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パートナーを愛している

 パートナーを愛している。しかしパートナーを愛すれば愛するほど、辻褄の合わない気持ちが芽生えてくることに気づいた。人生は誰しも一度きりだ。そしてこの国や多くの先進国の法律では配偶者は一人ずつと定められている。そのことが不思議でならない。まるで一人を愛せば愛するほど、他の人間を愛せる可能性が閉じていくようだ。
 もしも今のパートナーとは別の誰かと愛し合っていたらどうなっていただろう。いつものように仮定法過去完了の世界に迷い込む。その人がどんなときに笑い、涙し、どんな顔で好物を食べ、どんな声で歌うのか。浮気がしたいとか不倫がしたいとかって話ではない。自分ひとりの限られた人生では触れることができない領域というのが、この世には無数にあって、万が一その一端でも知ることができたらどんなに嬉しいことだろうと思っただけだ。
 パートナーの様々な反応を見て苦楽を共にし、喜びに身を任せるたびに、他の人ともこうした関係を築けなかったのだろうかと少しだけ思う。だって魅力的な人はこの世界にたくさんいる。
 人は一人の人間しか愛せないなんて嘘だ。それが本当なら子供が産まれた夫婦は、子供が複数いる夫婦は、家族の中の誰か一人しか愛せていないことになってしまう。一人しか愛さない人がいて、一人も愛せない人もいて、たくさんの人を愛せる人もいる。それだけのことな気がする。
 人を愛することが素晴らしいことであるなら、たくさんの人を愛せることもまた素晴らしいことだと思うのだけど。相続とか財産とかって言葉と紐づいた家族制度の中ではそうはいかないのだろうなあ。加えて自分の体も一つである以上、どうやっても優先順位をつけなければならない瞬間は発生する。だからこそ選ばれたことが嬉しかったんだ。

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