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脱ヒキニート体験記8 はじめてのお祈り

 サポステに通い始めて半年以上経っていた。
 ボランティア活動に参加しインターンを経験し、Office製品の基本的な操作ができるようになり、ビジネス能力検定3級も取得した。
 でもまだ全然、職にありつける気配がなかった。そうこうしているうちに仲良くなった歳の変わらない利用者がスーパーで品出しのアルバイトにありついた。

 あせる。彼が働いているのに私はまだ応募もしていない。
 彼と仲間たちとだらだら喋っていると、彼が自販機でジュースをおごると言い出した。
 サポステのある建物に据え付けられた自販機には、50円だかのしょうが湯があった。彼は私たちにそれをふるまってくれた。収入がなかった身の上からたった50円ずつでも人に奢れるようになった彼。ゲーム差が開いていることを実感した。
 
 いい加減、〝自信〟とか〝自己肯定感〟とか〝成功体験〟とか聞き飽きたんじゃないか。

 私は担当相談員に「ハローワークにつないでほしい」旨申し出た。
 サポステからハロワにつないでもらうことには大いにメリットがある。ハロワ側の担当者と毎回きちんとアポイントをとって、こちらの情報や特性や経歴を把握した人と密に意見交換しながら求人を探してもらうことができる。

 ハロワの担当者と自分が就職したい職種について話し合い、いくつかの求人票を出してもらった。
 正直そこで働いている自分をイメージできないものばかりだった。けれど、履歴書持参で即面接が受けられる求人があった。
 担当者は練習だと思って受けに行くように薦めてきた。「まかり間違って受かっちゃったとき断るのが申し訳ない」とか当時の私は言っていた。これがとても滑稽な発言だと気づくのはもう少し経ってからだ。
 結局ハロワの担当者とサポステの担当相談員に「あなたにとってここの面接を受けることにデメリットはない」と言われ、私にとって初めての就活が始まった。
 
 面接のために冠婚葬祭以外では着たことのなかったスーツを着て、降りたことのない駅へ向かう。
 早すぎてもいけないだろうけど道に迷うと困るからと早めに行った。雑居ビルの一室なのでどこから中に入るのか外からわかりづらい。
 周囲をうろうろ不審者ムーブしてエレベーターの場所を見つけた。閉所恐怖とまでは言わないが、階段のほうがいいんだけどなとか思っていた。
 いざ時間が近づきエレベーターに乗る。到着してエレベーターが開いたところで呼吸を整えようと思っていたら、エレベーター直オフィスだった。
 うろたえながら挨拶もそこそこに中に通され面接を受けた。
 面接官は若い人で感じのいい人だった。緊張や不安を隠すように饒舌になった。

 面接が終わり帰宅するとほどなくしてお祈りメールが来た。人生初のお祈りメールだ。
 すぐに不採用通知を出してくれるのはむしろ良心的だと思った。やきもきしないで済む。
 そこで働くイメージも持てていなかったからくやしさもなかった。むしろそのことを申し訳なく思った。
 就活と言えば複数社に平行してバリバリ応募して矢継ぎ早に面接を受けに行くイメージだ。はたして自分にそんな器用な芸当ができるのか。自分は働くことができるのか。改めて道のりは長いと思った。

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