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野良猫がいなくならない理由

茶トラの猫がいる。
休憩時間のお昼、お散歩に出たら住宅街の奥まった砂利道に猫がいた。
これまで出会った野良猫はだいたい逃げ出すか一定の距離を保って様子を伺うか、その二つだった。
無理だろうと思いながら、おいでと普段より3オクターブくらい高い声で呼び寄せる。しゃがみこみ、手をすしざんまいのように広げ、精一杯の敵じゃないアピール。
すると、トコトコと近付いてくる。あろうことか、私の横に座り込む。後ろ向きだ。
予想だにしない反応に、内心動揺しまくった。だが、猫は警戒心が強く、動くとすぐ逃げてしまうという経験則から、動かずに少し顔を猫に向け、目を極限まで隅の方へやり、猫を観察せんとする。
しっぽはくねくねとうねり、優雅に半円を描く。後ろ向きなので、顔は見えない。
これは、もしかしたら、撫でても良いということでしょうか…でもそんなことが有り得るのだろうか、初対面でエサなしで、人間という身分で、よろしいのでしょうか…!?と葛藤する。
一か八か、おしりの方を撫でてみた。ほんのり暖かい。猫特有の若干骨ばった華奢な身体だ。
意外と、すんなりと受け入れてくださったみたいで、辺りを見回している。
私は猫カフェでもエサなしでは一切構ってもらえなかった経験をもつため、このような猫もいらっしゃるのかと強烈にショックを受けた。
こんな可愛らしい猫様に何か少しでも還元させていただきたいと、ちゅーるでも買ってこようかと悩んでいるところに、日本赤十字社の軽バンが到着する。
なんだなんだなんだ??
なかからは、80代くらいだろうか、高齢のおばあちゃんが出てきた。他には、男性と女性の職員さんらしき人。
おばあちゃんは、猫に「どんちゃん」と声をかける。
!?この猫はおばあちゃんの飼い猫…?
なぜ日本赤十字社から来たのか、輸血されたのか?輸血後の帰宅?
様々な疑問が頭を駆け巡る。
すると、そばのスナックの方に3人とも入っていく。
どんちゃんと呼ばれた猫はその後を追う。
猫は中央付近に置かれた軽油ストーブの猫用ベッドで丸くなった。
職員さんは何かしらの書類をスナックの指定された棚に入れる。
次の訪問予定を確認し、帰ってしまった。
頭の中が?マークで埋め尽くされている私は、そのままおばあちゃんと会話を試みることにした。
「すみません、勝手に飼い猫ちゃん撫でちゃってて」
「いいのよ、よかったねどんちゃん。可愛いお姉さんになでなでしてもらったの。」
優しい方で良かった。
なんでも、日本赤十字社の軽バンは寄付で行政が貰ったものらしい。だから日本赤十字社とは全く関係なく、市の職員の方が近くに控える引越しに向けての手続きなどを手伝っていたらしい。
おばあちゃんは、今はやっていないけどスナックのママだったらしい。ここはスナック兼自宅というような位置付けか。
ごんちゃんは3歳。自由に外に出れるが、夜はスナックでおばあちゃんと寝るし、ごはんもお家で食べる。半分家猫 半分地域猫みたいなグレー猫のような雰囲気を感じた。(さくら耳なので去勢済みだとは思います)
おばあちゃんによるとオスの猫は甘えん坊で人懐っこいらしい。メスの猫はすぐどこかへ行ってしまうと。本能なのかは知らないが、警戒心が強く、人目のつかない所で子を産んで、育てるということを繰り返しているのではないかと。
なるほど、野良犬はいなくなっても野良猫はいなくならない訳だ。
おばあちゃんのスナックでしばらくどんちゃんと戯れ、お話をした後、スナックを後にした。

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