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ヤツメ穴

いつも行く公園に通ったことのない道があった。
草だらけで整備もされず山奥に続いてた。
暇だったので通ってみた。
数分ほど歩いてみると見たことの無いトンネルがあった。
奥へ進みたかったので仕方なく入ってみた。
壁を見ると小さい穴が空いている。
好奇心から指を突っ込んでみたらものすごく強い痛みを感じた。
「あ"あ"あ"あ"!!!」
ほとんど反射的に指を引っ込めたら人差し指の第1関節から先が無くなっていた。
血がダラダラと流れている。
怖くなったから逃げ帰った。
指の先が空気に触れる度に痛みが走る。右手をかばいながらまっすぐに帰った。
とても嫌な気分になった。
数分ほど走るとカエルが鳴いていた。かなり時間が経っていたらしい。急いで帰らないと。
走ってたら転んだ。膝が擦りむけ、肘にもすり傷ができた。
かなり痛かったが指の先の痛みの方が強かった。

――次の日、友達に昨日の話をする。
「いつも通る帰り道にさ、知らない道があってさ」
なんだか記憶があいまいだ。
「そこ行ってみたの、そしたらトンネルがあって」
どうにも思い出せない。
話を続けるうちに一緒に行くことになった。

「ここだよ。」
公園のあの道に案内をする。
トンネルまで続く草道にパイロンが立っていた。
通行止めを無視して進むと、トンネルの前に着いた。
入ってみると中は暖かく、変な匂いが立ちこめていた。
足を進めると、床の大きな穴に落ちてしまった。
……!
穴には黄色い液体が池みたいに張っていて、足がつかなかった。煙が出ていて、もうもうと辺りが見えなくなる。一段と変な匂いがきつくなる。
溺れまいと身体を動かすが、動きにくい。
というか感覚がない。いつのまにか身体が溶けている。
そのまま為す術なく沈み込んだ。

【友達の話】
 初めて聞いた話だった。
 帰り道の公園に、知らない道があって、トンネルがあるらしい。どうにも一緒に付き添って欲しいそうなのだ。
 特に断る理由がなかったので行くことにした。たしかにいつもの公園に知らない道が伸びている。その道は草がボーボーに生えていて、シマシマのコーンでふさがれている。怖かったけどずんずんと進む友達に遅れを取らないように着いて行った。
 トンネルの前に着いた。横にはビックリマークだけの標識があった。なんだろう、これ...?
ふと前を見ると、先にトンネルに入っていた友達がいなくなっている。
 急いで中に入ると、床に大きな穴が空いていた。床の穴から助けようとして、穴を覗いたら溶けていた。
 怖くなったから帰った。
 とても嫌な気分になった。
 カエルが鳴いたから急いだ。
 走ってたら転んだ。
 
 
――次の日、友達に昨日の話をする。
「いつも通る帰り道にさ、知らない道があってさ」
なんだか記憶があいまいだ。
「そこ行ってみたの、そしたらトンネルがあって」
どうにも思い出せない。でもなんだかすごく魅力的だった気がする。
話を続けるうちに一緒に行くことになった。

「ここだよ。」


…何かがおかしい。
小学4年生の順平は全30名のクラスに10個ほどの空きの席があることに違和感を抱いた。
「先生、クラスの人ってこんなに少なかったですか?」
終わりの会の時に思い切って聞いてみた。
「ずっとこのクラスはこの人数でやってきたじゃないか。何を言っているんだ順平は。」
数人の生徒がこちらを振り向き見ている。
1人だけ異様に明るいガラス玉のような目で覗き込んで僕の視線をつかんで外さない女子がいた。
僕はぞっとした。サバンナでヒョウとかライオンににらまれたような、逃げ場のない被食者の気分だ。
気にしないふりをして、
「何言っているんですかね…はは…。」
としぼりだした。

終わりの会が終わった時、僕を恐怖に陥れた張本人が声をかけてきた。
小平マリアちゃん。外国人とのハーフだから、明るい目なのは確かなんだが、いつもより透明度が高い気がする。奥の奥までのぞかれているような、そんな錯覚に陥る。
「いつも通る帰り道に、知らない道があってね」話したのは初めてで、きれいな瞳に射抜かれた僕は思わず後ずさる。
「そこ行ってみたの、そしたらトンネルがあって」
「一緒に行かない?」
確かに魅力的な話だ。
でも普段おとなしく、涼しい顔で人と静かに話すような印象だった小平さんをみた僕は、張り付けられたような笑顔がとても怖かった。お母さんが僕に怒っているときに電話がかかってきたときのような、作り笑いみたいな…。一瞬にして声を低くしてまた怒ってまくしたて始めるんじゃないかみたいな、そんな嫌な妄想が頭を離れない。
恐怖とは裏腹に、強烈にその話に惹き付けられている自分もいた。それに、こんなにきれいな子の誘いを断る方が難しい。
「う…えっと…いい…よ。」
ようやく声が出た。僕の意志とは真反対な声を聞き、驚いた。あれ?断ろうとしたのに…
「それじゃ早速行こう。」
振り返って素早く自分の席からランドセルを手に取った小平さんは、急かすようにこちらを見る。
気のせいかな、振り返った瞬間、笑顔が消えて真顔になっているような気がする…。まるではりぼての笑顔だ。
どうしてもいやな予感がするが、こんなにこちらを見られては下手な行動がとれない。
小平さんの言う公園についてしまった。
「こっちこっち。」
明らかに整備されていない、普段人が通らなそうな道だ。
草道を進むとパイロンが通せんぼをしている。
「まって、おかしいよ。だって通っちゃダメってパイロンが置いてあるじゃないか。」
さっきまで満面の笑顔を作っていた小平さんは一瞬にして真顔に戻り、こちらを見つめてくる。
怖い。鳥肌がたつ。
小平さんは鷲が獲物を狩る時のように瞬時に僕の手を強引につかみ、進もうとする。
圧倒的な力に僕は抵抗しきれずに引きずり込まれる。
(なんて力…!?相手は女の子なのに全然勝てない…)
ザリザリザリ。
地面に二筋の足跡を残しながら引っ張られる。
トンネルの近くまで来てしまった。
(うっくさい…。通行止めの標識まである。明らかにヤバイ。)
班長棒を持っていた僕は必至でつかんでいた腕を叩く。
衝撃で腕はほどけ、掴まれた跡が真っ赤に腫れあがっている。
必死で走り、逃げ帰った。

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