軍刀4

軍刀が見つかりました

こんにちは、浮草堂です。

 祖母宅の遺品整理が一段落つきました。
「家ごと根切りじゃ」と伯母が信長化する局面もありましたが。
 おおむね平和に終わったと思います。
 おおむね。
 そう、おおむねです。
 2つだけ、デカい腫瘍があったのですよ。
 1つは、筆屋をやっていたころの大量の在庫。
 はい、先日「文豪筆みくじ」の材料となったアレです。


 そして2つめ。

 軍刀。

 親族が誰一人どこにあるのかは知らないけれど、見つかったらどうしたらいいかわからない。銃刀法ってどうしよう。困る。
 そんな曾祖父の軍刀があるらしいのです。
「マジか。ほしい」
「アカン。ダメ。絶対」
「駅のポスターか。っていうか、おっきいおじいちゃんの所属どこやったん?」
「あたしもよう知らん。せやけど、陸軍とか海軍ってカンジやなくて、近所の見回りとかばっかりしてたらしいわ」


 ……憲兵の気配を察知!


 いやいや、うんうん。わかる。わかるよー。
 憲兵といえば戦時中の抑圧の象徴だもんな。戦後生まれは「反戦主義者殺し」とか思ってたりするもんな。孫(ママン)たちには隠したいよなー。
 
 だがひ孫はミリタリーファンタジー小説書きなんだ! 

誤解を防ぐために一応。
 わたくしは戦時中の治安維持法の暴走を肯定する者ではなく。また、リアルの方は反戦主義者です。
 だって、考えてみてくださいよ。
 北方領土占領や、東西冷戦や、天安門事件や、日本赤軍をリアルタイムで知った小林多喜二の作品、超読みたくないですか!?
 わたくしは読みたい。小林多喜二がそれらをどう昇華するのかめっちゃ気になる。蟹工船第二部を勝手に妄想しているくらい気になる。自由と平和の国ロシアを目指して、ロシア船舶に無断で乗り込んだあの学生。歓迎されるに違いないと笑顔で挨拶した瞬間、泥棒! と殴られて氷点下の海に投げ捨てられる第二部を妄想している。でも党生活者の方が好き。
 ね? 小林多喜二を殺した治安維持法と戦争はよくないでしょう?

 だが、ミリタリーは好きだ。

 ヲタクというほど詳しくないことを自覚できる程度に、大好きだ。
 軍刀、見たい。めっちゃ見たい。できることなら手に取りたい。素手で触りたい。愛してる。まだ見ぬ君。出逢わないままに終わるかもしれない恋。

「軍刀、見つかってしもたわ……」

 マジか! 走る!

 駆けつけた先にあったのがこちらです。

軍刀1

 入ってる! 刀袋に入ってる!
 あまりのときめきに手が震えます。
 そっと、中身を取り出しました。

軍刀2

 うあああああああ! バーニンラーーーーヴ!!!

軍刀3

軍刀4

 あ……、あああ……、これが鞘の感触……。これが鍔の感触……。夢にまで見たベルトに吊るための革……。拵えに触ってる……。触ってるよお……。
 はたから見れば、完全に性犯罪者です。
 いや、祖母の遺影の前でハアハアしているので、「おばば様が、見ておられるぞ!」の空間なのですが。
 喪服未亡人ものAVでよくあるじゃないですか。
「やめて……夫が見ています……」
 あれがマジでフィクション100%だと痛感しましたね。
 マジでハアハアしているときに、死んだ亭主のことなんか考えられない。
 死んだ亭主の遺影なんぞがちらつくんなら、無理矢理率100%。純粋性犯罪。
 生きてる亭主を生きてる女房の前で無理矢理なさっていただきたい。女房の同意か女房の依頼でなさっていただきたい。
 失礼。思い出しただけで理性が消えるもので、ついフィクション燃えシチュを暴露してしまいました。
 デカい腫瘍3つ目はわたくしかもしれません。

 ともかく、抜きたい。
 あ、そっちの意味ではないです。
 抜刀したい。
 そっちの意味ではないです。ついてもないです。
 刀身が見たい。
 立ち上がり、鞘を左手に。
 右手を柄にかけ。
 抜く!
 ……?
 ……あれ? 抜けない?
 もう一回座って抜こうとえんやこらしますが、0.1ミリも抜けない。
 錆びてるのかな。まあ、錆びない方がおかしいよな。入っていたタンスがもう発掘対象だったんだもんな。
 がっかりしながら立ち上がり。
 ハッ。
 ……この軍刀、軽すぎねえ?
 ええ、そうなのです。
 松山城で参加した、日本刀を持ち上げてみる体験コーナーを思い出します。

 確信。
 鉄が入ってる重量じゃないぞ、これ。
 ハッ。
 ま、まさか。
 まさか、まさかこんな出逢いがあるなんて……。
 この軍刀、木製だ……!
 イエス、イエス、イエス、あなたの思い出した記述通り。
 旧日本軍が物資欠乏のため、木製のハリボテ軍刀を支給したという記述通り。
 この軍刀は日本刀っぽくデコった木刀です。
 マジかーーーーー!!!
 一生……、一生会えないと思ってた……。
 旧日本軍の奇行セレクションの中でも、群を抜いた傑作……。
 逢いたかった! ずっと逢いたかった! ハリボテ軍刀様!

 危うく駆け落ちするところでしたが、ギリギリ我にかえり。
 ハリボテ軍刀様は、骨董商の方がお引き取りくださいました。
 さよなら。よい変態に出会えますように。

 ではでは、最後に「蟹工船・党生活者」のリンクを貼りまして。


See you!

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