また明日

完璧に近いデートだった。

初めて会った相手と映画に行き、Wes Andersonの映画を観た。

二人で大きなボウルに入った、ハーブとバターのたっぷりかかったポップコーンを食べた。

この映画館ではお酒が飲めるので、彼女に一杯注文したが、アルコールが強すぎたらしく、僕が代わりに飲んだ。

映画館を出た後は、手をつないで予約していたレストランまで歩いた。

映画館から7分も歩けば、ビルとビルの間に、目印のネオンサインが顔を出した。

料理自体は普通だったけど、インテリアがおしゃれで、落ち着く空間だった。

二人ともポップコーンをお腹いっぱいに食べたので、料理を全て平らげることはできなかった。

レストランに入ったのは遅い時間で二人しかいなかったので、Unknown Mortal OrchestraのPVを同じ同じスマホで2曲ばかり聞いた。

タクシーが到着するまで、彼女をそっと抱きしめながら待っていた。

相手は僕をある程度気に入ってくれたのだと思ったし、僕も彼女のことを好きになった。

しかし、2回目のデートを誘っても、OKが返ってこない。

小さな箱のコンサート、授業までの軽いランチ、美術館、3度誘って見たが、どれも断られた。

思い切って、”僕は君といる時間が好きなんだと思う”なんて言ってみたけど、丁寧な文章で、”あなたは優しくて素敵だけど、恋人になりたいとは思わなかった”と言う趣旨のテキストが3時間ほどしてから返ってきた。

最近引っ越したシェアハウスで、ハウスメイトの女性に、テキストがどういう意味を持っているのか尋ねてみたら、”彼女は貴方と友達になりたいんだわ”なんて答えてくれた。

しかし、わからない。

彼女とはZoomの授業で出会った。

英語の授業で、英語で好きなミュージシャンについて紹介しあう課題があったのだが、彼女の紹介していたミュージシャン、凄くセンスがあると思った。

趣味が合いそうだったので、映画とディナーに誘った。

思ったよりも年下だったので、なるべく相手をフォローできるように振る舞った。

デートではお互いが笑顔でいる時間は長かったし、”悩んでいる顔がかわいい”なんて言ってくれたので、思わず惚れてしまった。

自分が短所だと思っている部分を褒められると、人は嬉しいのだと言うことを実感できた。

普段は、自分がそれを言おうと意識することが多いが、いざ自分が言われると、嬉しい。

何だろう、何がいけなかったのだろうか。

彼女が僕に好感を持っているのは確かだ。

しかし、異性としての魅力は感じなかったらしい。

上手く形容できないが、僕には備わっていなかった、しかし相手は求めていた“それ”の正体が何なのかわからない。

ドキドキ、とでも言えばいいのだろうか。

色気と言うものだろうか。

わからない。

真剣に考えてみようと思った。

僕には何が足りなかったのだろうか。

これを書いている今、目の前の青い髪の女の子が、キティちゃんのバッグを持っているのがチラリと見えた。

キティちゃんは微妙なラインだが、無地のミニマルな服が大人っぽい理由が何となくわかった。

おそらく、自分を隠す、と言うことだろうか。

それは”色気”に関係しているのだろうか。

“たちの悪い男に引っかかる”と言う言い回しがあるが、それは、その言葉を使う当人が、男を見る目がない、男を選ぶセンスがない、或いは本能的な生き方しかできない、ことを自分を傷つけないように表現しているだけである。

自分のことを棚にあげて、なんとも被害者ぶった言い方ではないだろうか。

こないだ、フェミニズムについて高校の友達と電話で話していると、奥さんにひどいことをする男が出てくる小説を読んだ、と言う話題を彼は出した。

浮気をして奥さんを泣かせながらも、自分が嫌な気分にならないことだけを優先する男が主人公のお話。

“お前、こう言うやつどう思う?”

”そんな男を選ぶ女の自己責任だろう。”と僕は返した。

"やけに厳しいね。"

幸せになれないのは、自己責任... 自分に言っているようだ。

あなたは素敵だけど、恋人としては見れない。

イタリアでドイツ人の女の子と凄く素敵な出会いをした時も、帰り道にこんなことを言われた。

ピンク色の髪の女の子とジェラート屋さんで出会った。

互いに絵を描くのが好きだったので、ジェラートが溶けるのを横目で見ながら、お互いをスケッチした。

街を散歩しながら、景色をスケッチした。

夜は噴水の前で再開して、しばらく話た後で、帰り道が別れるまで一緒に歩いた。

彼女は僕のSpotifyから流れるMac DeMarcoをハスキーな声で歌っていた。

凄く綺麗な月だった。

しかし、彼女と出会ったのはその日だけだった。

素敵な記憶は増えるけど、日曜日や祝日になれば自分が惨めに思える。

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