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藤沢道郎『物語 イタリアの歴史Ⅱ』中公新書

 久しぶりに読書を再開した。もともと嫌いではなかったはずなのだが、気力の衰えから、しばらく遠ざかっていたのだ。しかし通勤時間が長くなったのを機会に、復活することにした。記念すべき復活第1号は「物語 イタリアの歴史Ⅱ」。「物語 イタリアの歴史Ⅰ」も読んだはずだが、藤沢道郎さんの文章は平易で優しくて読みやすい。

 この本の縦糸となるのが、ローマのテーヴェレ川に接するカステル・サンタンジェロ(聖天使城)。今でこそ、大天使ミカエルのブロンズ像がそのてっぺんに聳え立つが、もとは五賢帝で名高いハドリアヌス帝の墓所であった。紀元2世紀に作られたこの墓所が、姿を変え、役割を変え、21世紀の現在まで威容を誇っているのは、古代ローマ遺跡では珍しくないとはいえ驚きに値する。
 ハドリアヌスについては、本も多い。ローマの最大領土を実現したトラヤヌス帝の親戚にあたり、同じスペイン出身。まさに辺境から出た改革者の姿をもつ。トラヤヌスの拡大路線を転換し、現状維持と防御に努めた。パンテオンを修復し、穴あきドーム型の屋根を築いた。ティボリ郊外に広大な離宮を建設した(ここにはまだ行ってない)。そして後継者として、アントニヌスとその次のマルクス・アウレリウスを指名した。まさに五賢帝を演出したのである。
 晩年、奇病に苦しみ、死を願ったハドリアヌスの詩はすごい。

さまよういとしき小さな魂よ、
私の肉体に仮りに宿った友よ、
おまえは今どこに旅立とうとしているのか。
蒼ざめて、冷たい、裸の、小さな魂よ、
今はもう、昔のように冗談を言う力もなくて、どこへ行く・・・

 藤沢さんはその優しい筆致で、カステル・サンタンジェロを舞台に、イタリアの歴史を紡いでいく。イタリアの深さを痛感させられる一冊である。

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