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[2000字エッセイ#11]androidとFireFoxは消えてしまうのか

 2022年の4月、外はすっかり桜も散り、この時期特有の新入生ムーヴも徐々に落ち着きを見せ始めた。毎週の授業の容易に明け暮れている私にとっては、いまだに毎日を自転車操業のように生きているからか、新しいことを始められそうな余白をなかなか見つけられない。基本的な情報リテラシーを教える授業とはいえ、何から教えていいのか分からない状況を数日間さまよったのち、今のところは基本的なパソコンの使い方を教えるにとどまっている。新入生——なんて言い方をすると自分が年寄りのようだが、少なからず「インターネット老人会」には片足を突っ込んでいるだろう——はどうしてもスマートフォンを扱うことに慣れてしまっていることもあって、パソコンの使い方を以外に知らない。インストールとダウンロードの概念を理解できなかったり、インストールしたアプリケーションは必ずデスクトップ上に表示されるようになると思い込んでいたり、こうした考えは明らかにスマートフォン、特にiPhoneの影響を受けているがゆえのものだろう。最後のガラケー世代である自分から見ると、特にiPhoneは(数年でandroidに乗り換えたが)利用者にとってかなり優しいデジタルデバイスである。そんなiPhoneを最初に手に入れた学生だからこそ、今やパソコンは旧時代的なデバイスであり、情報端末に関する根本的な思想をiPhoneから始めているのだろう。とはいえ、こと日本でWindowsのパソコンを使用できなければ社会的に立場がないのは、iPhoneがもはや支配的なシェアを誇ってた2010年代を超えてもまだ変わらない。iPhoneを手元に持ちながら、大学に持参するパソコンがMacbookであろうとも、授業で利用する大学のパソコンは旧世代のWindows10である。いうなれば歪な環境で、私は新入生にリテラシーの授業を行っているのだ。

 この文章を書いた頃、すでに初回講義が終了し、クラスによっては第2回講義が始まった。基本的な大学のシステム紹介や図書館の情報端末の検索方法、あるいはCiNii Reserchなどのデータベースの方法を教えるのが今後しばらくの方針であり、しばらく後にOfficeソフトの使用方法などの実習を予定している。私が受け持っているクラスは決して多くはないものの、私が担当するクラスには軽い形で「パソコンに苦手意識を持っているか」という質問と「iPhoneを使用しているか」という質問を私は学生に投げかけた。今後のクラス進行に関係するため、遠慮なく挙手してほしいと私が述べかけたところ、両者とも挙手をする学生が続々と現れた。なかでも「iPhoneを使用しているか」という問いに関しては、全員が挙手するクラスもあった。なんということだろう。androidはそんなに学生人気が無かったのか…他クラスにも聞いていくことで次第に全クラスとも同じ傾向を示していることが分かってきたが、最初のクラスで質問した時には若干ながら衝撃を受けた。

 同じような流れで、第2回講義では皆が使用しているブラウザが何かを質問してみた。すると今度は、予想通りに多くの学生がGoogle Choromeと答える。次点にMicrosoft Edgeがくるわけだが、iPhoneを使うユーザーがほとんどの割には、みなSafariを使ったことがあるかと聞くと返答は微妙だ。これまでの学生間とのコミュニケーションから何となく想像できることは一つ、学生はおそらくiPhoneのブラウザを「Safari」と分かっていないまま使用している。こうなるともはや、FireFoxなんて知らないはずだ。大学のパソコン教室のデスクトップにはGoogle ChromeとMicrosoft Edge、そしてForeFoxの3種のブラウザが並んでいる。私はあえて、誰も使用したことがないブラウザを使用させることによって、それぞれのブラウザは細かい点で異なっているものの、本質的な使い方は同じことを体験してもらうことにした。そして、授業ではFireFoxを使用した。

 私が担当しているクラスに限定されず、昨今、FireFoxの使用率が大きく低下していることと、同時にGoogle Chromeのシェアが爆発的に上昇していることはよく耳にする。90年代前半ごろ——といっても、私はその時代に生きていないが——に活躍したNetscape Navigator、そして2000年代に活躍したInternet Explorerは今や姿を消し、前者はかろうじてFireFoxとして生き延びているが、後者はもはやChromiumベースのMicrosoft Edgeになってしまい、事実上のGoogle Chromeと同じだ。かつて複数企業が業界に参入し、それぞれが独自のシステムを展開することによってシェアを奪い合っていた時代があったが、今では完全にGoogleが完全にシェアを独占している。こうした状況は一方で、Google Chrome以外のブラウザの選択肢を見えなくしてしまうだろう。しかし、他の選択肢は決して失われてはならない。Googleの検索エンジンとBingの検索エンジンが決して同じ結果を出さないように、ブラウザの違いはユーザーに対し、何か異なる視点を提供しているかもしれない。それらは根本的には同じ「ブラウザ」だとしても、きっと微細な違いがある。Google Chrome以外のブラウザが存在すべき理由はそこにあるだろう。そう考えながら、私は学生にFireFoxを起動させてみた。

 同じことはきっと、iPhoneがこれほどまでに普及した現代にもいえる。私は小学生のころからずっとWindows一筋で利用してきたこともあり、モバイルデバイスでさえもWindowsに統一したかった私はWindows Phoneという絶滅種にも手を出したことがある。なかなかに性能が悪いだけでなく、2回に1回Twitterが落ちる欠陥を抱えていたがゆえにすぐandroidに切り替えてしまったとはいえ、私のあの経験は決して無駄ではなかったと思う。もはや知る人ぞ知る過去の遺産となってしまったが、今の学生に話したらどんな反応するだろうか。

 そんなことを思いながら、私は次週の授業の準備を進めるのだった。

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