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【詩】78年後。


78年後

日本からです

おっきばあばをたすけてくださったお礼をいいたくて
手紙を書いてみます

お礼がこんなに遅くなってしまいごめんなさい

いままで知らなかったから

あの日。

登校中だったおっきばあばは
とつぜん熱い灰と熱い風につつまれて
何が起きたのかわからないまま
とにかく家に戻ろうと走り出した

そして橋のたもとまできたとき
あなたに逢ったそうです

はじめはわからなかった

真っ黒に焦げた大きな大人が
橋の欄干に
もたれかかるように立っていた

呻くように自分の名前を呼ばれて
近所のおじちゃんだとわかったときの
おっきばあばの気持ちを
わたしは訊くことができませんでした

大丈夫だよ
おかあちゃんたち
おうちにいたから
行ってごらん

おっきばあばはその言葉ではじめて
家族のことが心配になって
夢中で駆け出したそうです。

真っ黒にこげたおじちゃんに
何も言わずに

78年後。
おっきばあばには8人の孫と11人の曾孫がいます
朝陽と一緒に小さな畑に出て、家族のためにおいしい野菜を採ってきてくれます
わたしはときどき、
畑に立ったまま どこかわからない遠くを見つめている
おっきばあばの姿を見ます

大丈夫だよ
おかあちゃんたち
おうちにいたから
行ってごらん

自分の身のことより、
震えている小さないのちを励ましてくれた

おじちゃんの声

おじちゃんの眼差し

おっきばあばは
ずっとそれに守られて生きてきたのかもしれません

わたしの名前には「愛」という字がついています

おっきばあばがつけてくれたそうです

おじちゃんからいただいたものだったのですね

あの日。

おっきばあばが言えなかった言葉


おじちゃん、ありがとう


ありがとうございました










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