥さんに聞いても、突然のことで人手が足りず、遠縁の親せきに手伝いに来てもらっているとのこと。住んでいる場所を聞いても、とても気軽に来られるような場所ではなく、数か月前に会っている可能性はずいぶんと低い。

 双子や、兄弟の有無を聞くが、「一人っ子」だとの返答、そうして観察すると、あの時に見たのと全く同じリュックとぶら下がったキャラクター人形を見つけた。

 なおも、質問を重ねキャラクター人形などについて聞くも「限定品なので珍しいですね」と全く心当たりはない様子。このあたりに来るのも随分と久しぶりのことで、演技だとも思えない。

 結局キツネにつままれたような気分で、葬儀への参加を終えたという。

 Aさんは言う。

「これも、虫の知らせの一環なんですかね」

 一連の出来事は、ここ1年ほどの間に起ったことだそうだ。

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出典

シン・禍話 第五十二夜 (2022年3月26日配信)

16:07〜


※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

シン・禍話 第五十二夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/725915168

16:07〜

禍話 簡易まとめWiki
https://wikiwiki.jp/magabanasi

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